新学期 ~片耳だけ空けた距離3~'
リサ:
ねえミオちゃん聞いて
今日さ、松前くんとお昼一緒だったんだけど
連絡先交換した
送信。
リサはスマホを伏せて、机に頬杖をつく。
教室のざわつきが、少しだけ遠く聞こえる。
(そーだよ、松前くんの連絡先ゲットしちゃったよー)
スマホが震える。
既読。
早い。
ミオ:
それ、どこでやったの
人いるとこじゃないよね
リサは一瞬だけ目を泳がせる。
リサ:
うん、教室
今しかないと思ってさ
我ながらちょっと頑張った
送信。
(いや実際、頑張ったでしょあれは)
すぐに既読がつく。
ミオ:
……あのね
リサちゃん、今まで誰に聞かれても連絡先教えてなかったよね
その一文で、指が止まる。
リサ:
うん
松前くんが初めて
送信。
口元が少しゆるむ。
(初めて、か)
ミオ:
松前くんに教えたってことは
「自分もいけるかも」って思う人、確実に増えるよ
リサの指が止まる。
視線だけが、教室の方へ流れる。
笑ってるグループ。
ちらっとこっちを見る男子。
(……あ)
言われて、ようやく形になる。
分かっていなかったわけじゃない。
そういうことが起きる可能性は、たぶん最初からあった。
でも、さっきはそこまで考えなかった。
聞くなら、今しかないと思った。
このまま昼休みが終わったら、またタイミングを探すところから始まる。
それが嫌だった。
リサ:
そこまで頭回ってなかった
送信。
ミオ:
今までは「絶対教えない人」で通ってたから良かったけど
一回崩れると、一気にハードル下がったって見られるの
実際は違ってもね
リサはスマホを少し強く握る。
(……そっか)
ミオ:
リサちゃんなら、ちゃんと上手く断れると思うけど
つらかったら言ってね
少し間。
リサ:
ありがと
頼りにしてる
送信。
スマホを伏せる。
教室のざわめきはそのまま続いているのに、さっきより少しだけ遠い。
画面には新しく追加された名前。
「MASAKI」
リサはその表示を見て、ほんのり笑う。
(最初のひとこと、なんにしよっかな)
思わずまたニヤけてしまう。
◇ ◇
リサはスマホの画面を閉じて、机の上に伏せた。
そのとき。
「なあ、如月さん」
声をかけられる。
顔を上げると、クラスの男子が一人、机の横に立っていた。
「さっきさ、松前と連絡先交換してたよな」
「……うん」
リサは軽く返す。
「じゃあさ、オレとも交換しない?」
軽いノリ。
でも、断られるとは思っていない顔だった。
(来た…)
ミオの言葉がよぎる。
リサはにこっと笑って、
「ごめん、それは無理かな」
あっさり断る。
男子は一瞬だけ止まってから、
「え、なんで?松前とはしてたじゃん」
リサは軽く首を傾ける。
「うん、したよ」
「じゃあいいじゃん、別に。連絡先くらい」
軽さを残したままの声。
でも、さっきより少しだけ引っかかるものが混じっていた。
リサは表情を崩さない。
「でも、全員に教えるわけにもいかないからさ」
やんわり言った。
「……は?」
「相手はちゃんと選んでるから、ごめんね」
柔らかく、笑っている。
男子は少しだけ顔をしかめた。
「いや、選ぶって何。基準あんの?」
「松前はよくてオレはダメって、正直意味わかんねーんだけど」
教室にいる人の視線が、じわじわ集まる。
リサは表情を崩さないまま、
「それはごめん、言い方悪かったかも」
男子の顔がわずかに歪む。
「……感じ悪くね?」
リサは笑顔を保ったまま、言葉を飲み込む。
(あー……)
これ以上、どうやわらかく断ればいいのか。
リサが次の言葉を選びかけた、そのとき。
「……それもう答え出てるだろ」
低い声。
男子のすぐ後ろに、いつの間にかマサキが立っていた。
男子が振り返る。
「……は?」
マサキはポケットに手を入れたまま、
「断られてんじゃん」
