76. 文化祭準備 前編 ~あたしばっかり誘ってる~
九月に入ってから、教室の空気が少し変わった。
文化祭が近い。
その影響を、一番分かりやすく受けているのが如月理沙だった。
「如月さん、文化祭一緒にまわらない?……前から、ちょっと気になってて」
昼休み。
教室前で、また男子がリサへ声をかけていた。
しかも周囲に人が多いタイミングをわざわざ狙っていた。
断りづらい空気を作っているのが見え見えだった。
けれどリサは困ったように笑いながらも、ちゃんと首を横へ振る。
「ごめんね。気持ちは嬉しいんだけど……たぶん、一緒にまわる人いると思うから」
その返し方も上手かった。
相手を笑い者にしない。
でも期待も持たせすぎない。
男子の方はショックを隠しきれていなかったが、それでも「そっか……」と引き下がるしかない。
休憩時間。
教室前の扉付近で、また誰かが声をかけている。
マサキは窓際の席でイヤホンを片耳だけ外したまま、そのやり取りをぼんやり聞いていた。
相手は他クラスらしい。
背も高く、話し慣れている感じの男子だった。
少なくとも、"勢いだけで来ました"みたいな空気ではない。
リサへ声をかける男子は、だいたいこういうタイプだ。
目立つ側。
人前へ出るのを怖がらない側。
マサキには、その時点でかなり別世界だった。
対するリサは、いつもの柔らかい笑顔だった。
長い髪を揺らしながら、申し訳なさそうに笑う。
それだけで空気が妙に柔らかくなる。
やっぱり目立つ。
教室の入口に立っているだけで、人の視線が自然と集まる。
夏の終わりの光が窓から入って、白い肌を少しだけ透かしていた。
それを見ながら、近くの男子グループが呆れたように声を漏らす。
「如月さんの告白ラッシュすげぇな。休み時間ごとじゃん」
「もうすぐ文化祭だしな」
「文化祭マジック狙い多すぎだろ」
「まぁ如月さんだし……」
半分ネタみたいに言っているが、誰も否定しない。
実際、リサはかなり可愛い。
男子が浮つくのも分からなくはなかった。
モデル活動をしているだけあって顔立ちは整っているし、立っているだけで雰囲気が違う。
制服姿でも妙に絵になる。
しかも距離感まで柔らかい。
だから勘違いする男子も多い。
優しくされた。
笑ってくれた。
ちゃんと話を聞いてくれた。
それだけで、「もしかして」と思ってしまう。
でもマサキは知っている。
あれはリサなりの気遣いだ。
相手を傷つけないようにしているだけで、簡単に気を持たせているわけじゃない。
「誘う側はいいけど、如月さんだって知らないやつと一緒に回りたくはないだろ」
「いや逆じゃね?文化祭ってそういう勢いあるし」
「普段話したことなくても、急に距離縮まったりするじゃん」
「まぁ"ワンチャンあるかも"って思うんだろうな」
「うわ、必死」
「でも実際、声かけなきゃ始まんねーし」
そこまで聞いて、マサキは手元へ目を落とした。
(……まぁ)
それは、そうなのかもしれない。
誘わなければ始まらない。
当たり前の話だった。
マサキはスマホを弄るふりをしながら、頭の中で転がす。
自分には、それがあまりにも難しい。
リサを誘う。
たったそれだけのことが、妙に怖い。
断られるかもしれないとか、そういう話だけじゃない。
如月理沙を、自分が誘う。
その行為そのものに、未だにどこか現実感が薄い。
夏祭りの時だってそうだった。
『オレと、行ってくれないか。夏祭りも、プールも』
あの時は、勢いに近かった。
あれ以上考えていたら、たぶん言えなかった。
だから今さら思う。
(誘うのって、勇気いるよな……)
なのに。
教室前でリサを誘っている男子達は、みんな平然として見えた。
もちろん緊張はしているのだろう。
それでも声をかけている。
マサキには、それがどこか不思議だった。
(なんでオレは、こんな無理なんだ……)
