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召喚少女! ~少女たちと召喚士が紡ぐ、カードと絆の物語~  作者: 和泉きよ


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028.捨てられたGR

「……あなたも、一人なの?」


ミナがそう尋ねると、少女は小さく頷いた。


「……うん」


少女は俯いたまま答える。


ミナは少し迷った。

自分だって、一人になったばかりだ。

何も知らない少女に話しかける余裕なんて、本当はない。


それでも。

なぜか放っておけなかった。


「……私はミナ」


「ミナ……?」


「うん。あなたは?」


少女は少しだけ顔を上げた。


桃色の髪が、街灯の光を受けて揺れる。


「……リリ」


「リリちゃん……」


「うん」


リリは小さく笑った。

けれど、その笑顔にはどこか寂しさがあった。


「ミナは……どこから来たの?」


「……遠くから」


ミナは少しだけ言葉に詰まった。


「家を出てきたの」


「家出?」


「……うん」


リリは驚いたように目を丸くした。


「どうして?」


「それは……」


ミナは答えられなかった。


本当の理由を話すには、まだ心の準備ができていない。


だから。


「修行に行くため」


そう答えた。


「もっと強くなるために、家を出てきたの」


リリはじっとミナを見る。


「……そっか」


それ以上は聞かなかった。


その優しさが、今のミナには少しだけありがたかった。


   ◇


「リリちゃんは?」


今度はミナが尋ねた。


「どうして一人なの?」


「……私?」


リリは笑おうとした。


けれど。


今度は笑えなかった。


「私は……捨てられたの」


「……え?」


ミナの表情が変わる。


「捨てられたって……」


「前の召喚士に」


リリは自分の胸元に手を当てた。


「私、召喚少女だから」


「……!」


ミナは目を見開いた。


「召喚少女……」


「うん」


リリは頷く。


そして、少しだけ悲しそうに笑った。


「しかも、GR」


「……GR?」


ミナの胸が、わずかに痛んだ。


自分がずっと意識していたもの。

自分より上のレアリティ。

ミナは思わず、リリを見つめた。


「……GRなの?」


「そうだよ」


リリは答えた。


「私、《花咲く少女リリ》っていうGRカードなの」


「……」


ミナは何も言えなかった。


GR。


それなら。


自分よりずっと強いはず。

きっと、すごい少女なのだろう。


なのに――。


「どうして……捨てられたの?」


ミナが尋ねる。


リリはしばらく黙っていた。


そして。


小さな声で答えた。


「……弱いから」


「え?」


「前の召喚士がね」


リリは膝を抱える。


「もっと強いGRを手に入れたの」


「……」


「それから、私を使わなくなった」


ミナは息を呑んだ。


「最初は、たまたまだと思ってた」


リリは続ける。


「今日は別の子と戦うんだって」


「明日は私を使ってくれるって」


「そう思ってた」


けれど。


次の日も。


その次の日も。


リリが呼ばれることはなかった。


「そしてある日……」


リリは俯いた。


「もう必要ないって言われた」


「……」


「だから、置いていかれた」


その言葉が、ミナの胸に突き刺さった。


「置いていかれた……?」


「うん」


リリは小さく笑った。


「だから私、ずっと一人だった」


   ◇


ミナは何も言えなかった。


自分はSR。


リリはGR。


レアリティだけを見れば、リリのほうがずっと上だ。


それなのに。


「……GRでも、捨てられるんだ」


思わず口からこぼれた。


リリがミナを見る。


「え?」


「ご、ごめん……」


ミナは慌てて首を振る。


「なんでもない」


けれど。


胸の中には、ある感情が生まれていた。


自分はSRだから。


だから必要とされないのだと思っていた。


でも。


GRであるリリも。


必要とされなかった。


「……レアリティだけじゃないんだ」


ミナは小さく呟いた。


リリには、その言葉の意味が分からなかった。


「何が?」


「ううん……」


ミナは首を振る。


「なんでもないよ」


   ◇


しばらく二人は黙っていた。


夜風が吹く。


リリの桃色の髪が揺れた。


「ねえ、ミナ」


「なに?」


「ミナは……帰る場所、ある?」


その質問に。

ミナの胸がズキッと痛んだ。


「……あるよ」


「そっか」


「……でも」


ミナは少し間を置いて答えた。


「今は、帰れない」


「どうして?」


「……私にも、いろいろあるの」


リリはそれ以上聞かなかった。


ただ。


「そっか」


とだけ言った。


その声があまりにも優しくて。


ミナは少しだけ泣きそうになった。


   ◇


「……リリちゃんは?」


「私?」


「帰る場所は?」


リリは困ったように笑った。


「ないよ」


「……」


「もう、私を呼んでくれる召喚士はいないから」


その言葉を聞いた瞬間。

ミナは胸が締め付けられるような感覚を覚えた。


自分にも、帰る場所がある。


なのに。


自分から離れてきた。


リリには。


帰る場所そのものがない。


「……じゃあ」


ミナは少し迷ってから言った。


「これから、どうするの?」


「分からない」


リリは首を振った。


「ずっと歩いてたら、どこかに行けるかなって」


「私と……同じだね」


「え?」


「私も、どこに行くのか決めてないから」


二人は顔を見合わせる。


そして。


「……ふふっ」


「……ふふ」


小さく笑った。


ほんの少しだけ。


二人の間にあった距離が縮まった。


   ◇


「ねえ、ミナ」


「なに?」


「……少しだけ、一緒にいてもいい?」


リリが遠慮がちに尋ねる。


ミナは少し驚いた。


そして。


「うん」


頷いた。


「私も、一人だと寂しいから」


「……ありがとう」


リリは嬉しそうに笑った。


その笑顔を見て。

ミナも少しだけ笑った。


SRの自分。


GRのリリ。


レアリティは全然違う。


それでも。


今の二人には、同じものがあった。


――自分には居場所がない。


だからこそ。


「……一緒に歩こうか」


ミナが言う。


「うん!」


リリは頷いた。


二人は並んで歩き始めた。


行く先は、まだ分からない。


帰る場所も、まだ分からない。


それでも。


一人ではなくなった。


ミナは久しぶりに、ほんの少しだけ心が軽くなるのを感じていた。


そして、この出会いが。


後に自分の人生を大きく変えることになるとは――。


この時のミナは、まだ知らなかった。


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