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距離感ゼロの如月さんと自己評価ゼロのオレ  作者: 空色いろはに
デート 編

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109/111

スイーツ 前編 ~誘ったのはオレだから2~’

(……やばい)


 マサキは一瞬、自分が何をする予定だったか飛んだ。

 本当は、自然に声をかけて、人混み側へ立つつもりだった。

 流れで手でも引いて、改札へ向かって、そのままホームまで案内するつもりだった。


 全部、消える。

 可愛い。

 まずそこしか残らなかった。


「マサキくん?」


「……あ、いや」


 マサキは遅れて目を逸らす。


「その……似合ってる」


 一瞬、リサが止まる。


「……へ」


 耳が赤くなった。


「ん、んんー……ありがとう」


 リサは照れたみたいに髪を触る。

 そして今度は、じっとマサキの方を見る。


 黒寄りの落ち着いたカーディガン。

 白のインナー。

 肩周りも、今日は少し整って見えた。


 リサの目が、ゆっくり上下する。


「……なんか今日、すごい新鮮」


「そうか?」


「うん、いつもより大人っぽい」


 リサは笑う。

 けれど、そこで終わらず、もう一度だけマサキを見る。

 さっきより少しだけ、視線が長い。


 服を見ているのか。

 自分を見ているのか。

 それとも、頑張って選んできたのがバレているのか。


 マサキは喉の奥で言葉を止めた。


「かっこいいよねー、ほんと」


 リサは言ったあと、自分で言ったことに照れたようにスカートの裾をいじった。


「……」


 マサキが一瞬だけ黙る。

 目が泳ぐ。

 褒められたことより、それをちゃんと見て言われたことの方が、逃げ場をなくしていた。

 その反応が、余計にリサを照れさせた。


「えへへ……なんか、緊張してきた」


 笑いながら、リサはマサキの隣へ並ぶ。

 肩が触れそうな距離。

 でももう、その近さを避ける感じは前より薄かった。


 本当なら、ここで自然に手を取って、先を歩く予定だった。

 昨夜、ベッドへ入ってからも何回か頭の中で練習した。

 ここで軽く「行くか」と言いながら手を出す。

 そのまま自然に歩き出す。

 ……はずだった。


 だが現実は。


「マサキくん、はぐれないでねー」


 そう言いながら、先に手を掴んできたのはリサだった。


「……っ」


 マサキの肩が小さく跳ねる。

 指先が絡む。

 柔らかい。

 温かい。

 マサキの手より小さい指が、遠慮なく入り込んでくる。


 リサは前を向いたまま、小さく笑った。

 その横顔は、繋いだ手の熱を気にしていないふりをしているようで、耳が赤い。


「ね?」


 軽い言い方。

 でも、耳は赤い。

 マサキは数秒遅れて、ようやく息を吐いた。


「……人、多いからな」


「うん」


 短いやり取り。

 リサはそのまま指を離さず、手の力をわずかに強めた。

 マサキの手は硬かった。

 緊張してるのが分かるくらい、力が入っている。


 リサはその感触が嬉しくて、指へ力を返した。

 一方でマサキは、静かに目を落としていた。


(先越された。しかも、自然に)


 本当は。

 自分からやるつもりだった。

 手を繋ぐのも。

 人混みを歩くのも。

 リードする側になるつもりだった。


 昨夜、あれだけ頭の中で練習したのに。

 結局、先に動いたのはリサ。

 自然だった。

 迷いがない。

 自分みたいに、タイミングを考えて固まったりしない。


(……ダサ)