それだけ言って、何事もなかったみたいに通り過ぎる。
視線も合わせない。
ただ、そこにあった事実を言っただけ。
男子が口を開きかけて、止まる。
周りの空気も、そこで一度切れる。
(……強っ)
リサは内心で少しだけ驚く。
マサキはそのまま自分の席に戻って、何もなかったみたいに椅子を引いた。
もう関係ない、みたいな顔。
クラスのあちこちで、小さな声が弾ける。
「……さすがにあれはしつこくない?」
「ちょっとな、空気読めよって感じ」
ひそひそと、でも少しだけリサ寄りの温度。
「如月さん可哀想」
「断ってんのに食い下がるのはキツわ」
さっきまでの『なんでマサキ?』という空気とは、明らかに違う。
男子生徒は耐えきれなくなったのか、黙って自分の席に戻った。
少しだけ、流れが変わっていた。
その中で、別の声。
「てか今さ、松前なんか言ってなかった?」
「え?いや、通り過ぎただけだろ?」
「なんか言ったからあいつ黙ったんじゃね?」
曖昧なままの認識。結論も、ふわっとしたまま流れる。
当の本人は、
「……」
もう何も関係ないみたいに、机に肘をついている。
リサはその様子を横目でちらっと見る。
(……いや、カッコ良すぎでは?!)
思わず、口元が緩む。
さっきまで少しだけ張っていた空気が、嘘みたいにほどけていく。
リサはスマホを手に取って、画面を開く。
「MASAKI」
その表示を見て……
「くふっ」
小さく笑ってしまう。
今度は、隠さなかった。
リサはスマホの画面を見つめたまま、少しだけ考える。
さっきの一言。
空気の切り方。
あの時みたいだった。
(……ありがとう、は言いたいんだけどな)
指が止まる。
◇ ◇
一方で、マサキは何事もなかったようにノートを開いていた。
シャーペンの音は一定。姿勢もいつも通り。
でも。
ほんのわずかに、動きが固い。
ページをめくるタイミングが一瞬遅い。
視線が、たまにノートの同じ行で止まる。
(あれでよかったのか)
考えるつもりはなかったのに、勝手に戻ってくる。
ペン先が一瞬止まる。
さっき、リサは言っていた。
全員に教えるわけにもいかない。
相手はちゃんと選んでいる。
その言葉が、今になって妙に引っかかる。
マサキは勝手に思っていた。
あの子の連絡先なんて、周りの人間はもう当たり前に知っているのだと。
自分だけが知らなかっただけで、今日の流れでついでに聞かれただけなのだと。
そう思えば、期待しなくて済んだ。
でも、違った。
あの子は選んでいた。
そのせいで、今度は詰められていた。
(……いや、余計なことは言ってない)
別に助けたとかじゃない。
優しさでもない。
ただ単に、
(あの子だけは、無視すると後味が悪い)
困っているのに、助けを求める顔をしていなかった。
笑ったまま、いつも通りの声で断ろうとしていた。
でも、その笑顔が少しだけ固かった。
それに気づいたら、もう見なかったことにはできなかった。
放っておくと、自分に飛び火しそうな内容だったのもある。
そういう面倒なことを避けただけだ。
自分に言い聞かせるようにして、また書き始める。
そのとき。
スマホが小さく震える。
一瞬、反応が遅れる。
(……来た)
視線だけ落とす。
《さっきはありがとね》
短い文。
それだけなのに、少しだけ呼吸が詰まる。
(……別に)
打つのは簡単なはずなのに、指が一瞬止まる。
周囲の音が少し遠くなる。
リサの視線がどこかにある気がして、無意味にページをめくる。
《別に》
送信。
すぐに既読。
間。
返ってくる。
《本当に助かった。あとカッコ良かった》
(カッコ良かった、って何だ)
ほんの少しだけ、眉が動く。
《そうか》
(深くしない方がいい)
そう判断したはずなのに。
すぐ返ってくる。
《今度お礼させて》
指が止まる。
(……お礼?)
