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キミと僕の境界線  作者: うなぎタコ


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第5話 キミとお弁当

 堕天使の少女、星月ノアと暮らし始めて一週間ほどが経ち、ようやく彼女の部屋が完成した。そのおかげで僕は数日ぶりに自室で眠ることができた。これで、ソファーで寝る生活は終わりだ。


「で、なんでロデムが俺のベットで寝てるんだ」


 早朝、目を覚ますと丁度僕の足元で体を丸めて眠る、星月ノアの使い、黒猫のロデムがいた。


「お前、主の星月さんのところで寝なくていいのか?」

「我はお前を見張っているのだ。お前みたいな人間が主の寝込みを襲わせないためにな」


 ロデムは片目を開いて答える。


「ぼ、僕がそんなことするわけないだろ!」

「……どうだか」

「本当に何もしないよ!」

 

 僕は全力で否定する。僕は絶対に寝込みを襲ったりなんてしない。絶対だ。


「……まぁ、いい。人間、目覚めたなら我の飯を用意するのだ」


 ロデムはそう言い放ってベットから降り、リビングへ向かっていった。それを見て僕もベットから降りる。最近は心の調子がいいからか悪夢を見ることも少なくなって、今日の様に気持ちよく目覚められる日が増えたように感じる。そんな日はいつもホットケーキを焼く。だけど今日は先に、学校に持っていくお弁当を作ろうと思う。だがお世辞にも料理が上手とは言えない僕が作る卵焼きは高確率で形が崩れていた。


「まぁ、自分が食べるものだし別にいいか」


 僕は気にせず崩れた卵焼きを切り分けて弁当箱に入れる。他にもトマトや焼いた鶏肉などを詰め弁当のふたを閉めた。


「あ、そうだ、ロデムにご飯あげないと」


 僕がメロンパンの袋を開けると、ソファーにいたロデムはすぐにキッチンの方へ駆けよって来た。そして半分に切ったメロンパンをロデムは齧る。


「本当、メロンパンが好きだよな」


 そうつぶやいてメロンパンを頬張るロデムを見ていると、リビングの扉が開き、寝起きでぼさぼさの髪をした堕天使、星月ノアが起きてきた。


「……おはよう優斗。なんでお弁当作ってるの?」

「今日は学校に行こうと思ってね」

「学校?……大丈夫?無理してない?」

「大丈夫だよ。ここのところずっと落ち着いてるし。それにもし、何かあった時は帰ってくるから」


 彼女は不安そうに僕を見る。三日前、彼女は僕の部屋で制服を見つけたときに軽く学校の事と僕のトラウマについて話したことがある。そのことがあったから彼女は心配してくれたのだろう。


「優斗がそう言うなら別にいいんだけど」

「ありがとう。まぁ、だから帰りは夕方になっちゃうかも」


 僕がそう言うと、彼女は少し考えてからこう言った。


「私の、お弁当も作って欲しい」

「いいけど、綺麗には作れないよ?」


 僕は自分の作ったおかずが入った弁当箱の中をちらっと見た。正直とても人のために作れる見た目をしていない。

 

「それでも優斗が作ってくれたのが食べたい」


 自信のない僕を見て、彼女はそんなかっこいいセリフをあっさり言う。寝起きでこれを言ってるんだからきっと無意識で言ってるんだろうけど、その言葉で少し気持ちが軽くなった。


「分かった、作ってみるよ。でも時間が掛かるかも」

「じゃあ、私は顔洗ったりしてくる」


 そう言って彼女はリビングから出て行った。そして僕は今まで以上に気合を入れて料理をする。特に卵焼きは絶対に崩れないように慎重に作った。


「おぉ、きれいに出来た」


 自分の物とは違い丁寧に作り上げ、完成したおかずを綺麗に彼女の弁当箱に詰めた。そんな、慣れてない弁当作りをしていると、気づけば時間は過ぎ去り、学校へ行かないといけない時間が迫ってきていた。

 

「もう行くの?」


 僕が制服に着替えて鞄の中に弁当の入った袋を入れていると、彼女はソファーの方からキッチンにいる僕の方に歩いてきてそう聞いた。


「うん。そろそろ行かないと電車に乗り遅れちゃうからね。それと、これが星月さんの分のお弁当ね」


 僕は頑張って作った弁当を彼女に手渡した。

 