 落ち込む。

 隣を歩くリサは、そんなこと全然気づいてなさそうに笑っているのに。

 マサキだけが、一人で勝手に反省していた。


 ◇   ◇


 駅構内へ入った瞬間、足音が変わった。

 天井へ反響するアナウンス。

 改札機が短く鳴る電子音。

 休日の昼前らしいざわつきが、広い通路いっぱいへ流れている。


 改札を抜けてからホームまでの流れを、昨夜のマサキは何度も頭の中でなぞっていた。


『次、快速だから』

『降りたら東口』

『そこから二番出口』


 スマホの乗換案内を何回も見返して、頭へ叩き込んだ。

 だが今、隣を歩くリサを見るだけで、思考の半分が飛んでいく。


 目の置き場が、決まらないまま歩いていた。

 ミニスカートの裾が歩くたび揺れる。

 白い脚。

 細い足首。

 歩くたび、スカートの裾がふわりと揺れて、そのたびマサキは目を逸らすタイミングを失いかける。


(……見すぎだろ)


 しかも本人は妙に楽しそうだった。


「電車久しぶりかもー」


 リサはきょろきょろ周囲を見ながら笑う。

 秋口には薄すぎる格好なのに、本人は気にした様子もない。

 服、髪、薄いメイク。

 今日のリサは、いつもより時間をかけてきている。

 それが分かるから、余計に目の持っていき場が困る。


 歩くたび、巻いた髪が肩で揺れる。

 そのたびに甘い匂いがふわりと近づく。


「……電車」


 言いかける。


「三番線だよね?」


 先にリサが言った。

 マサキの目が止まる。

 リサは得意そうに笑った。


「……知ってるのか」


「えへへ、調べた」


 リサは繋いだ手を小さく揺らした。


「次の発車、11時2分でしょ?」


「……まぁ」


「あと、降りたら東口方面ね」


「…………」


 マサキは黙った。

 昨日、自分で調べた内容だった。

 発車時間。

 到着時間。

 出口番号。


 全部、もうリサが把握している。


(オレ、意味あったか……?)


 本当は、もっと上手くやりたかった。

 自然に先回りして、迷わせず、リードして。

 そういうのを想像していた。

 じわっと落ちる。


 でも同時に、リサが楽しそうに話していることに救われてもいた。


 ◇


 電車が到着する。

 扉が開いた瞬間、人が一気に流れ込んだ。


「……混んでるな」


「休日だしねー」


 笑いながら、リサはマサキの後ろへついてくる。

 車内は予想以上だった。

 吊革はほぼ埋まり、通路も狭い。

 マサキはとっさに、リサと人の流れの間へ身体を入れた。


「こっち」


「ん」


 ドア横のスペースへ寄る。

 後続の乗客が流れ込んでくる。

 背中側から押される。

 肩がぶつかる。

 車内が揺れる。


 その瞬間。


 むにゅっ。


 柔らかい感触が、マサキの上半身へ押し潰されるみたいに触れた。


「…っ」


 マサキの身体が止まる。

 近いというか、もう密着していた。

 リサの身体が、ほとんどマサキへ預けられる形になっている。

 胸がむにっと押し潰れ、柔らかく形を変えた。

 薄手ニット越しの感触が、揺れるたび生々しく伝わる。


 ふにっ。

 むにゅっ。


 電車が動くたび、柔らかい圧迫が増える。


(いや待て待て待て)


 マサキは反射的に身体を引こうとした。

 だが、後ろから人が押す。

 横も埋まっている。

 もう距離がない。


 それでも何とか距離を作ろうと身体をよじる。

 その瞬間。


「あぅ……」


 小さく、痛そうな声。

 マサキの動きが完全に止まった。


「……え」


 見ると、リサが眉をわずかに寄せている。

 押し潰された胸。

 マサキが無理に離れようとしたせいで、余計に変な方向へ圧がかかっていた。


(やばい)


 血の気が引く。


「だ、大丈夫か」


「ん……だいじょぶ……」


 リサは小さく頷いた。

 でも苦しそうだった。

 マサキはその瞬間、完全に動けなくなった。


 離れようとすると痛める。

 柔らかい。

 潰れてる。


 電車が揺れる。

 そのたび、むにゅ、と柔らかい感触が押し返してくる。


(……終わった)