視線がノートから外れる。
教室の音が少しだけ戻ってくる。
でも、思考は戻らない。
(別にそんな大したことしてない)
送るべき答えは決まってる。
《気にしなくていい》
即答。
(これで終わる)
はずだった。
《じゃあ勝手にする》
(……勝手に)
わずかに息が止まる。
返す言葉はあるのに、少しだけ遅れる。
周囲から見ればほんの一瞬。
でも本人には長い間。
(どういう意味だ)
結局、短く返す。
《……好きにしろ》
送信した瞬間、指が止まる。
(……今の、言い方きつくないか)
突き放したつもりはない。
でも、文字だけで見るとかなり冷たい。
返すならもう少し言い方があった気がする。
でも、もう戻せない。
(……今のは、ないだろ)
女の子に向ける言い方じゃない。
返すならもう少し言い方があったはずなのに、焦って一番雑な言葉を選んだ。
(……終わったな)
既読はついた。
けれど、返事は来ない。
その数秒が、やけに長い。
画面に残った自分の言葉が、さっきよりずっと冷たく見えた。
好きにしろ。
そんなつもりで打ったわけじゃない。
突き放したかったわけでもない。
でも、文字だけで見ればそうとしか読めない。
(やらかした…)
せっかく連絡先を交換した。
向こうから話しかけてくれて。
お礼まで言ってくれて。
それなのに、最初のやり取りでこれだ。
傷つけたかもしれない。
気を悪くしたかもしれない。
もう返ってこないかもしれない。
(何やってんだ、オレ)
指が画面の上で止まる。
謝るべきだ。
そう思って、入力欄を開く。
《悪い》
そこまで打って、止まった。
何が悪いのか。
言い方がきつかったことか。
それを今さら説明したところで、余計に面倒なやつになるだけじゃないのか。
追撃する方が重い気がして、結局、文字を消す。
スマホを伏せる。
ノートに視線を戻す。
でも、さっきまで書いていた行がどこだったのか分からない。
(……やり直したい)
そう思った。
たった一通。
たった一言。
それだけなのに、もう戻せない。
スマホはもう震えない。
◇
「ねえ」
横から、軽い声がした。
リサがいつもの調子で、机の横にひょこっと顔を出す。
さっきの空気を引きずっている様子はない。
むしろ、さっきより少しだけ距離が近い。
肩の高さより少し下から覗き込むようにして、自然に視線を合わせてくる。
髪が一度だけ揺れて、頬の横で止まる。
その動きだけがやけに目に残る。
「松前くんのLINE、なんか楽だねー」
「……は?」
マサキは顔を上げる。
責められると思っていたわけではない。
でも、さっき送った短い返事が頭の中に残っていたせいで、次に来るなら少し気まずい空気だと思っていた。
なのに、リサは何事もなかったようにそこにいる。
怒っている顔でもないし、傷ついた顔でもない。
そもそも、そんなふうに受け取ってすらいない顔だった。
(……なんで、普通に来るんだ)
気を遣って無理をしてる。
この子なら、それくらいやりそうだと思った。
気まずくなりそうな空気を先に笑って流すくらい、たぶん簡単にできる。
だから、余計に分からない。
マサキは一瞬だけ、リサの顔を見る。
口元だけじゃない。
声の軽さも、目の動きも、変に取り繕っている感じがない。
無理に明るくしている時の硬さがない。
本当に、その返事を引っかかるものとして受け取っていない。
そう分かった瞬間、さっきまで勝手に膨らんでいた後悔だけが行き場をなくした。
しかも出てきた言葉が、LINEが楽、だった。
(いや、なんだ?LINEが楽って)
頭の中で言葉が散る。
リサはスマホを軽く振りながら続ける。
画面の光が指先に反射して、白く抜けた。
「一言で返ってくるから。超わかりやすい。簡単」
(簡単って何だ……それ悪い意味じゃないよな?いや、雑って言われてる?)
