聞きたくない音に、手を伸ばす
男の娘喫茶『プリズム』、バイト募集中─────。
目に留まったその貼り紙に自然と足も止まる。
けど、接客…か。コンセプトは気になるけどそういうの苦手だし。そう考えて動き出そうとした。
「きみ〜興味ある?こういうの」
突然聞こえてきた声に驚き振り向くと、胡散臭い笑みを浮かべながら貼られていた紙と同じものをひらひらさせている男がいた。
「あんた誰」
「おじさんはねーこの店のオーナー兼店長」
おじさんというには見た目があっていないその人物は「はは」と笑いながらもう一度紙を揺らした。
「どう?興味ある?おじさんとしては君みたいなタイプの子がいると助かるけどなー」
「……俺接客無理だけど。愛想笑いとかしたくないし」
「うん。しなくていいよ。そういうキャラがいる方が面白いしね。こういうお店なら尚更」
「………ホントにしないけど」
決まった後にあれこれ言われたら面倒だと、念を押すようにもう一度聞いた。それでも返事は変わらず「しなくていい」としか言われなかった。
「それなら、まぁ…やってあげてもいい」
こうして新しく決まったバイトは俺が俺でいられる場所になった。誰もこの姿の俺を責めないし笑いものにもしない。口を出されることもなく、同じように好きに生きてる人達と楽しいと思える時間も過ごせてる。
「かおるちゃん!この前オススメしてもらったリップつけてみたの!どう?ちとせに似合う?」
人懐っこくて天使みたいなちとせ。
「お〜めっちゃかわいいじゃーん。ちとせってなんでも似合うねー」
ノリこそ軽いものの、気遣いもできる明るいあさひ。
「かおるはセンスがあるね」
大人びていてこの店の誰よりもキレイなセンリ。
「似合ってる」
そして、そんな三人の中に怖いくらいに溶け込んでいる自分。
「わぁ…!みんなありがとう…!!ちとせとってもうれしい!かおるちゃん、またちとせと一緒に買い物してくれる?」
「……いいよ」
ちとせとは歳が同じってこともあって友達になった。
だけど一つだけ…そう、たった一つだけ─────。
からんからんと音が鳴る。客が来たことを告げる音。誰がどんなタイミングで鳴らしても同じ音のはずのそれは
「わ…!!おねえさん!今日も来てくれたの?ちとせとってもうれしい…!!」
あの人だけが違う音を鳴らす。天使みたいな誰もが好むあいつと話してても、俺を見つけたあの人はこっちにも笑顔を向けてくる。それがどれだけ人を狂わせてるかなんて考えたこともないみたいに。
そう、たった一つの……それでいて大きな問題。それは、友達と好きな人が被ったこと。初めてできた、まともな友達。天使みたいにかわいくて俺と違って愛嬌もある好かれ者。そんな人間……いや、間違ってどっかから落ちてきたみたいなやつも俺と同じようにあの人に好意を抱いている。あぐまで不確定な推論にすぎない話。だけど俺は確信している。あいつは俺と同じ目をしているから。あの人に恋をしている目を。……あいつの方が俺よりずっと純粋だろうけど。
あいつが別の所で接客中のタイミングであの人が店員を呼んだ。
「注文決まった?」
「うん。今日はこれとあと、これにしようと思う」
「すぐ用意する。待ってて…おねーさん」
俺がそう言うとおねーさんは決まって笑顔で頷く。その笑顔が人を壊しているとも知らずに――――。