そんなことを考えていると、横から声が飛んだ。
「松前は余裕だな」
「……なにが」
顔を上げると、男子グループがいつの間にかこっちを見ていた。
「いや、如月さんが取られる心配とかしねーの?」
「別に」
反射みたいに答える。
すると周囲が一斉に「いやいやいや」という顔になった。
「いや、別にじゃなくて」
「如月さんと文化祭一緒にまわる約束してるんだろ?」
マサキは一瞬だけ黙った。
それから、短く答える。
「……してない」
一拍。
「「「してない?!」」」
声が揃った。
教室の何人かまでこっちを見る。
マサキはわずかに眉を寄せた。
(なんで一緒にいること前提なんだ……)
「お、お前……」
「なにしてんだよ、さっさと誘えよ」
「いや逆になんでまだ約束してないんだ?」
「夏休みあんだけ一緒にいたのに?」
言われるたびに、マサキの居心地が悪くなる。
たしかに一緒にはいた。
夏祭りも。
プールも。
ゲーセンも。
買い物も。
でもそれと、文化祭を誘えるかは別問題だった。
というか。
(そんな簡単に言えるなら苦労しないだろ……)
マサキは心の中だけで返す。
すると男子の一人が、呆れたように肩を竦めた。
「まぁでもさ」
「約束なくてもどうせ一緒にいるって安心してるんだろ。お互い」
「……」
マサキは返事をしなかった。
安心。
その言葉だけが少し引っかかる。
無意識に目が教室前へ向く。
ちょうど話を終えたリサが、ぺこっと頭を下げていた。
その動きで、ふわりとスカートが揺れる。
細い脚のラインが一瞬だけ覗いて、マサキは反射的に前を向いた。
(……なに見てんだオレ)
自己嫌悪が早い。
だがその直後。
リサがこちらへ気づいた。
「あ」
ぱっと表情が明るくなる。
それだけで空気が変わった。
さっきまで教室前で話していた男子達より、明らかに柔らかい顔だった。
リサはそのまま小走りで近づいてくる。
「松前くん」
「……ん」
「今ちょっと時間ある?」
近い。
立ち止まった拍子に、ふわっと甘い香りがした。
しかも今日はやたら距離が近い。
前屈みになったせいで、制服の胸元が少し強調されて、マサキは慌てて横を向いた。
(近いって……)
リサはそんなマサキの内心など知らず、いつもの調子で続ける。
「文化祭のことでね、ちょっと話したくて」
「……文化祭?」
「うん」
にこっと笑う。
その瞬間。
さっきまで騒いでいた男子グループが、一斉に息を呑んだ。
空気が妙に静かになる。
マサキは嫌な予感がした。
◇ ◇
「明日のHRで、準備の班決めあるじゃない?」
「あー……」
文化祭準備。
クラスでは既に話題になっていた。
背景作り。
教室の装飾。
看板制作。
大道具。
必要な備品集め。
人数を振り分けないといけないらしい。
リサは身体を寄せる。
「松前くん、どこ入るか決めた?」
「いや、まだ」
「じゃあさ」
そこでリサが、嬉しそうに笑った。
「一緒の班にしない?」
「……」
後ろで男子達が小さくざわついた。
マサキは反応に困る。
文化祭を一緒にまわる誘い。
――ではなかった。
そこに少しだけ安心している自分と、少しだけ肩透かしを食らっている自分がいて、マサキは内心で混乱する。
「あたしが合わせるから。なにやりたいかだけ教えてくれればいいよ」
「教えない」
即答だった。
リサが目を丸くする。
「え、なんで?」
マサキは横へ目をやった。
リサはたぶん、本当は装飾がやりたい。
ファッション系が好きだし、可愛いものを見る時の反応も分かりやすい。
色の組み合わせとか、小物とか、そういう話をしている時のリサはかなり楽しそうだった。
文化祭の装飾なんて、たぶん一番向いている。
でも。
マサキはそっちへ行けない。
女子が多い空間は苦手だし、装飾系は距離感も近い。
わいわいした空気の中へ入っていく想像ができなかった。
