024.もう一度、召喚
手には一枚のカード。
GR《月光の少女 ルナ》。
そして、新しい一パック。
最初にルナを召喚した、あの日と同じもの。
「……」
ユウはカードを握りしめる。
緊張していた。
これで本当にルナが戻ってくるのか。
何度考えても分からない。
けれど。
やるしかない。
「やろう」
ユウの後ろには、ミレイたちもいた。
「私たちも一緒に見守ります」
ミレイが微笑む。
「当然ですわ」
セレスも腕を組む。
「ルナには、戻ってきてもらわないと困りますもの」
「ルナちゃん、待っててね!」
モモが元気よく言う。
「……」
ノアは静かに頷いた。
「大丈夫」
その言葉に、ユウは少しだけ勇気をもらった。
◇
ユウが召喚少女を始めた、最初の場所。
あの日と同じ景色が広がっていた。
カードが並んだ棚。
大会用のテーブル。
壁に貼られた召喚少女のポスター。
そして。
あの日、最初のパックを手に取った場所。
「……ここだ」
ユウは立ち止まった。
胸の奥が熱くなる。
思い出す。
仕事帰り。
何となく立ち寄った。
何となく買った。
何となく開けた。
それだけだった。
なのに。
人生で一番大切な出会いが、そこで始まった。
「ユウ」
ミレイの声。
「準備はできましたか?」
「うん」
ユウは頷いた。
召喚台を借りる。
そして。
ルナのカードを置く。
画面が起動した。
『召喚カードを確認』
そこに表示される。
【GR《月光の少女 ルナ》】
【状態:封印】
【絆ポイント:0】
【召喚不可】
やはり。
まだ封印されたままだ。
「……」
ユウは目を閉じた。
そして。
最初の日を思い出す。
初めてカードを開いたとき。
GRという文字を見たとき。
そして。
ルナが現れたとき。
『月光に導かれて、私はここに来た。あなたが私の召喚主?』
あの声。
あの笑顔。
あの瞬間。
「……もう一度」
ユウは目を開いた。
「もう一度、会いたい」
召喚台に手を置く。
「ルナに会いたい」
画面が反応した。
ピッ。
電子音が鳴る。
けれど。
まだ召喚は始まらない。
ユウはカードを見つめた。
「ルナ」
声が震える。
「僕は……君に謝りたい」
カードは静かに光っている。
「ごめん」
一言。
それだけだった。
「君がずっと僕の隣にいてくれたのに」
「僕は、新しいカードばかり見てた」
「強くなりたくて」
「勝ちたくて」
「いつの間にか……君と一緒にいることより、カードの強さを優先してた」
涙がこぼれる。
「君が『私はユウにとって何なの?』って聞いたとき」
ユウは唇を噛んだ。
「僕は『相棒』って答えた」
でも。
「その言葉だけで、君を大切にしたつもりになってた」
ルナのカードを両手で包む。
「……ごめん」
「僕は、君を失って初めて気づいた」
声が震える。
「勝つことより」
「強いカードを持つことより」
「君と一緒に笑ってた時間のほうが……ずっと大切だった」
その瞬間。
カードが光った。
「……!」
白い光。
月の紋章が輝く。
画面が変化した。
【絆反応を確認】
【召喚主の記憶を確認】
【最初の召喚を再現】
【封印解除条件――達成】
「……!」
ユウは息を呑んだ。
「ルナ……!」
光が召喚台から溢れ出す。
白い光。
月明かりのような光が、店内いっぱいに広がった。
風が起こる。
銀色の光が舞う。
そして――。
その中心に。
一人の少女が立っていた。
銀色の髪。
青紫色の瞳。
白と紺を基調とした衣装。
背中には、月光のように透き通った翼。
手には、月光の剣。
ユウは言葉を失った。
「……」
少女がゆっくり目を開く。
青紫色の瞳が、ユウを見つめる。
「……ユウ」
その声。
忘れるはずがなかった。
「ルナ……」
少女は少しだけ頬を膨らませた。
「遅いよ」
ユウの目から、涙が溢れた。
「ごめん……!」
ルナはしばらく黙っていた。
そして。
「……本当に」
小さく息を吐く。