「……褒めてる?」
口から出た声はいつも通りを装っているけど、少しだけ遅い。
リサはきょとんとして、それからすぐに頷く。
「褒めてる褒めてる」
にこっと笑う。
口元だけじゃなくて、目の形ごと柔らかくなる笑い方だった。
笑った拍子に、まつ毛がわずかに揺れる。
光を拾って、そこだけ少しだけ明るく見える。
その瞬間だけ、空気が軽く変わる。
(……いや今の、可愛すぎるだろ)
ただ笑っただけなのに、変に間が残る。
首を少し傾けたままこちらを見ている。
マサキは目線を外す。
「だってさ、長くされたらこっちも長く返さなきゃってなるじゃん。あたし文字打つの遅いから、楽だなって」
マサキはそこで、少しだけ言葉に詰まる。
自分の返事は短くて雑なだけだと思っていた。
でもリサは、それを冷たいものとして受け取っていない。
むしろ、短いままで成立するやり取りとして受け取っている。
(……向こうも、こっちの方が楽なのか)
そう思うと、さっきまで張りつめていた感じが少しほどけた。
「というか」
小さく息を吸って、言い直すように口を開く。
「先に一言だけ送ってきたの如月さんじゃ……」
言ってから、少しだけ間が空く。
リサが固まる。
(いや、今のは責めてるみたいな言い方になった……っ)
本当に言いたかったのは、そうじゃない。
先に一言だけ送ってきたから、こっちも一言で返せた。
長く返さなきゃいけないとか、どう書けばいいのかとか、そういうところで止まらずに済んだ。
だから、楽だったのはリサだけじゃない。
そう言いたかった。
なのに、口から出たのは、先に短く送ってきたのはそっちだろ、みたいな言い方だった。
マサキが内心で詰まっていると、リサは一瞬だけ目を丸くしたあと、ふっと笑った。
「それは、そう」
あっさり認める。
マサキが言い損ねた方の意味を拾ったみたいに、少しだけ楽しそうに目を細める。
「じゃあ、お互い様ね」
「お互い様か?」
マサキはぼそっと返す。
リサは小さく頷く。
「うん、お互い様」
短いやり取りなのに、そこで少しだけ空気が戻る。
マサキが短く返せたのは、リサが先に短く送ってきたから。
リサが楽だと言ったのは、マサキも短く返してきたから。
どっちかだけが合わせたわけじゃない。
たぶん、少しだけ、同じことをしていた。
そう思うと、さっきまでの後悔がすっと落ち着いた。
リサは楽しそうにマサキを見る。
視線が軽いのに、やけにまっすぐで、逃げ場がない。
(……)
マサキの視線が止まる。
髪の流れ。
笑ったときに少しだけ下がる目尻。
口元の動きがやわらかくて、言葉より先に表情が動く感じ。
あと、距離が近いせいで、瞬きのたびに視線がぶつかる。
(……普通に顔かわいいんだけど)
鼻筋とか目の形が整ってる、というより。
動いたときに崩れないバランスがずっと安定してる感じ。
こっちが見てることに気づいても、変に作らないままそのままでいるのが余計に目に残る。
(いや何考えてんだ今、ちゃんと会話しろ)
「さっきの、ほんと助かったよ」
その言葉だけ、少しだけトーンが落ちる。
マサキは動きを止める。
(助かった……?)
さっきもLINEで言っていた。
でも、あれは助けたつもりではない。
放っておいたら後味が悪かっただけで、説明しろと言われても、たぶんうまく言えない。
「……別に」
短く返す。
頭の中は少しだけ忙しいのに、表には出さない。
リサは、それを深くは聞いてこなかった。
ただ、少しだけ嬉しそうに笑う。
「やっぱ松前くん、かっこいいよね」
一瞬。
(……は?)
脳が空白になる。
意味は分かる。
褒め言葉だというのも分かる。
でも、その言葉を自分に向けられたものとして処理するには、どうしても一拍以上足りなかった。
(いや、今の流れでそれ出るのか? なんで? 何基準?)
