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召喚少女! ~少女たちと召喚士が紡ぐ、カードと絆の物語~  作者: 和泉きよ


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23/40

023.最初の1枚

 店の奥。


 古びたショーケースの前で、ユウは立ち尽くしていた。


 そこに飾られているのは、一枚のカード。

 今ではほとんど見かけなくなった、召喚少女の初期版カードだった。


「……これが、最初の召喚地点?」


 ユウは呟いた。


 カードショップそのものが特別なのか。


 それとも、このカードに何か意味があるのか。


 まだ分からない。


 ただ一つだけ確かなことがあった。


 胸元にあるルナのカードが、ずっと淡く光り続けている。


「ルナ……」


 ユウはカードを取り出した。


 月の紋章。


 その光は、ショーケースの中にある初期版カードへ向かって伸びていた。


「やっぱり、このカードだ」


 フィアが興味深そうに近づく。


「ちょっと見せて」


 店員に許可をもらい、フィアが初期版カードを確認する。


「……面白い」


「何か分かった?」


「うん。このカード、今のカードとは少し違う」


「違う?」


「表面のデザインじゃなくて、裏側」


 フィアがカードを裏返した。


 現在の召喚少女カードとは異なる、古い紋章が刻まれている。


「このマーク、今のカードにはないんだよね」


 ノアも覗き込む。


「……古い召喚システムのマーク」


「知ってるの?」


「資料で見た」


 ノアは淡々と答えた。


「初期の召喚少女には、現在のゲームには存在しない機能があった」


「それが封印と関係してる?」


「可能性は高い」


 ユウはカードを見つめた。


 そのとき。


「ちょっと待って」


 フィアが声を上げた。


「ここ、何か書いてある」


「どこ?」


 カードの裏側。


 ほとんど見えないほど小さな文字が刻まれていた。


 フィアが読み上げる。


「『召喚とは、少女を呼び出すことにあらず』……?」


 全員が黙った。


 その続き。


「『心と心を結ぶことで、少女は召喚主の世界に存在する』」


「……」


 ユウは言葉を失った。


 さらに下には、もう一文。


『最初の一枚を忘れた者は、最後の一枚にも辿り着けない』


「最初の一枚……」


 ユウはルナのカードを見る。


「ルナのことだ」


 フィアが頷く。


「たぶんね」


 ユウの胸が締めつけられた。


 自分は、最初の一枚を忘れていた。


 強いカードを集めることに夢中になって。


 新しいGRを手に入れることばかり考えて。


 いつの間にか。

 ルナを「最初のカード」としてしか見なくなっていた。


「……違う」


 ユウは首を横に振った。


「最初のカードだから大切なんじゃない」


「ユウ……?」


「ルナだったから、大切だったんだ」


 自分でも驚くほど、はっきりと言えた。


     ◇


「ところで」


 店員が、少し遠慮がちに口を開いた。


「そのカードについて、一つ思い出したことがあります」


「何ですか?」


「昔、この店には……召喚少女のイベントスペースがあったんです」


「イベントスペース?」


「ええ。初期の頃だけ使われていた場所で」


 店員は店の奥を指差した。


「今は倉庫になっていますけど」


「そこに何かあるんですか?」


「分かりません。ただ……」


 店員は少し考える。


「初期版カードの大会では、最後に必ず“召喚儀式”のようなイベントをやっていたんです」


「召喚儀式?」


「ゲームの演出ですよ。召喚主と少女妖精の絆を確認するイベントです」


 ユウの目が見開かれる。


「絆を……確認?」


「はい」


「その場所、見せてもらえますか?」


「構いませんよ」


     ◇


 倉庫。


 埃をかぶった棚の奥。


 古いポスターや大会備品が積まれていた。


 エルナが丁寧に整理していく。


「こちらにはありません」


「こっちも違う」


 フィアも資料を探す。


「昔の大会記録……」


 レイナは壁に貼られた古いポスターを見つめていた。


「これは……」


「どうした?」


 ユウが近づく。


 そこには、初期版召喚少女の大会ポスター。


 中央に、一人の少女が描かれている。


 銀色の髪。


 青紫色の瞳。


 月の紋章。


「……ルナ?」


 ユウが息を呑む。


 しかし。


 よく見ると、それは現在のルナとは少し違う。


「初期版の看板キャラクターみたいですね」


 ミレイが言った。


「そういえば、ルナは最初からGRだった」


 ユウは思い出す。


 最高レアリティ。


 最初の一枚。


