022.ルナを探して
ルナが封印されてから、十日。
ユウは毎日、召喚少女について調べていた。
公式サイト。
ルールブック。
カードショップの資料。
大会参加者が集まる掲示板。
古い攻略本まで探した。
けれど――。
「……ない」
机の上には、何冊もの本が積み重なっている。
どれだけ探しても、封印された少女を具体的に救う方法は見つからなかった。
「絆によってのみ開かれる……か」
ユウはルールブックに書かれた一文を見る。
その先に何があるのか。
どこへ行けばいいのか。
何をすればルナに会えるのか。
何一つ分からない。
「……どうすればいいんだ」
ユウは椅子にもたれた。
そのとき。
「ユウ」
声がした。
顔を上げると、ミレイが立っている。
「少し休んだほうがいいですよ」
「でも……」
「分かっています」
ミレイは机の上の資料を見る。
「ルナを探しているのでしょう?」
「うん」
ユウはルナのカードを手に取った。
「何とかして、戻してあげたい」
「……でしたら」
ミレイは微笑んだ。
「私たちにも手伝わせてください」
「え?」
「私だけではありません」
ミレイが振り返る。
「みんな、そう思っています」
◇
リビング。
そこには、ユウが召喚した少女たちが集まっていた。
ミナ。
ミレイ。
モモ。
セレス。
ノア。
クロエ。
エルナ。
フィア。
ユフィ。
そして、レイナ。
普段なら賑やかな部屋。
しかし今日は、誰も騒いでいなかった。
テーブルの中央には、一枚のカード。
ルナのカードだ。
「……」
ユウは少女たちを見た。
「みんな、本当に手伝ってくれるの?」
「もちろん!」
モモが真っ先に答えた。
「ルナちゃんは私たちの仲間だもん!」
「そうですね」
ミレイも頷く。
「それに……」
少しだけ寂しそうに笑う。
「私が召喚されたばかりの頃、ルナは私にいろいろ教えてくれました」
「そうだったな」
ユウも思い出す。
ミレイが初めて家に来た日。
ルナは少し戸惑いながらも、ミレイにこの世界のことを説明していた。
「私も手伝うわ」
セレスが腕を組む。
「ルナは、私がこの家に来たときからずっと、あなたの隣にいましたもの」
「セレス……」
「それに」
セレスは少しだけ視線を逸らした。
「……あの方がいないと、調子が狂いますわ」
モモが笑う。
「セレスちゃん、ルナちゃんのこと好きなんだね!」
「なっ……!」
セレスの顔が赤くなる。
「べ、別にそういう意味ではありませんわ!」
少しだけ。
いつもの空気が戻った。
ユウは微笑んだ。
「ありがとう」
そして、ノアが口を開いた。
「……探すなら、情報を分けたほうがいい」
「情報?」
「私はカードゲームのシステムを調べる」
ノアは淡々と言う。
「封印条件。過去の事例。召喚条件。全部確認する」
「じゃあ、私は昔のカードについて調べる!」
フィアが手を挙げた。
「古いカードには、今では使われていない能力や設定が残っていることがあるからね!」
「私はカードショップを回ります!」
エルナが続く。
「古い資料が残っていないか確認してみます」
「じゃあ、私は運担当!」
モモが胸を張った。
「ルナちゃんがいる場所を、私の運で探す!」
「……それは少々心配ですが」
レイナが苦笑する。
「しかし、手段を選んでいる場合ではありませんね」
レイナは地図を広げた。
「私は大会関係者に聞いてみましょう。召喚少女には長い歴史があります。封印について知っている者がいるかもしれません」
「私は……」
ユフィが手を挙げた。
「裏情報を探してみる♪」
「裏情報?」
「公式には書かれてない話って、意外とあるのよ」
ユフィは楽しそうに笑った。
「昔、封印された少女を見たっていう噂とかね」
「なるほど……」
ユウは頷いた。
一人では何もできなかった。
でも。
みんなが力を貸してくれる。
「みんな……」
ユウは深く頭を下げた。
「本当にありがとう」
「頭を上げてください」
ミレイが言う。
「これは私たち自身のためでもありますから」
「私たちのため?」
「はい」
ミレイはルナのカードを見る。
「ルナが戻ってきてほしいと思っているのは、ユウだけではありません」
