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召喚少女! ~少女たちと召喚士が紡ぐ、カードと絆の物語~  作者: 和泉きよ


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20/42

020.勝てるのに

 ルナが封印されてから、一週間。


 ユウは、再び大会に出ていた。


「第一試合、開始します!」


 対戦台の向こう側には、見覚えのない召喚士が座っている。


 ユウはデッキを確認した。


 先頭に入っているのは、レイナ。


 攻撃役はクロエ。


 守備を担当するノア。


 状況に応じてエルナやセレス、ミレイも入れ替える。


 かつてなら、完璧だと思えるデッキだった。


「……よろしくお願いします」


「こちらこそ!」


 対戦開始。


 先攻はユウ。


 召喚エネルギーを使い、レイナを召喚する。


「私を呼んだのね」


 黒と金の衣装をまとったレイナが、フィールドに降り立つ。


「はい。今日もお願いします」


「ええ。勝ちましょう」


 レイナの指揮によって、ユウの少女たちが動き出す。


 クロエが敵を削る。


 ノアが攻撃を受け止める。


 エルナが味方を支援する。


 相手がイベントカードを使えば、フィアが対応する。


 回復が必要ならミレイ。


 最後はセレスの一撃。


 戦術としては、ほとんど隙がない。


「……強い」


 対戦相手が呟く。


 ユウの盤面を見て、苦笑した。


「すごいですね。そんなにGRを揃えてるなんて」


「ありがとうございます」


 ユウは答えた。


 以前なら、その言葉を聞けば嬉しかった。


 もっと強くなった。


 もっと勝てるようになった。


 そう思えた。


 けれど。


「……」


 今は、何も感じなかった。


 ただ、次の手を考えている。


「レイナ、攻撃」


「承知しました」


 敵の少女が倒れる。


 そのまま直接攻撃。


 召喚士ゲージが20から0になる。


『WIN』


 勝利。


 大会スタッフが結果を確認する。


「ユウ選手、勝利!」


 周囲から拍手が起こった。


「やった!」


「強いな!」


「また勝ったぞ!」


 少女たちも喜んでいる。


 レイナが振り返った。


「見事な勝利でした」


「うん」


 ユウは小さく頷いた。


「ありがとう」


 それだけだった。


     ◇


 第二試合。

 勝った。


 第三試合。

 勝った。


 第四試合。

 勝った。


 準々決勝。

 勝った。


 準決勝。

 勝った。


 そして――。


「決勝戦、終了!」


 最後の一撃をレイナが決めた。


『WIN』


「優勝は――天城ユウ選手!」


 会場が大きく沸いた。


 ユウは優勝トロフィーを受け取った。


 賞金も、これまでで最高額だった。


「おめでとうございます!」


「ありがとうございます」


 カメラのフラッシュが光る。


 インタビューを受ける。


「天城選手、素晴らしい勝利でした。今回の優勝について、一言お願いします」


 ユウはマイクを向けられた。


「……」


 何を言えばいいのか分からなかった。


 以前なら。


 ルナとなら。


 きっと――。


『ユウ! やったね!』


 そう言ってくれただろう。


 試合が終わった瞬間、誰よりも先に笑ってくれた。


 負けたときには、一緒に悔しがってくれた。


 勝ったときには、自分のことのように喜んでくれた。


 でも。


 今、その場所にはルナがいない。


「……とても、嬉しいです」


 ユウはそう答えた。


 けれど。


 自分でも分かっていた。


 嘘だった。


 少なくとも、以前感じていたような嬉しさではない。


     ◇


 大会が終わった。


 家に戻ると、みんなが祝ってくれた。


 ミレイが微笑む。


「優勝、おめでとうございます」


「おめでとう!」


 モモが飛び跳ねる。


 セレスも満足そうに頷いた。


「当然の結果ですわね」


 ノアは短く言った。


「……強かった」


 エルナは拍手をする。


「素晴らしい戦いでした」


 みんなが祝ってくれる。