 マサキは天井を見る。

 完全停止。

 下手に動く方が危険だと理解してしまった。


 一方リサは、最初こそ驚いていたものの、数秒後にはマサキの背中に手をまわしバランスを取っていた。

 顔が近い。

 伏せ気味の睫毛。

 ほんのり赤い耳。

 混雑で熱を持った頬。


 その距離で、リサが小さく笑う。


「……マサキくん、いてくれて助かる」


「……は?」


 マサキの眉がわずかに動く。

 電車の揺れに合わせるように、リサの体がマサキへ預けられ、そのまま小さく笑った。


「だって、人すごいし」


 背中側で、また誰かがぶつかる。

 車内が揺れる。

 でも、リサはさっきより身体へ力を入れていなかった。


「マサキくんいると、押されないもん」


「…………」


 マサキは言葉を失う。

 自分は今、何かをうまく導いているわけじゃない。

 立っているだけに近い。

 それでもリサは困った顔をしていなかった。

 肩のあたりへ体を預けたまま笑う。


「ありがと」


 声は小さい。

 電車の音に混ざるぎりぎりのところで、マサキの方にだけ届く。

 マサキは数秒遅れて目を逸らす。


(……意味、あるのか)


 さっきまでの空白が、形を変える。

 完璧に案内できているわけじゃない。

 予定通りでもない。

 それでも今、リサは確かに落ち着いている。

 その事実だけが、静かに残った。


 ◇   ◇


 駅からホテルまでは徒歩七分だった。

 街路樹の並ぶ歩道を、二人並んで歩く。

 ビルの隙間から差す光が、白い外壁に反射していた。


「もうすぐだー」


 リサは繋いだ手を軽く揺らしながら前を見ている。

 足取りが速い。

 その横顔は、さっきまでの駅の喧騒とは違って、ずっと軽い。

 目の奥まで楽しそうで、歩くたびに髪の先が跳ねる。


「食べ放題とか久々だなー。マサキくんは最近行ったりした?」


「……焼肉なら」


 マサキは短く返しながら、ホテルの入口を探して目を上げた。

 ガラス張りの外壁。

 石の柱。

 自動車の乗り降りスペース。


 思っていたより、ずっとしっかりした場所だった。


「……でかいな」


 思わず声が漏れる。


「わぁ……」


 リサも同じタイミングで足を止めていた。

 見上げたまま、口をわずかに開ける。


「ホテルって感じするねー」


 そのまま笑う。

 いつもの軽さのままなのに、目線は建物の奥まで追っている。


 マサキは一歩だけ遅れて歩き出す。

 ガラス扉。

 ホテルのロゴ。

 左右に開く重そうなドア。


 歩きながら、頭の中で一瞬だけ段取りが浮かぶ。


(ここで……先に開けて)


 頭の中では、自然に一歩出て、リサの前に立つ。

 扉に手をかけて、先に開ける。

 それが、思い描いていた流れだった。


 脳内でもう一度シミュレーションする。

 次の瞬間、リサの手が離れた。

 そして、リサが一歩先に出ていた。


 ガラス扉の前で軽く足を止めることもなく、そのまま自然に手を伸ばす。

 カチャ。

 軽い音がして、ドアが開いた。


「……え」


 マサキの足が一瞬止まる。

 リサは振り返りながら、軽く笑った。


「ほら、入ろー?」


 何でもないみたいな声。

 そのまま扉を押さえて待っている。

 マサキは一瞬、反応のタイミングを逃して、目を逸らすのが遅れたまま固まる。


(今、オレがそれやるとこだったのに)