「本当に、遅い」
「うん」
「ずっと待ってたんだから」
「うん……」
「私、すごく怒ってるから」
「……うん」
「いっぱい言いたいことがあるから」
「……うん」
ルナは目を逸らした。
けれど。
その口元は、ほんの少しだけ笑っていた。
「でも……」
ユウを見る。
「帰ってきてほしいって思ってくれたことは……嬉しい」
ユウは何度も頷いた。
「ありがとう」
ルナは胸元に手を当てる。
「私も……もう一度、あなたのところに戻りたかった」
その言葉に。
ユウは涙を拭った。
「ルナ」
「なに?」
「もう一度、僕と一緒に戦ってくれる?」
ルナは少しだけ驚いた顔をした。
そして。
月光の剣を手に取る。
「……もちろん」
一歩、ユウの前へ出る。
「私は、あなたの相棒だから」
「……!」
「でも」
ルナは指を一本立てた。
「今度は、ちゃんと私を見て」
「うん」
「カードの強さじゃなくて」
「うん」
「私自身を」
ユウは迷わず答えた。
「分かった」
「約束?」
「約束」
ルナは笑った。
「……じゃあ」
手を差し出す。
「もう一度、始めよう」
ユウはその手を取った。
「うん」
その瞬間。
召喚台が大きく光った。
【GR《月光の少女 ルナ》】
【封印解除】
【絆ポイント:50】
【特殊状態:再契約】
そして。
新しい表示が現れる。
【召喚主との絆を確認】
【特殊スキル《相棒契約》再起動】
ルナの身体を月光が包む。
銀色の髪が光を受けて輝く。
「……なんだか」
ルナが自分の手を見る。
「前より力が戻ってる気がする」
ユウは画面を見る。
【相棒契約】
【絆ポイント50以上】
【ユウとルナが再契約しました】
「再契約……」
ユウが呟く。
ルナは微笑んだ。
「一度壊れた絆でも」
そして。
「もう一度、大切にすれば結び直せるんだね」
ユウは頷いた。
「うん」
◇
その日の帰り道。
ユウとルナは、並んで歩いていた。
以前と同じ道。
けれど。
以前とは少し違う。
ユウは何度もルナを見る。
すると。
「……何?」
ルナが少し恥ずかしそうに尋ねる。
「いや」
ユウは笑った。
「本当に戻ってきたんだなって」
「当たり前でしょ」
ルナは前を向く。
「私は、そう簡単には消えないんだから」
「でも……」
「なに?」
「ありがとう」
「……うん」
ルナも小さく答えた。
◇
家に戻る。
「ルナちゃん!」
モモが真っ先に駆け寄る。
「おかえり!」
「ただいま」
ミレイも微笑む。
「おかえりなさい、ルナ」
「うん」
セレスも腕を組む。
「随分と待たせてくれましたわね」
「ごめん」
ノアは短く。
「……戻ってきてよかった」
「ありがとう」
エルナが紅茶を用意する。
「お祝いの準備ができています」
「えっ」
ルナが目を丸くする。
テーブルには料理が並んでいた。
「……みんな」
ルナの瞳が少し潤む。
「ありがとう」
その光景を見て。
ユウは思った。
この時間を、もう二度と失いたくない。
強いカードも。
大会の優勝も。
賞金も。
全部、大切だ。
けれど。
それ以上に。
こうして一緒に笑えることが、大切だった。
「ルナ」
「なに?」
「明日も一緒にいられる?」
ルナは一瞬、驚いた。
そして。
優しく笑った。
「……うん」
その答えを聞いて。
ユウも笑った。
けれど。
まだ終わっていない。
ルナが戻ってきた。
それだけではない。
これまで一緒に戦ってきた少女たちもいる。
ならば。
最後にやるべきことが一つある。
ユウは机の上に置かれた大会案内を見る。
次の大会。
そこで、もう一度戦う。
今度は――。
ルナと。
そして、みんなと。
「……もう一回、勝負しよう」
ルナが振り返る。
「うん!」
月光の少女は笑った。
その笑顔は。
ユウが初めて彼女を召喚した日の笑顔と、同じだった。
ただ一つ違うのは――。
今度は。
ユウがその意味を、ちゃんと知っていることだった。