 テーブルには料理も並んでいた。


 以前のユウなら、ここで笑っていた。


 みんなで優勝を喜び。


 今日の試合を振り返り。


 次の大会の話をして。


 そして――。


「ルナ」


 無意識に、その名前を口にしていた。


 部屋が静かになる。


「……」


 ユウは、自分が何を言ったのか理解して、口を閉じた。


 そこにルナはいない。


 当然だ。


 封印されている。


 机の上には、ルナのカードだけが置かれている。


 ユウはカードを見る。


 月光の中で笑っている少女。


 自分が初めて召喚した少女。


 最初の一枚。


「……」


 優勝トロフィーを見た。


 そして、ルナのカードを見た。


 胸の中に、ぽっかりと穴が空いているような感覚。


「ユウ……」


 ミレイが心配そうに声をかける。


「大丈夫」


 ユウは笑おうとした。


「優勝したんだから」


 そう言った。


 けれど。


 笑顔はうまく作れなかった。


     ◇


 夜。


 みんなが寝静まったあと。


 ユウは一人、リビングにいた。


 机の上には優勝トロフィー。


 その隣に、ルナのカード。


「……勝ったよ」


 ユウはカードに話しかけた。


「今日も勝った」


 返事はない。


「決勝も、ちゃんと勝てた」


 返事はない。


「レイナもクロエも、ノアも……みんな強かった」


 それでも。


 何も感じない。


 ユウはトロフィーを手に取った。


 ずっしりとした重さ。


 優勝した証。


 賞金もある。


 これで、もっと強いカードを買える。


 新しいパックも買える。


 もっと強いデッキを作れる。


 以前なら、それだけで嬉しかった。


 なのに。


「……なんでだろう」


 ユウはトロフィーを置いた。


「勝ったのに」


 静かな部屋。


 時計の音だけが響く。


「勝ったのに……全然、嬉しくない」


 その言葉を口にした瞬間。


 胸の奥が痛くなった。


 違う。


 本当は分かっている。


 なぜ嬉しくないのか。


 でも、まだ認めたくなかった。


「……僕は、勝ちたかったんじゃないのか?」


 強くなりたかった。


 大会で勝ちたかった。


 賞金を稼ぎたかった。


 もっとレアなカードが欲しかった。


 それは全部、本当だった。


 けれど。


 最初の大会。


 初めて大きな大会に出た日。


 負けたとき。


 ルナが言ってくれた。


『大丈夫』


『私たちは、まだ強くなれるよ』


 あの日の帰り道。


 コンビニで二人分の飲み物を買った。


 家に帰って。


 二人で今日の試合を振り返った。


 負けたのに。


 楽しかった。


 悔しかったけれど。


 また頑張ろうと思えた。


「……」


 ユウはルナのカードを手に取った。


「僕……」


 言葉が出てこない。


 しばらく考えたあと。


「ルナと一緒に勝ちたかったのかな」


 その瞬間。


 カードが、ほんのわずかに光った。


「……!」


 ユウは驚いてカードを見る。


 しかし、すぐに光は消えた。


「今……光った?」


 気のせいかもしれない。


 けれど。


 ユウはカードを胸元に抱えた。


「ルナ……」


 涙が一粒、頬を伝う。


「僕は……何を間違えたんだろう」


 答えてくれる人はいない。


 それでも。


 初めて。


 ユウは真正面から考え始めていた。


 自分が欲しかったものは、本当に「強いカード」だったのか。


 それとも――。


「……ルナ」


 名前を呼ぶ。


「もう一度、会いたい」


 その夜。


 ユウは優勝トロフィーを見ても、喜べなかった。


 高レアリティのカードを見ても、心が躍らなかった。


 ただ一枚。


 最初に手にしたGRカードだけを、何度も見つめていた。


 そしてユウは、まだ知らない。


 自分がずっと追いかけていた「最高レアリティ」が。


 カードの価値ではなく――。


 自分にとって何より大切な存在を意味していたことを。


 ――それに気づくまで、あと少しだった。


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