 胸の奥で、言葉にならない引っかかりが残る。

 リサはそれを気にする様子もなく、身体を横にずらした。

 先に入るように、という自然な動き。


「マサキくん、どうしたの?」


「……いや」


 マサキは短く答えて、扉の前へ足を進める。

 ガラス越しに見えるロビーは、想像より明るかった。

 高い天井。

 白い照明。

 奥に続く広い空間。


 受付カウンター。

 案内表示。

 左右に分かれた通路。

 スタッフの立っている位置。


 目だけが先に動く。

 初めて入る場所の広さと明るさが、頭の中の段取りを一瞬だけ鈍らせた。

 さっきまで頭の中で組み立てていた流れが、入口で崩れる。


 リサはすでに息を弾ませていた。

 歩きながら、周囲を見回す。


「うわ…きれー…」


 そのまま振り返る。


「ね、マサキくん」


 呼ばれて顔を上げる。

 リサは楽しそうに笑っているだけだった。


「はーやく」


 リサが一歩戻るように近づいて、マサキの手を取った。

 マサキがそちらへ視線を戻すより早く、リサは迷いなく受付の方へマサキを引っ張っていく。

 靴音が響く。


「すいません、予約してるんですけどー」


 リサは自然に前へ出る。

 スタッフの案内に頷く動きも迷いがない。


(誘ったの、オレだよな……)


 その思考だけが、静かに残る。

 リサは気にしていない。

 むしろ、楽しそうだった。


「マサキくん、こっちだって」


 振り返って笑う。

 軽く手を引っ張って、そのまま歩き出す。

 入口を開けたのはリサで、今の流れもリサが作っている。


 ◇   ◇


 ホテルのロビーを抜けて、案内された先は大きなガラス窓のあるフロアだった。

 照明は白く柔らかいのに、どこか眩しい。

 奥まで続く空間に、色が散らばっている。


 苺。

 白いクリーム。

 艶のあるチョコレート。

 レモンのゼリー層。

 ピスタチオのクリーム。

 キャラメルが流れるタルト生地。

 ナッツが散ったムース。


 前面に扉のついたガラスケースの中に、整列するように並んでいた。


「……」


 マサキは一瞬、言葉を失う。

 よく行く焼肉の食べ放題みたいに、肉を注文して焼けばいい場所とは、空気からして違っていた。

 甘い匂いが満ちていた。

 目の前の情報量が多すぎて、目の置き場が定まらない。


 一方で、隣のリサも止まっていた。

 繋いだ手のまま、ほんの少しだけ前へ出る。


「え……すごぉ」


 息が混ざるみたいな声。


「すご…すごすぎる」


 目の奥が一気に明るくなる。

 ガラスケースへ吸い寄せられるみたいに、身体が傾く。

 白いニットの袖が揺れて、ショーケースの光を受けた髪がふわりと跳ねる。


 マサキはその横顔を見てしまう。

 さっきまで駅で見ていた<人目を引く存在>とは違う。

 今はただ、目の前の甘いものに引っ張られている顔だった。


「こんなん可愛すぎて食べられないよ。食べるけど」


 リサは笑いながら、ガラス越しのケーキを指で追う。

 ショートケーキ。

 苺タルト。

 艶のあるベリーのドーム。

 ミルクレープの層。

 チーズケーキの滑らかな断面。


 フルーツロールの断面に巻かれたクリーム。

 ガトーショコラの濃い影。

 モンブランの細い糸状クリーム。


 目が忙しく動いている。


「どうしよう、なにから食べればいい?」


 身を乗り出すたびに、ニットの肩が軽く上下する。

 目が完全にケーキへ固定されていた。


「やばいやばい全種類は無理だ。厳選しないと…」


 独り言みたいに言いながら、もう笑っている。

 指先が落ち着かないまま、ケースの中を何度もなぞる。


 マサキはその横で、静かに立ち尽くしていた。


(……楽しんでる)


