輝きはまだ遠くに
おねえさんに出会ってから少し経ったある日。
バイトがお休みだったから一人で買い物に出かけた。うーん、どこに行こう?と、迷っていたその時。思わず笑顔になってしまう姿が目に入った。
「おねえさん!」
思い切ってそう呼ぶと
「あ、ちとせちゃん!」
ちとせに気がついたおねえさんが、笑顔で手を振ってくれた。すぐにおねえさんの元へと駆け寄る。
「こんなところでおねえさんに会えるなんて、ちとせとってもうれしいな」
「ふふっ。私も、ちとせちゃんに会えて嬉しいよ」
いつもの優しい笑顔で言ってくれた言葉に、ちとせの心はあたたかくなった。
「えへへっ。ちとせとおねえさん、同じだね!」
「ふふっほんとだ。同じだね!」
「うん!……おねえさん、これからどこかへ行くの?」
もしかしてお店かな?なんて考えて、それなら今日もシフトに入っておけばよかったと思っていると
「え?あ、今日はねこれから打ち合わせなの」
予想とは違う言葉が返ってきた。
打ち合わせ…。そういえばちとせ、おねえさんが何してるのかって全然知らないや。聞いたら……教えてくれるかな?
「あのね、おねえさん。……えっと、なんのお仕事してるの?…教えて欲しいな」
「あ、言ってなかったよね。実は私、漫画家なの」
そう言っておねえさんは自分の作品を見せてくれた。画面に映し出されたものを見て目を丸くする。それは、ちとせの大好きな少女漫画だったから。
「えっ!?おねえさんが……」
「すぐには信じられないよね。うーん、証明できるもの何かあったかなぁ」
「ううん。信じてるよ。ちとせ…この漫画大好きなの。わぁ……そうなんだ、おねえさんが……。ふふっ。ちとせ、これからも応援するね!おねえさんの漫画大好きだから……!」
うれしくてうれしくて、気づけばおねえさんの目の前まで迫っていた。
だってこんな、奇跡みたいなことが本当に起きるなんて思わないもん。ちとせが好きになった人が、大好きな漫画家さんだなんて。
「ちとせちゃん……。ありがとう!私いっぱい頑張るね!」
目の前で見るおねえさんの笑顔は、どんなにキレイな花束でも表せないものだった。
やっぱりちとせ、おねえさんの笑顔が好き。おねえさんが…………好き。一番近くで見たその輝きに目が離せなくなる。もっと、もっと近くで。……おねえさんの隣で。そう思った瞬間、────ダメ。まだ、ダメなの。その輝きを覆い隠すような冷たい暗闇が、ちとせの心を包んだ。
「……おねえさん、引き止めちゃってごめんね。お仕事がんばってね…!」
おねえさんには気づかれないように、明るく笑って手を振った。
「うん。ありがとう、ちとせちゃん。また、お店でね」
そう言って笑顔で手を振り、去って行くおねえさん。その姿が見えなくなるまで、その場に立ち尽くしてしまった。完全に見えなくなったその時、頭の中で『ちとせちゃんに会えて嬉しいよ』そう言って笑うおねえさんの姿が浮かんできた。それだけで、冷たく包まれていた心があたたまっていく。
ちとせに会えて嬉しい……。ふふ、ちとせとおねえさん、同じ気持ちだった。こういう両想いを重ねていったら、いつか…おねえさんに―――――。あ、また。冷たくなっちゃう。……ちとせ、怖いよ。おねえさんのことをもっと好きになるの。もっとおねえさんを知って、もっと好きになったら…ちとせがどこかに行っちゃう気がする。知らないちとせになって、おねえさんに……嫌われちゃう。だから、だから……まだ…両想いは────ダメ。それに、好きになってもらうのが、怖い。好きに…なってもらえるかも分からないもん。だから、今は……かわいいって、たくさん言ってもらえるように頑張るの。
だって、ちとせは…ちとせは、幸せになんて――――――――。