自分はたぶん、余ったところに入る。
備品とか。
力仕事とか。
裏方とか。
そのくらいが限界だ。
だから、もし一緒の班になるなら。
リサがマサキに合わせる形になる。
それが嫌だった。
「……如月がやりたいの、装飾の方だろ」
マサキがそう言うと、リサはぱちぱちと瞬きをした。
「うん、よく分かったね」
それから、ふわっと笑う。
「でも何でもいいし」
「よくないだろ」
マサキは小さく返す。
リサは可愛い。
しかも、かなり華がある。
教室の後ろで友達と文化祭の話をしているだけで、周囲の空気が明るくなるタイプだ。
そんなリサが、自分に合わせてやりたくない作業へ来る。
それは、なんというか。
違う気がした。
「文化祭は楽しい方がいいから」
リサはそう言いながら、首を傾ける。
その拍子に髪が肩から滑り落ちた。
夏服の薄い生地越しに胸元のラインがわずかに動いて、マサキは反射的に前を向く。
(……だから近いって)
距離感がおかしい。
しかも本人は無自覚だ。
「松前くんと一緒なら、どこでも楽しいと思うし」
「……」
そういうことをさらっと言う。
マサキは返事に詰まった。
後ろの男子達も静かにざわついている。
たぶん今の聞こえていた。
マサキは居心地の悪さをごまかすみたいに、小さく息を吐いた。
「……教えない」
「まだ言うの?」
リサが困ったように笑う。
責める感じではない。
むしろ、「どうしてそんなに頑ななの?」と不思議がっている顔だった。
マサキはその表情を見ながら、内心だけで考える。
(如月は、そっち行った方がいいだろ……)
装飾の真ん中で笑っている方が似合う。
クラスの女子達と楽しそうに色を決めたり、飾りを作ったりしている方が、たぶん自然だ。
自分のせいで選択肢を狭めてほしくない。
だから断っている。
でも、その理由を上手く説明できる気はしなかった。
「松前くん?」
名前を呼ばれて顔を上げる。
リサはどこか不安そうにこちらを見ていた。
その顔を見た瞬間。
(……あ)
少し言い方きつかったかもしれない、とマサキは遅れて思った。
拒絶したかったわけじゃない。
ただ、リサに合わせさせたくなかっただけだ。
でもたぶん、それは相手には伝わらない。
マサキは手元へ目を落としてから、ぼそっと付け足した。
「……別に、如月がイヤとかじゃない」
「うん」
リサは静かに頷く。
その返事が優しかったせいで、逆にマサキの胃が少し痛くなった。
「オレに合わせて決めるの、なんか違うだろ」
リサは目を丸くした。
自分でも上手く言えている気がしない。
「装飾は、女子多そうで……オレが無理」
ぼそっと言う。
リサは数秒きょとんとしてから、少し笑った。
女子グループの中へ入っていく自分を想像しただけで、既に疲れる。
「オレ、たぶん余ったとこ入るし」
「如月は、やりたいことやった方がいい」
でもリサは納得した顔をしなかった。
「またそういうこと言う」
「じゃあ、決まったら教えて?」
その言い方がやたら柔らかい。
押しつけている感じがない。
だから余計に断りづらい。
「……」
マサキは数秒黙る。
たぶんリサは、本当にそれだけなのだ。
打算とかではなく。
一緒にいたいから一緒にしようとしている。
だから困る。
マサキはぼそっと返した。
「教えない」
◇ ◇ ◇
ホームルームが始まる頃には、教室の空気はかなり騒がしくなっていた。
文化祭まで、あと少し。
黒板には『文化祭準備 担当決め』と大きく書かれている。
「はい、静かにー」
担任が手を叩きながら前へ立つ。
だが静かになるまでには少し時間がかかった。
クラスのあちこちで、既に小さなグループが出来ている。
「装飾やりたいー」
「背景楽しそうじゃね?」
「大道具って何やんの?」
「買い出し外に出れるんならやりたい」
そんな声が飛び交う中。