「ありがとう。優斗」

「それじゃあ、行ってくるね」


 そう言って僕は玄関に向かい、外に出ようとしたとき突然、腕を掴まれた。


「わっ!星月さん!どうしたの?」

「……どうかあなたの笑顔が絶えませんように」

「えっ?」


 何を言っているのかよく聞き取れなかったが、彼女は僕の手を両手で包み込むように握り、ほんの少し力を込めた。


「引き留めてごめんね。行ってらっしゃい、優斗」

「う、うん……い、行ってきます」


 不意に笑顔を見せ、玄関から手を振って見送りしてくれた彼女にドキッとした僕は、赤くなった顔を隠すように、小走りでエレベーターまで向かった。


「……あの人間を一人にしてよかったのか?」


 ソファーで寝転がっている黒猫のロデムが私に向かってそう言った。


「大丈夫だよ。私の力で守ってるから。それに今日私達が行く場所は優斗のい学校の近くだし。何かあっても大丈夫だよ」

「……そうか」


 そうつぶやいたロデムはどこか遠い目をしていた。


「ほらロデム、私達もそろそろ行くよ」

「承知した」


 私たちはしっかり戸締りをして家を出た。目的地は優斗の通う学校近くの街だ。そこまで私は欠けた羽を広げて飛んでいく。


「さて、天使狩りを始めようか」


 私はビルの上に降り立ち、黒く禍々しい弓を手に持った。

 この街には人間社会に溶け込んでいる忌々しい天使共が多くいる。そんな天使をロデムが見つけ、私が狩る。ただ、狩るといっても殺すわけではない。私は天界で色々やらかして堕天したときに女神さまから奪われた半分以上の能力を天使から奪うだけだ。


「ロデム、天使見つけた?」

「あそこの建物から五秒後出てくるぞ」

「了解」


 私は自分の黒くなってしまった羽を一枚取り出し力を込める。すると黒い羽は、貫いた者の能力を奪う黒い矢となった。その矢を携え、狙いを定めて弓を引く。

 五秒後、ロデムの言った通り建物の中から一人の女性が出てきた。そして私は迷うことなく矢を放った。その矢は見事に女性を貫いた。すると黒く禍々しい弓が紫色に光る。黒い矢に貫かれた女性は、自分の身体に起こった異変を感じたのか、辺りを見渡し、慌てて建物の中に戻っていった。能力を奪われた天使はただの人間に成り下がる。もう一度天使に戻るには女神さまから力を与えられなければならない。


「よし、まずは一人。今日は後、二人から能力を奪って帰ろうか」

 

 私はロデムと一緒に別の天使を探しに空を飛んで移動する。だが一向に天使が見つからずにいた。


「別の場所へ探しに行くか?」

「うーん、お昼も過ぎてお腹空いたから優斗のお弁当食べたいから、ちょっと休憩。そうだ、この近くに優斗の通ってる学校があるはずだからそこで食べよう」


 そんな名案を思いついた私はすぐに優斗の通う学校へ飛んでいった。


「ここの屋上ならだれかに見つかる心配はなさそうね」


 私は学校の屋上に座って優斗から貰ったお弁当を開いた。そこには形も崩れていないおいしそうなおかずがきれいに敷き詰められていた。


「見てロデム、これ優斗が作ってくれたんだよ」

「知っている。あの人間がいつになく集中していたのを見ていたからな」

 

 ロデムは興味無さそうな口調でそう言った。

 

「いただきまーす!」


 私は箸を持って、手をあわせる。そして一番に卵焼きを口に運んだ。すると口いっぱいに、とろけるような甘さが広がった。


「美味しい!美味しいよロデム!」

「それはよかったな」

「ほらロデムも食べて見なよ」

「我のこと良い。それはあの人間が主のために作った物だろう?」

「そう固いこと言わずに」

「!?」

 

 私は無理やりロデムの口の中に甘い卵焼きを入れ込んだ。


「……美味いな」

「でしょ?それにきっと優斗もロデムにも食べて欲しいって思ってるよ」


 それから私とロデムは一緒に優斗の作ってくれたお弁当を食べた。


「ねぇロデム、この後は天使狩りをするんじゃなくて、優斗の様子を見て帰らない?せっかくここまで来たんだから、ちょっとくらい良いよね?」

「……人間どもにばれなければいいんじゃないか?」


 ロデムからの許可を取ることができたので私は、この学校にいる、人間にばれないように優斗のいる教室を見つけ出し近くの木の上に登り、窓越しに優斗の様子を観察した。優斗には特に変わった様子はなく、仲の良い友人もいるようだ。それにその友人と話しているときは、家にいる時では見せないような顔を見せていた。少し複雑な気持ちだ。


「学校、楽しそうだな……」


 窓越しから優斗を観察しているといつの間にか学校は下校の時間になっていた。


「ロデム、そろそろ帰るよ」


 私は優斗が教室から出るのを見守ってから家に帰る。もちろん空を飛んで帰ったので優斗よりは早く家に着いた。それからしばらくして、玄関の鍵を開ける音が聞こえてきた。


「ただいま」

「お帰り優斗!お弁当美味しかったよ!」


 私は帰って来た優斗に、空になったお弁当箱を見せた。

 

「美味しくできてよかったよ」

「特にあの甘い卵焼きがおいしかった。ロデムもおいしいって言ってたよ」


 私が卵焼きの感想を伝えると優斗は嬉しそうな表情を浮かべ小さくガッツポーズを取ったように見えた。その後も優斗はずっとうれしそうな様子で、私のお弁当の感想を聞いてくれた。

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