第3話 キミと夜の空
「女の子と一緒に暮らすってどうすれば……」
突然決まった堕天使の女の子との同居生活にまだ思考が追い付いていない僕は火にかけた片手鍋の水をじっと片手鍋の中を凝視する。
「どうしたんだ人間?湯はとっくに沸いてるぞ?」
「わっ!ロデム、脅かさないでくれよ」
堕天使の使いのロデムがいつの間にかキッチンの上に乗り不思議そうに僕を見上げる。片手鍋の中を覗くとぐつぐつと煮えたぎっていた。僕は慌てて火を止める。
「何を考えていたかは知らんが、主に服を貸してやってくれないか?」
「え?」
ロデムそう言われた僕は扉の方を見ると、扉の影から濡れた髪の少女がひょっこりと顔を覗かせ僕の方を見ていた。そう。この少女こそが堕天使、星月ノアだ。
「わぁぁ!星月さん!」
「……ごめん優斗、服貸して」
驚く僕とは対照的に驚くほど落ち着いている彼女に僕は急いでリビングの床に畳んで放置していた短パンと白いパーカーを手渡した。そしてちょうどカップ麺が出来上がった頃、彼女は自分よりひと回り程大きな白いパーカーに身を包みリビングに戻ってきた。
「カップ麵、ちょうど出来たよ」
僕はカップ麺を二個机に置き、床に座り、彼女も僕の前に座った。
「ありがとう優斗。シャワーだけじゃなくて食べ物も用意してくれて」
「いいんだよ。他に行く当てもないみたいだったしほっとけないよ。それにしてもどうして僕の住んでる場所が分かったの?」
「ロデムが光を出して教えてくれたの」
光……そういえば欠けた羽にロデムが触れたら光ってたけど多分それかな?にしても、おいしそうに食べるなぁ。こうしてみるとただの女の子なのに堕天使なんだよな。
「……私の顔に何かついてる?」
僕があまりに長く眺めていたせいか彼女は軽く首をかしげる。
「い、いやなんでもないよ」
僕は慌てて麵を啜る。
「ところでふと気になったんですけど星月さん以外に堕天使っているんですか?」
「今のところ私以外の堕天使は見たことないが天使なら見かけたことある。他にも死神、吸血鬼、鬼人なんかもこっちにいるよ」
「なんだか急にファンタジーだな……」
「ファンタジーが何なのかよくわからないけど、こういった種族がここには多く存在するの」
そしてその死神や吸血鬼といった種族はこの人間社会に溶け込むように生活しているらしい。彼女曰く、人間が一目でその正体を見抜くのは不可能だという。そんなまるでファンタジーの様な話を聞いているとあっという間にカップ麺を食べ終わっていた。
気づけばすでに日は沈み切り星空が広がっていた。
「ふぁーぁ……」
夕食を食べ終えしばらくすると彼女は大きなあくびをしていた。きっと疲れがたまっていたのだろう。とても眠そうだ。
「眠いなら寝ますか?僕のベット使っていいから」
「でもそれだと優斗が寝られない……」
「僕は眠たくないから寝てきなよ」
「……じゃあそうする」
彼女は少し考えた後、眠い目をこすってそう言った。僕は彼女を部屋に案内し、彼女は僕のベットで横になり目を閉じ眠りについた。部屋の扉を閉め僕はリビングへ戻る。
「人間、見かけによらず大胆なことをするのだな」
リビングに戻ると黒猫のロデムがソファーの上で丸くなり、片目で僕を見ながら言う。
「言うなよ、考えないようにしてたんだから」
勢いだったとはいえ、女の子を自分の部屋の自分のベットで寝かせてしまったことを冷静になった今、思い出してしまい顔が熱くなってしまった。
「はぁ、ちょっと頭を冷やしに屋上へ行くけどロデムも来る?」
「興味はあるが遠慮する。寝ている主を置いてはいけないからな」
「その主を置いてこの家に来たの癖に……まぁいいや。じゃあ行ってくるよ」
僕は部屋を出てマンションの屋上へ移動した。このマンションの屋上には夜空を遮るものは無く、床に寝そべり空を見るとそこには満点の星空が広がっていた。僕はよく考え事をするときにここへ来る。
「堕天使か……」
たった一日なのに色々あった。早退したが学校にも行った。そのおかげか堕天使の星月ノアと喋る黒猫、ロデムに出会い何故か一緒に暮らす事となった。堕天使の他にも死神や吸血鬼がいることも教えてもらった。
「ここは本当に僕の知ってる日本なのか?よくあるファンタジーな世界じゃないよな……」
「何してるのこんなところで?」
屋上で寝転がっている僕を堕天使の星月ノアが不思議そうな顔でのぞき込んでくる。
「星月さん!?寝てたはずじゃ……」
驚いた僕は思わず飛び起きる。
「目が冴えたんだ。それで起きたら優斗はいなくてロデムに聞いたら、ここにいるって……それで何してたの?」
「ちょっと考え事してたんだ。さ、夜は冷えるから戻ろうか」
「待って」
部屋に帰ろうとした僕を彼女は引き留める。
「どうせ眠れないなら空中散歩に行かない?」
「空中散歩?普通に散歩じゃなくて?」
「そう、空中散歩」
「まぁ、いいけど……」
僕がそう言ってなずくと彼女は白い欠けた翼を広げる。そして僕を抱えて空を飛ぶ。
「ちょ、星月さん!?う、浮いてる!?」
「大丈夫だよ優斗。あ、もしかして高いところダメなタイプ?」
「確かに高いところは苦手だけど、そうじゃなくて……こんなとこで羽広げていいの?」
「大丈夫、大丈夫。夜で人もいないし、誰も空何て見ないよ。それにしても優斗は軽いな。もっと筋肉を付けた方がいいぞ」
彼女は楽しそうに言う。確かに、夜で人通りは少なく上を向いて歩いてる人なんていない。ただ下を向いてしまったせいで目を開けていられなくなってしまった。そんな僕を見て彼女はクスっと笑う。
「優斗、遠くを向いてゆっくり目を開けて」
そう言われ僕は恐る恐る目を開ける。するとそこには星空と夜景が合いまって、美しい景色が広がっていた。
「どう?綺麗でしょ」
「うん。とっても綺麗だ。初めて見たよこんな景色」
「それはよかった。何か悩んでそうだったから、これで少しでも気分が晴れてくれたならうれしいな」
そう言われて僕はドキッとした。
「なんで僕が悩んでるってわかったの?」
「そういう顔をしてたから」
「そっか、僕そんな顔してたんだ……ありがとう。おかげで気分が楽になったよ」
「フフッ、じゃあ後少し景色を楽しんで帰ろうか」
それからしばらく僕たちは空中散歩を楽しみ、日付が変わる前にマンションの屋上まで帰って来た。
「どうだった初めての空中散歩は?」
「高いところは苦手だけど、いい景色を見られて楽しかったよ。ありがとう」
「また何か考え事があるなら一番に相談してね」
「うん、そうするよ。それじゃあ、部屋に戻ろうか」
そして僕は部屋に戻るため階段へ向かった。だがその時後ろから「優斗」と、名前を呼ばれた。振り返るとそこには欠けた白い羽を畳まずに広げた星月ノアが僕を見つめていた。彼女は天使のような、にこやかな笑顔をしてこう言った。
「これからよろしくね!」