 なぜ自分が、たった一パックからルナを引いたのか。


 偶然だと思っていた。


 ただの幸運。


 けれど――。


「……もしかして」


 ユウは自分のカードを見る。


「最初から、ルナが僕を選んでたのかな」


 モモが目を輝かせた。


「それ、ありそう!」


「でも、そんなことが可能なの?」


 アリスが首を傾げる。


「カードが召喚主を選ぶなんて……」


「初期設定なら、あり得るかもしれません」


 フィアが答えた。


「現在のゲームでは廃止されたけど、昔は“少女側から召喚主を選ぶ”システムが試験的に存在した可能性がある」


「じゃあ……」


 ユウはカードを握る。


「ルナは、僕を選んでくれた?」


 誰も答えられない。


 けれど。


 その可能性を考えるだけで、胸が熱くなった。


     ◇


 さらに探していると。


「ありました!」


 エルナの声。


 全員が振り返る。


 エルナが一冊の古いファイルを持っていた。


「『召喚少女・初期システム資料』とあります」


「見せて!」


 フィアが受け取る。


 ページをめくる。


 古い設定資料。


 没になったルール。


 初期のカードデザイン。


 そして――。


「……あった」


 フィアの指が止まった。


「封印について書かれてる」


 ユウが隣から覗き込む。


 そこには、こう記されていた。


『少女妖精は、召喚主との絆が失われた場合、カードへ帰還する』


『ただし、絆が完全に消失した場合でも、少女の記憶まで失われるわけではない』


「……記憶は、残ってる?」


 ユウが呟く。


「そうみたい」


 フィアが続ける。


「そして、封印解除について」


 ページをめくる。


 そこには一つの言葉があった。


『再召喚』


「再召喚……?」


「うん」


 フィアは文章を読む。


「『封印された少女妖精を再召喚するには、召喚主が少女との絆を取り戻す必要がある』」


「じゃあ、どうやって?」


 ユウが身を乗り出す。


 フィアは次の行を読む。


「『少女と初めて出会った場所へ戻り、最初の召喚を再現せよ』」


 ユウの目が見開かれた。


「……最初の召喚を?」


「そう」


 さらに、その下。


『召喚主が初めて少女を必要とした理由を思い出したとき、封印されたカードは再び召喚への道を開く』


「……」


 ユウは何も言えなかった。


 最初の召喚。


 あの日。


 自分は何を求めていたのだろう。


 退屈だった。


 何か新しいことを始めたかった。


 それだけだった。


 でも。


 パックを開けて。


 ルナを引いて。


 彼女を召喚して。


 初めて声を聞いた。


 そして。


 一緒に戦った。


 勝った。


 負けた。


 笑った。


 悔しがった。


 いつの間にか。


 カードゲームをすることそのものより。


 ルナと一緒にいることが楽しみになっていた。


「……分かった」


 ユウが立ち上がる。


「僕、もう一度やってみる」


「再召喚を?」


「うん」


 ルナのカードを胸に抱く。


「最初にルナを召喚した場所で」


 そして――。


「もう一度、ルナを呼ぶ」


     ◇


 店を出る前。


 ユウは、一人で最初にパックを買った棚の前に立った。


 十日前までなら。


 ここに立つだけで、カードを買いたくなっただろう。


 新しいパック。


 新しいGR。


 新しい可能性。


 でも今は違う。


 ユウは財布を取り出した。


 そして、一つのパックを手に取った。


「……」


 みんなが見守る。


 ユウはパックを見つめた。


 あの日と同じ。


 最初の一パック。


 これが、すべての始まりだった。


「これを開ければ……」


 ユウはルナのカードを見る。


「また会えるのかな」


 答えはない。


 それでも。


 不思議と怖くなかった。


 ユウはパックを握った。


「行こう、ルナ」


 月の紋章が、強く光った。


 それを見たモモが叫ぶ。


「光った!」


「……!」


 ユウは目を見開く。


 今までとは違う。


 確かに。


 ルナのカードが、はっきりと光っている。


「ルナ……」


 ユウは笑った。


「待ってて」


 カードを胸に抱く。


「今度は、僕が君を呼ぶ」


 最初の一枚。


 そこに込められていた意味を、ユウはようやく理解した。


 これは。


 ただのカードではない。


 ユウとルナが始まった証。


 そして――。


 二人がもう一度出会うための、最後の鍵だった。


 ユウは、最初の召喚をもう一度行う。


 ルナを取り戻すために。


 そして。


 もう一度、彼女の名前を呼ぶために。


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