 さっきまで頭の中にあった<段取り>が、少しずつ薄れていく。

 トングの動かし方。

 最初に取る量。

 皿のバランス。


 どれも、今のリサの前では意味が薄い気がした。

 リサは迷っているようで、楽しんでいる。

 選べないことすら、嬉しそうだった。


 マサキの目が、もう一度ガラスケースへ戻る。

 苺が山のように積まれたタルト。

 真っ白なホイップと赤いベリーが重なるケーキ。

 光を反射するドーム型の艶。

 どれも整っていて、少し眩しい。


「……任せる」


 マサキは小さく言う。


「うん!」


 リサは迷っているくせに、手だけはもう動いていた。

 トングを手に取りながらも、目はずっとケースの中にある。


「どうしよう、天国すぎる」


 笑いながら言っているのに、声が弾んでいた。

 次の瞬間にはもう、選んでいる。

 一つ選ぶたび、迷いがないのに、次を見てしまう。

 皿の上が少しずつ甘い色で埋まっていく。


「これも絶対おいしいやつじゃん……」


 小さく息を吐いて、またトングが動く。

 横で見ているだけなのに、目の奥がずっと忙しい。


 ◇


 案内された席は、窓際だった。

 ガラス越しに、外の光がテーブルへ落ちている。

 リサは座るより先に、トレイを置いた。

 椅子を引く動作が半拍遅れる。


 そのまま、フォークを取る。

 いちごの乗ったタルト。

 白いクリームが崩れないまま、光を反射していた。


「……いただきます」


 小さく言って、迷いなくケーキを口に運ぶ。

 次の瞬間。

 動きが止まる。

 フォークが途中のまま止まる。


「んー、おいしーっ」


 一口目で、目が細くなる。

 フォークを持ったまま、身体が後ろへ揺れた。

 次のケーキを口に運ぶ。


「これやば……ほんとやばい」


 頬がゆるむ。

 言葉が追いついていないのに、楽しさだけは増えていく。

 口元が緩むたびに、目がケーキの上を滑っていく。


(……楽しんでるな)


 その事実が、ようやく形になる。

 うまく案内できたかとか。

 どっちが扉を開けるとか。

 先に手を繋ぐとか。


 そういうものが、関係ない位置へ落ちていく。

 代わりに残るのは、目の前の光景だけだった。

 ケーキを見て、迷って、選んで。

 口に運んで、止まって、また次を見る。


 その繰り返しが、ずっと崩れない。

 マサキは息を小さく吐いた。


(……そうか)


 短い納得だった。

 リサはただ、楽しんでいる。

 その事実が、遅れて落ちてくる。


 マサキは目を落とした。

 皿の上のフルーツは減っていないのに、なぜか重さだけが軽くなっている。

 ふと、口の奥で言葉が形になる。


(……誘って、よかったな)


 声にはならない。

 ただ、その一言だけが、ずっと残った。


 リサはもう一口、ショートケーキを口に運んでいた。

 クリームが唇につく。


「あ、これ無限にいける」


 その笑顔は、どこにも作られていない。

 ただ甘いものに夢中な顔だった。


 ◇   ◇


 マサキの皿には、静かな色だけが並んでいた。

 メロンの淡い緑。

 いちごの赤。

 マンゴーの柔らかな黄色。

 その間に、クリームの少ないムースとプリンが置かれている。


 それを選んだのは、ほとんどリサだった。

 自分の皿にはケーキを並べながら、マサキの方にはフルーツを多めに、クリームの少ないものをひとつずつ置いていった。

 派手さはないのに、妙に落ち着いたまとまりがあった。


 一方で、リサの皿は最初からずっと忙しい。

 フォークが止まらない。

 次の一口が、すでに次の選択になっている。

 ケーキをすくって、口へ運ぶ。


「……んっ」


 その瞬間だけ、表情が一度止まる。

 目がぱっと開いて、それからゆっくり細くなる。

 肩がふわりと落ちて、息がほどけるように抜けた。


「これ……おいし……っ」


 言い切る前に、もう次へ手が伸びている。

 迷いがない。

 ためらいもない。

 ただ<楽しい>だけが、連続している。

 その顔が、やたらと自然に可愛い。


(……可愛いな)


挿絵(By みてみん)

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