第4話 キミとお出かけ
「おい、起きろ人間。もう昼だぞ」
耳元で声が聞こえる。薄らと目を開けると黒い猫が僕の顔をのぞき込んでいた。
「ロデムか……わかった起きるよ……」
眠い目をこすりながら僕はソファーから起き上がる。いつのまにか寝ちゃってたんだな。こんなに寝覚めが良いのはいつぶりだろうか、いつもは悪夢にうなされながら目覚めるのに。スマホを見るといつものように幼馴染の間宮瞬から「学校に来ないか?」とメッセージが来ていた。
「人間。メシは無いのか?」
「食パンしかないよ。……もしかしてお腹空いたから起こしたのか?」
僕が食パンの入った袋をもって黒猫のロデムにそう聞くと目をそらされてしまった。
「まぁいいけどさ」
僕は袋から食パンを取り出し、お皿に置いて座って待っているロデムの前に置いた。
「それにしても人間、この家には物が少なくないか」
ロデムは食パンをかじりながらオーブンにパンを入れている僕に向かって言う。ロデムの言う通りこの家には物が少ない。必要最低限の物しかないし、空き部屋も今は埃をかぶっている。
「悪かったね、何もなくて。……でもまぁ、確かに早く物を揃えないといけないな」
そう言いながら僕はオーブンのつまみを回し食パンを二枚焼く。食パンの焼ける匂いが漂い始めたとき、リビングの扉が開いた。
「なんか、いいにおいがする……」
そこには自分よりひと回り程大きな白いパーカーに身を包んだ寝起きでぼさぼさの薄いピンク色の長い髪の少女があくびをしながらリビングにやってきた。
「お、おはよう。星月さん」
僕はその姿にドキッとしながら挨拶をする。星月ルナ、彼女は堕天使だ。そんな彼女と僕は昨日から同じ家で暮らしている。
「ん?あ、おはよう優斗。この匂いは何?何か焼いてるの?」
「うん、食パンを焼いてるんだよ。食べる?」
「食べる」
僕はオーブンから焼きあがった食パンを取り出し皿に乗せ、二人で食パンを頬張る。
「ところで優斗、今日はどこか出掛けるの?」
「出掛けよとは思ってたけど、何で分かったの?」
「扉越しにロデムと話してるのが薄っすら聞こえて来たから……」
「聞こえてたんだ……良かったら一緒に行く?色々必要な物があると思うから……どうかな?」
「うん、一緒に行く」
そして僕達は朝食兼昼食を食べ、街で一番大きなショッピングモールに向かった。
「優斗、何から買いに行く?」
「そうだね……まずは、日用品とか雑貨を見に行こうか」
人の多い建物の中に入ってしばらく歩き目的の日用品や雑貨などが売っている店に辿り着いた。
「色々な物が売ってる……これはマグカップ?猫の形の物もあるんだな」
彼女は物珍しそうに黒猫のマグカップを手に取り眺める。他にも箸やお皿などを楽しそうに見て回っていた。
「それ、全部買うの?」
「もちろん。だってこれから必用になるんでしょ?」
彼女はカゴいっぱいに入った日用品や雑貨をもって僕を見る。やっぱり改めてそう言われると気恥ずかしい。
「そ、そうだね」
「?」
少し照れる僕を彼女は不思議そうに見つめる。僕は彼女からカゴを受け取って会計を済ませた。そして次に僕たちは服屋に向かった。
「可愛い服がたくさんある……」
彼女はマネキンに飾られてある洋服を見てそう言う。
「着てみたい服を選ぶといいよ」
「……じゃあ、優斗が選んで。優斗が選んでくれた服なら何でも着るよ」
「え!僕が選ぶの!?」
「うん。優斗が選んで」
彼女はまっすぐな目で僕を見る。本気で僕に選んでほしいみたいだ。僕は慎重に彼女に似合う服を探す。
「これか……いや、こっちか?……これとかどうかな」
僕は迷いながらも彼女に似合う服を選んだ。ロングスカートとブラウス、ほかにも色々、彼女に似合いそうな服をたくさん選んだ。
「ふーん、優斗はこういうのが好きなんだ」
彼女は僕が選んだ服を試着室で試着しながらそうつぶやいた。そして僕は彼女に選んだ服をすべて買った。最後に食材を買い足し、夕刻、僕達は家に帰った。
「むっ、何やら大荷物だな。人間」
留守番していたロデムがソファーの上から買い物袋を大量に持った僕を眺める。
「ロデム、これお土産」
僕は買い物袋から猫の顔の形をしたお皿をロデムの前の机に置いた。そのお皿をロデムは前足で触る。
「どう?気に入ってくれた?」
「……悪くない」
「星月さんは……それだいぶ気に入ってるね」
彼女は黒猫のマグカップを持って目を輝かせながら眺めていた。相当気に入っているようだ。
「優斗のもあるよ」
「え?」
彼女はそう言って買い物袋の中から白猫のマグカップを僕に渡した。
「これ、いつの間に」
「優斗がお会計する直前にこっそり入れておいたの。だめ、だった?」
彼女は不安げに言う。
「そんなことないよ。うれしい、ありがとう星月さん」
僕は心からそう思った。誰かから物を貰った事なんてなかったから本当にうれしい。
「せっかくだしこのマグカップを使おうか」
僕は買い物袋の中からココアと牛乳を取り出してホットココアを作る。ロデムには熱すぎないように牛乳を暖める。
「日が傾くと冷えるからこれくらい暖かいのがちょうどいいかな」
僕は彼女に淹れたてのホットココアを渡す。
「ありがとう優斗」
彼女はホットココアをおいしそうに飲む。
「こんなに甘くておいしい飲み物は初めてだ。それに心まで温かくなる……」
「気に入ってくれてうれしいよ。それじゃあ僕は夕飯を作るよ。でも初めて料理をするからうまくできるか分からないけど……」
「なら私も手伝うよ。こう見えてもある程度、料理はできるから」
「本当!?ありがとう」
こうしてホットココアを飲み終わった僕達は、キッチンに並んで立ち料理を始める。今日の夕食はハンバーグだ。