マサキは自分の席で、黒板を見ていた。
正直、どこでもよかった。
目立たない場所。
人が少ない場所。
静かな場所。
条件として浮かぶのは、そのくらいだ。
隣では、リサが頬杖をつきながら前を見ている。
今日は髪を少しだけ後ろでまとめていて、白いうなじが見えていた。
それだけで目に入る。
(……なんか色気ある)
マサキは前を向いた。
するとタイミングを見たみたいに、リサが小声で話しかけてくる。
「松前くん」
「……ん」
「ほんとに教えてくれなかったね」
ちょっと拗ねた声だった。
昨日。
"決まったら教えて"と言われて。
マサキは結局、「教えない」で終わらせた。
リサはその時も困ったみたいに笑っていたが、納得はしていなかったらしい。
「……まだ決めてなかった」
「でも言う気なかったよね?」
「……」
否定できない。
リサは小さく息を吐いてから、また前へ目を戻した。
「まぁ、いいけど」
そう言いながらも、少し不満そうだった。
担任が黒板へ班分けを書いていく。
『装飾』
『背景』
『看板』
『大道具』
『備品管理』
「人数偏ったら調整するから、とりあえず希望出してってくれ」
教室が一気に動き始める。
女子達は装飾側へ集まり始めていた。
色画用紙だとか布だとか、そういう話題で既に盛り上がっている。
その中心近くに、自然とリサもいた。
やっぱり似合う。
楽しそうに話しているだけで空気が華やかになる。
笑うたびに周囲の目が集まっていた。
しかも今日のリサは、身振りが大きい。
手を動かすたびに髪が揺れて、制服のラインまでふわっと動く。
マサキは一瞬だけ目が止まって、すぐ前を向いた。
(……見るなって)
最近、自分の視線が危ない。
リサと一緒にいる時間が増えたせいか、前より細かい動きまで意識してしまう。
でも、それを自覚するたびに自己嫌悪も増える。
「松前、どこ行くん?」
男子に聞かれて、マサキは顔を上げた。
「……まだ」
「装飾来いよ。如月さんいるぞ」
「いや無理」
即答だった。
女子が多い。
騒がしい。
目立つ。
その時点で既にハードルが高い。
すると男子達が笑う。
「お前ほんとそういうとこだよな」
「じゃあ余ってるとこ?」
「大道具とか空いてるけど」
「……まぁ」
否定しなかった。
結局、自分はそっち側だと思う。
誰かがやりたがる場所じゃなくて。
最後に残った場所へ入る側。
その感覚は昔から変わらない。
マサキはふと、教室前でリサへ告白していた男子達を思い出す。
ああいうことを、人前で言える。
断られる可能性があっても。
周囲に見られていても。
それでも自分から行ける。
マサキには、あれが別の生き物みたいに見えた。
リサは教室の中心にいる人間だ。
目立つ。
人気がある。
誰かに憧れられる側。
対して自分は。
(……余りもの側だろ)
大道具。
余ったところ。
人が少ない場所。
そっちの方が落ち着く自分がいる。
だから思う。
リサを誘う、という行為そのものが怖い。
一緒にいたいとは思う。
隣にいたいとも思う。
でも。
"自分があの如月理沙の隣へ立とうとする"ことに、未だに現実感がない。
自分なんかが。
そう思ってしまう。
担任が声を上げた。
「大道具ちょっと少ないな、やる人いないか?」
マサキは静かに手を挙げた。
「……大道具で」
すると少し離れた場所で、リサがぴたりと動きを止めた。
目が合う。
「あ……」
リサはほんの少しだけ眉を下げた。
それから数秒、装飾側を見る。
マサキはその瞬間、まずいと思った。
(来るな)
たぶん。
リサはこっちへ来ようとしている。
自分に合わせて。
その方が嫌だった。
マサキは眉を寄せる。
装飾側で笑っているリサは、やっぱり似合っている。
色を選んだり。
配置を考えたり。
楽しそうにしている空気が自然だ。
だから、そこから引っ張りたくなかった。
