特別な理由は
おねえさんに出会ってから一週間。ちとせは毎日おねえさんのことを考えていた。
そんなある日。久しぶりに友達の璃美音ちゃんと電話をしていた時のこと。ちとせはいつの間にか、おねえさんの話ばかりしてしまっていた。
「それでね昨日もおねえさんがかわいいって言ってくれたの」
「よかったじゃない。ちとせを見てくれる人が見つかって」
電話越しの璃美音ちゃんが笑ってくれた気がして、もっと嬉しくなった。
「……うん!でもね、不思議なの。おねえさん以外の人に"かわいい"って言われるのもうれしいのにおねえさんの"かわいい"だけはとってもあたたかくて……。それにね、おねえさんといるとドキドキして…それから……世界がぱあって明るくなったの。おねえさんの周りは特にキラキラしてて、見るたびに笑顔になれるの」
そう話している時のちとせの頭の中はおねえさんでいっぱいで、ついニヤけてしまっていた。そんなちとせの表情は
「それ一目惚れっていうのよ」
璃美音ちゃんの一言で変わってしまう。
「一目惚れ…?」
緩んでいた口はそのまま開いて、塞ぎ方を忘れてしまったみたいに止まっている。
「そう。ちとせ、あんたそのおねえさんに恋してるのよ」
「ちとせが…おねえさんに、恋…?」
ずっと、憧れていた。だけど…ちとせには無理だと思っていたもの。そんな恋を――――ちとせが?
「キラキラもドキドキも恋をしたら起こることよ。璃美音が言うんだから間違いないわ」
璃美音ちゃんの言葉は自信に溢れていて、ちとせの背中を押してくれた。そのおかげで、自然と"恋"というものがちとせの中に入ってくる。
「…そっか…これが、恋……。ありがとう!璃美音ちゃん。ちとせ、ずっと一人で考えてたの。おねえさんはどうして特別なのかなって。でも、ちょっと違うんだね。おねえさんが特別なんじゃなくて…ちとせにとっておねえさんが特別なんだ」
そして、そう思うのはきっと、おねえさんが…陽だまりみたいにぽかぽかで、お月様みたいにキレイで、お星様みたいにキラキラで………ただまっすぐにちとせを…ちとせだけを見てくれたから。ちとせの"かわいい"を見てくれたから。だから、ちとせは……そっか…こんなふうにうれしいって思うのは、ちとせが"恋"してるから。ちとせ、今……恋してるんだ。
「ふふっ」
おねえさんに恋をしていると分かった瞬間、嬉しくてまた口角が上がってしまった。…ちとせ、さっきよりもニヤけてるかも。でもいいの。だってちとせすっごくうれしいから。恋をできたのも…その相手がおねえさんなのも。
「よかったわね」
「うん!…ありがとう、璃美音ちゃん。忙しいのにちとせの話聞いてくれて」
璃美音ちゃんは昔からちとせの話を聞いてくれた。アイドルになってからも、忙しいのにちとせの話を聞いてくれてとってもいいお友達。と、ちとせが思っていると
「友達なんだから当然でしょ」
璃美音ちゃんも同じように"友達"と言ってくれた。心の中にあったかいものが広がって、恋とは別の喜びで満たされていく。
「うんっ!璃美音ちゃんとちとせはお友達!あっ、璃美音ちゃん、この前の新曲聞いたよ。MVもとってもかわいいね。衣装もすっごくかわいくて璃美音ちゃんに似合ってたよ」
「璃美音はいつだって完璧なの。だって璃美音は、最高の男の娘アイドルなんだから」
「ふふふ。そうだね」
璃美音ちゃんが頑張っているところを見ると、ちとせも頑張ろうって思えるの。やっぱり璃美音ちゃんはすごいなぁ。さすがアイドルだよね。
「あ、璃美音そろそろ行かないと。またなにかあったら璃美音に言いなさい」
「うんっ!璃美音ちゃんお仕事頑張ってね!」
「璃美音はいつだって完璧だけど、もっとかわいい璃美音を見せてあげるわ。ちとせも頑張るのよ」
「…うん。ちとせも頑張る!またね、璃美音ちゃん」
璃美音ちゃんとの通話が終わって、大きく息を吸って吐く。おねえさんに出会ってから、初めて感じたこの気持ちの答えを、璃美音ちゃんが教えてくれた。だから、ちとせたくさん頑張るの。ちとせにとっておねえさんは特別だってちゃんと分かったから。これからも、おねえさんにかわいいって言ってもらえるように──────かわいいだけじゃなくて………ううん、かわいいっていっぱい言ってもらえるように頑張るの。……今はまだ、怖いから。恋はキラキラしてステキなものだけど、だけど……怖いの……。
だって……ちとせは───────。