「……そういうの、いいから」
ぼそっと返す。
いつも通りのトーンに戻そうとした声。
(最悪だな今の。何が「いいから」だよ、感じ悪すぎだろ)
本当にそういうつもりじゃない。
どう返せばいいのか分からなかっただけだ。
こういう言葉を向けられ慣れていないのに、さらっと受け取れるわけがない。
リサは、きょとんとする。
「やだな、お世辞とかじゃないよ」
悪気がないのは分かる。
むしろ本当に、ただそう思っただけの顔だ。
それが逆に厄介だった。
(いやだから困るんだって、そういうの)
否定したら角が立つ。
肯定したら、もっとおかしな空気になる。
流そうとしたら、今みたいになる。
どれを選んでも正解が見つからなくて、思考だけが一瞬で詰まっていく。
「ごめん」
そこまで考えて、ぽろっと出た。
その一言が、少しだけ宙に浮く。
リサは目を瞬かせる。
「え、なにが?」
軽い声だった。
その軽さに、余計に言葉が迷子になる。
(違う、今のは謝る場面じゃない)
口を開きかけて、やめる。
沈黙が一拍だけ落ちる。
その間に、リサは特に急かすこともなく、ただマサキを見ていた。
不思議そうでも、評価するようでもない。
ただ、言葉が出てくるのを待っているだけの視線だった。
マサキは短く息を吐く。
「さっきの……」
言いかけて、また止まる。
感じ悪かったと説明するのも違う。
今さらフォローするのも変だ。
そもそも何をフォローしているのか、自分でもよく分からない。
結局、言葉を削っていくしかなかった。
「言い方が悪くて」
ようやく、それだけ出す。
リサは少しだけ目を細める。
「ふーん」
納得したのかしていないのか分からない声。
でも、それ以上は踏み込んでこない。
その代わり、ふっと笑う。
「気にしすぎじゃない?」
その軽さに、マサキはほんの少しだけ肩の力を抜いた。
(……助かる)
これ以上掘られたら、確実に変な方向へ行っていた。
リサは一度スマホを机に置いて、少しだけ首を傾ける。
「松前くんて、ほんとに喋るの苦手なんだね」
(……今さらそれ言う?)
事実ではある。
でも、わざわざ言葉にされると、妙に恥ずかしい。
マサキは間を置いて、顔を上げる。
「それは、褒めてないよな」
声はいつも通りのつもりだった。
でも、ほんの少しだけ硬い。
リサはきょとんとして、それからすぐに笑う。
「ううん、頑張って返事してくれてるの偉いよー」
(偉いってなん……)
意味の整理が終わる前に、リサの手が伸びる。
何の前触れもなく、ほんとに自然に。
ぽん、と。
マサキの頭に触れる。
そのまま優しく、軽く、髪の流れを整えるみたいに撫でる。
(……え)
思考が一瞬で止まる。
教室の音が少し遠くなって、自分の頭の上だけがやけに現実的になる。
(いや待て、今これ何だ。撫でられてる? 頭? なんで?)
動こうとすると全部おかしくなる気がして、身体が固まったまま動かない。
リサは触れてから、ほんの一瞬だけ自分でも気づいたように目を瞬かせた。
けれど、すぐには手を引かない。
言葉で言い切れなかった分を、そのまま手のひらに乗せるように、髪の流れを軽く整える。
(こういうのって、もっと特別な時のやつじゃないのか……? いや、特別って何だ)
頭の上だけがやけに熱を持って残る感覚に、思考がさらにまとまらなくなる。
(距離感、ほんとおかしいだろ、この子……)
リサは数秒だけそうしてから、すっと手を離した。
あくまで、さっきの会話の続きのような自然さで終わる。
その瞬間、逆に余韻だけが残った。
(いやほんと、こういうとき何か言えよ……オレ)
手を離したあと、リサは何事もなかったように目を外す。
でも、口元がほんの少しだけゆるんでいるのは、自分でも隠せていない。
何かを伝えようとしているように、その目だけがやわらかかった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
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