016.新たな二人
レイナを召喚してから、数日が経った。
ユウの部屋には、以前にも増してたくさんの少女たちが集まっていた。
ルナ、ミナ、ミレイ、モモ、セレス、ノア、クロエ、エルナ、そして新たに加わったレイナ。
「……改めて考えると、すごい人数だよね」
ユウが部屋を見回す。
「そうですわね。これだけの人数を一人で召喚する召喚士など、そうはいませんわ」
セレスが胸を張る。
「でも、まだ足りない」
レイナが静かに言った。
「大会で勝ち続けるためには、より多くの選択肢が必要です」
「選択肢……か」
ユウは手元のカードを見る。
レイナを中心としたデッキは強かった。
クロエの攻撃力。
ノアの防御力。
エルナのサポート。
それらをレイナの指揮能力でまとめれば、これまで以上に安定した戦いができる。
だが――。
「もっといろんな戦い方ができれば……」
ユウはそう呟いた。
その言葉を、ルナは少し離れたところで聞いていた。
「……もっと、強く」
最近のユウは、よくその言葉を口にする。
強いカード。
強いデッキ。
強い組み合わせ。
ルナは何も言わなかった。
ユウが勝ちたいと思っていることを知っているから。
だからこそ、邪魔をしたくなかった。
「よし」
ユウが立ち上がる。
「もう少しカードを探してみよう」
その日、ユウはカードショップへ向かった。
◇
店内には、新弾のカードが並んでいた。
ユウは棚を眺めながら考える。
「今のデッキに足りないもの……」
攻撃。
防御。
回復。
支援。
運。
すでに一通りの能力は揃っている。
ならば必要なのは――。
「相手のカードを利用する能力とか……?」
ユウが新弾のカードを眺めていると、一枚のカードが目に入った。
黒紫色の装飾。
中央には、分厚い魔導書を抱えた少女が描かれている。
カード名は、
GR《深淵の解析者 フィア》
「フィア……」
説明文には、短くこう書かれていた。
『相手のカード効果を解析し、一時的に再現する』
「これ、面白いな」
ユウがカードを見たその瞬間。
カードが淡く光った。
「え?」
次の瞬間、カードから声が聞こえた。
『……あなた、私を使うつもり?』
「え?」
カードの少女がこちらを見ていた。
『ふーん……なるほど』
少女は興味深そうに目を細める。
『あなた、変わった召喚士ね』
「僕が?」
『普通なら、強い攻撃力とか、高いHPを見る。でもあなたは、効果を見た』
「……それが?」
『私の能力に興味を持った』
少女は少しだけ笑った。
『面白い』
その瞬間、カードが強く輝いた。
ユウはカードを購入して驚きながらも、召喚装置にカードをセットする。
「召喚!」
光が弾けた。
黒紫色のローブ。
長い紫黒髪。
紫色の瞳。
そして、両手には一冊の大きな魔導書。
少女が現れる。
「召喚成功……!」
少女はすぐに周囲を見回した。
「ねえ、それよりそのカードの構造を見せてくれない?」
「え?」
「召喚カード。どういう仕組みで少女の情報を保存してるの? それにこの魔力回路……面白い。ねえ、ちょっとだけ調べてもいい?」
「え、えっと……」
少女は完全に自分の世界へ入っていた。
「……フィア?」
「そう。GR《深淵の解析者 フィア》」
フィアは魔導書を閉じる。
「よろしく。召喚主」
そして、もう一度カードを見た。
「……やっぱり、このカードの構造、気になる」
「そこなんだ……」
ユウは苦笑した。
こうして、フィアが仲間になった。
◇
その日の夜。
ユウはフィアを連れて帰宅した。
「新しい子?」
ミレイが微笑む。
「うん。フィア。相手のカード効果を解析できるんだ」
「よろしく」
フィアは軽く頭を下げる。
「へえ……面白そう!」
モモが近づく。
「カードを解析できるなら、私の幸運も調べられる?」
「幸運?」
「うん!」
「……興味ある」
フィアの目が輝いた。
「ちょっと待って。調べさせて」
「わーい!」
二人が盛り上がっている横で、ルナはフィアを見つめていた。
また一人。
仲間が増えた。
もちろん、嫌なわけではない。
むしろ、フィアは面白い少女だった。
だけど――。
「……また、ユウは強くなるんだ」
ルナは小さく呟いた。
◇
それから数日。
フィアの能力は、ユウのデッキに大きな変化をもたらした。
相手が使った強力なイベントを解析し、自分のカードとして再現する。
相手の戦術を理解し、そのまま利用する。
これまでユウが苦手としていた特殊なデッキにも対応できるようになった。
「すごい……」
ユウは対戦結果を見ながら呟いた。