ユウは言葉を失った。
◇
それから数日間。
みんなは、それぞれの方法で情報を集めた。
フィアは古いカードデータを調べた。
ノアは過去のルール変更を確認した。
エルナはカードショップを何軒も回った。
レイナは大会関係者から話を聞いた。
ユフィは噂を集めた。
そしてモモは――。
「……何してるの?」
ユウが尋ねると、モモは真剣な顔で床にカードを並べていた。
「ルナちゃんが戻ってくる方向を占ってるの!」
「カードで?」
「うん!」
「それって公式の方法?」
「もちろん違うよ!」
「……」
ユウは苦笑した。
けれど。
そんな時間さえ、少し楽しかった。
ルナがいた頃の家とは違う。
でも。
みんながルナのことを考えてくれている。
そのことが嬉しかった。
◇
五日目。
フィアが声を上げた。
「見つけた!」
「何を?」
ユウが駆け寄る。
フィアは古いデータを表示した。
「昔の召喚少女には、今のルールにはない“封印解除条件”が存在していたみたい」
「本当?」
「うん」
そこには古いルールの記録があった。
しかし。
「……ここから先がない」
「え?」
「データが欠損してる」
ユウの表情が曇る。
「じゃあ、分からないの?」
「完全にはね」
フィアは少し考えた。
「でも、一つだけ気になる記述がある」
「何?」
「最初の召喚地点」
ユウの目が止まった。
「……最初の召喚地点?」
「そう」
フィアは古い文章を拡大した。
「封印された少女を探す場合、召喚主は『最初に少女と出会った場所』へ戻るべき――」
その先は文字が消えていた。
「これだけ?」
「うん」
ユウは黙って考えた。
最初に少女と出会った場所。
当然、思い浮かぶ。
カードショップ。
あの日。
仕事帰りに偶然立ち寄った店。
そこで「召喚少女」を知った。
そして。
一パックだけ買った。
「……カードショップ」
ユウが呟く。
「僕とルナが初めて出会った場所だ」
「行ってみる価値はあると思います」
ミレイが言った。
「うん」
ユウは頷いた。
「明日、行こう」
◇
その夜。
ユウは一人でルナのカードを見ていた。
「……最初の場所か」
カードの中のルナは、いつものように静かに笑っている。
「覚えてるよ」
ユウは話しかけた。
「初めて会った日のこと」
あの日。
ルナは月光の中から現れた。
『あなたが私の召喚主?』
ユウは思い出す。
あのときは、ただ驚いていた。
ゲームの中の少女が、本当に目の前に現れた。
それだけで嬉しかった。
強いとか。
弱いとか。
大会で勝てるとか。
そんなことは、何も考えていなかった。
「……あの頃に戻れたらな」
ユウは小さく笑った。
けれど。
戻ることはできない。
だからこそ。
「もう一度、始めるんだ」
カードを大切にしまう。
「今度は、ちゃんとルナと向き合う」
◇
翌朝。
ユウたちは最初のカードショップへ向かった。
扉を開ける。
店内には、あの日と同じように召喚少女のポスターが貼られている。
ユウは足を止めた。
懐かしい。
ここから始まった。
たった一パック。
それが、すべての始まりだった。
「……」
ユウは店内を見回す。
すると。
「ユウ」
レイナが声をかけた。
「あれを」
店の奥。
ショーケースの端に、古いカードが一枚飾られていた。
「……?」
ユウが近づく。
カードの隣に、小さな説明札が置かれている。
そこには――。
『召喚少女・初期版』
と書かれていた。
「初期版……?」
ユウがカードを見つめる。
その瞬間。
胸元のルナのカードが――。
淡く光った。
「……!」
ユウは驚いてカードを取り出す。
月の紋章が、これまでよりも強く輝いていた。
「ルナ……?」
カードの光が、店の奥へ伸びる。
まるで何かを示すように。
ユウは息を呑んだ。
「……ここに、何かある」
最初の一枚。
最初の召喚。
そして――。
封印されたルナ。
すべてが、一つにつながり始めていた。
「待ってて」
ユウはカードを握る。
「今度こそ、迎えに行くから」
月の紋章が、もう一度だけ光った。
そして。
物語は、最後の手がかりへと動き始める。