数秒後。
リサは迷ってから、その場へ残った。
それを見た瞬間。
マサキは、ほっとした。
ほっとしたのに。
同時に胸の奥が変に痛かった。
結局、自分からは隣へ行けない。
リサが来ようとしても、止めてしまう。
余りものを選ぶ方が落ち着くくせに。
それで距離が空くと、勝手に苦しくなる。
(めんどくさ……)
自己嫌悪だけが増えていく。
そのとき。
装飾班の輪の中のリサが、こちらを見た。
目が合う。
ほんの少しだけ。
頬を膨らませていた。
その顔が妙に可愛くて。
マサキは反射で前を向いた。
◇ ◇ ◇
午前中の教室は、文化祭準備の空気で少し散らかっていた。
机は端へ寄せられ、床にはガムテープや段ボール、切りかけの模造紙が置かれている。
ただ、人はほとんどいない。
班ごとに作業場所が分かれているせいだった。
被服室。
木工室。
視聴覚室。
今の教室は、荷物置き場兼、空いた人間が作業するためのスペースみたいになっている。
大道具班の連中も、さっきまとめて買い出しへ出て行った。
「松前も行く?」
「……いや、残る」
大人数でぞろぞろ歩くのは疲れる。
それに、留守番しながら作業していた方が気楽だった。
そんなわけで。
マサキは一人、壁際にしゃがみ込んだまま大道具用の板へ模造紙を貼っていた。
長い板を押さえながら、空気が入らないよう手でゆっくり撫でていく。
単純作業だが、意外と神経を使う。
(……これ、絶対一人でやるもんじゃなかったな)
板が地味に長い。
端を押さえようとすると反対側が浮く。
マサキは小さく息を吐きながら、ガムテープを貼り直した。
静かだった。
廊下の方から遠く運動部の声が聞こえるくらいで、教室の中には紙の擦れる音しかない。
こういう空気は嫌いじゃない。
一人の方が落ち着く。
そんなことを考えていると。
「松前くん、ちょっといい?」
不意に声がした。
声だけで分かる。
顔を上げると、リサがすぐ隣に立っていた。
今日は髪型が少し違った。
長い髪をゆるく三つ編みにして、肩の前へ流している。
きっちり編み込むというより、少し崩した柔らかい感じだった。
動くたび、毛先が胸元のあたりでふわりと揺れる。
文化祭準備のためか袖は少しまくっていて、それが逆にラフで可愛かった。
いつも目立つが、今日はなんというか。
不思議と近寄りやすそうな雰囲気だった。
「……ん」
返事をした直後。
リサはそのままマサキの隣へしゃがみ込む。
膝を抱えるみたいな体勢だった。
かなり近い。
(いや、見えそうなんだが……)
今の角度、かなり危ない。
リサ本人はまったく気にしていないのか、マサキの作業中の板を覗き込んでいる。
「ここ通りたいんだけど、いい?」
振り返ると、マサキの後ろはロッカーだった。
大道具の板を広げているせいで通路がかなり狭くなっている。
聞き返す間もなく。
リサがそのままマサキの横へ足を出した。
しゃがみ込んでいるマサキの視界へ、急に細い脚が入ってくる。
しかもスカートがふわっと浮いた。
「……悪い、どく」
マサキが立ち上がろうとした、その瞬間だった。
「いいって、そのままで――」
リサも同時に動く。
次の瞬間。
マサキの視界が布で覆われた。
「……ん?」
一瞬、何が起きたのか分からなかった。
暗い。
柔らかい布地が顔のすぐ前にある。
状況を把握するため上を見た。
(――っ!?)
見えた。
リサの太もも。
白色の布。
完全に、見えていた。
立ち上がろうとしたマサキの顔の真上を跨いだせいで、視界いっぱいに広がっている。
(これは、パンツ…)
頭が真っ白になる。
(いやいやいやいや待て待て待て――)
それにしても近すぎる。
白い布の皺ひとつひとつまで確認できそうだ。
というか確認できた。
「ちょ、ちょっと……やだ、エッチ」
リサの声が裏返った。