「フィアがいるだけで、戦える相手が増える」
「当然」
フィアは満足そうに笑った。
「私、解析するの得意だから」
「ありがとう、フィア」
「……どういたしまして」
フィアが少し照れたように目を逸らす。
その様子をルナが見ていた。
「……ユウ」
「ん?」
「最近、楽しそうだね」
「うん。新しいカードが増えると、いろんな戦い方ができるから」
「そっか」
ルナは笑った。
「よかったね」
その笑顔の奥にあるものを、ユウはまだ知らなかった。
◇
数日後。
ユウは再びカードショップを訪れていた。
「もう一枚くらい、面白いカードがあれば……」
そのときだった。
棚の奥から、誰かの声がした。
「へえ……」
ユウが振り返る。
そこには、一枚のカードが置かれていた。
黒と紫。
不思議な雰囲気をまとった少女。
カード名は、
GR《いたずらの魔女 ユフィ》
説明にはこう書かれていた。
『相手のアイテムや効果を妨害する』
「妨害……」
今度はユウ自身が興味を持った。
レイナの指揮。
クロエの攻撃。
ノアの防御。
フィアの解析。
そこに妨害能力が加われば、さらに戦術の幅が広がる。
「……強そうだ」
ユウがカードをじっくり見た。
すると――。
カードの中の少女が笑った。
『へえ……あなたが私を選ぶんだ?』
「!」
『面白そうな人ね』
「君は……ユフィ?」
『そう♪』
少女は楽しそうに笑う。
『でも、私を使うなら覚えておいて』
『私は、言うことを聞くタイプじゃないから』
「それは……大丈夫なの?」
『さあ?』
ユフィはくすくすと笑った。
『あなた次第じゃない?』
ユウは少し考えた。
そしてカードを購入して召喚装置に置く。
「それでも、君と戦ってみたい」
『……へえ』
ユフィの目が細くなる。
『それ、ちょっと気に入った』
カードが眩しく輝いた。
「召喚!」
黒紫色の光が広がる。
現れたのは、黒と紫の衣装をまとった少女。
左右で長さの違う髪。
赤紫色の瞳。
そして、手元にはトランプのようなカード。
少女はユウを見つめる。
「へえ……あなたが私を呼んだんだ」
口元に小さな笑みを浮かべる。
「面白そうな人ね♪」
「ユフィ……」
「よろしく、召喚主さん」
ユフィは楽しそうに笑った。
「退屈させないでね?」
◇
ユフィを連れて帰ると、家はまた騒がしくなった。
「また新しいGR!?」
リリが驚く。
「すごい人数になってきましたわね」
セレスも呆れたように言う。
「よろしく」
ユフィは少女たちを一人ずつ眺める。
「ふーん……結構いるんだ」
そして、ルナの前で足を止めた。
「あなたが最初の子?」
「……うん」
「へえ」
ユフィはルナをじっと見る。
「じゃあ、一番大事なんだ?」
ルナの肩がわずかに動いた。
「……たぶん」
「たぶん?」
「ユウに聞いて」
ルナはユウを見る。
ユウは少し驚いた。
「もちろんだよ。ルナは僕の最初の相棒だから」
「……そう」
ルナは笑った。
だけど、その笑顔はどこか寂しかった。
ユフィはその表情を見ていた。
そして、小さく笑う。
「なるほどね」
「何が?」
「なんでもない♪」
◇
その夜。
ユウは新しいデッキを組んでいた。
レイナ。
クロエ。
ノア。
フィア。
ユフィ。
そこにミレイやエルナを加えれば、かなり強力な構成になる。
カードを並べながら、ユウは興奮していた。
「これなら、次の大会も――」
「ユウ」
背後から声がした。
振り返ると、ルナが立っていた。
「どうしたの?」
「……ううん」
ルナは首を横に振る。
「なんでもない」
「?」
「ただ……」
少しだけ間を置いて。
「今度、また一緒に戦おうね」
「もちろん」
ユウは笑った。
「ルナは僕の相棒なんだから」
「……うん」
ルナも笑った。
けれど。
その言葉を聞いたはずなのに、胸の奥には小さな不安が残った。
相棒。
その言葉だけは変わらない。
でも――。
ユウの視線は、いつからか新しいカードばかりを追いかけている。
「……私も、もっと強くならなきゃ」
誰にも聞こえない声で、ルナは呟いた。
その隣では、ユフィが静かに彼女を見ていた。
「……大変だね」
「え?」
「なんでもないよ♪」
ユフィは笑う。
その笑顔の奥に何を考えているのか。
まだ、誰にも分からなかった。
そしてユウは、新しいカードたちを見つめながら思う。
もっと強くなれる。
もっと勝てる。
もっと上へ行ける。
その先に待っているものを、まだ知らないまま――。
彼は次の大会へ向けて、デッキを組み始めていた。




