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忘却のアナタシスア   作者: 風鈴鳴梅
序章 僕と君の三千世界
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第4話 お尋ね者にご用心!

 ーー数十分前


 教会地下に隠された書斎で、本棚に仕舞われている本を、ゴソゴソと漁る影があった。


「ここにはないのか?おかしいな。」


 幾つもの本棚が並び立つ中で、夏樹は奥の方へ進んでいくと、厳重に鍵がかけられた机を発見する。


「鍵か」


 周りを見渡して鍵を探すと、机の下に敷かれたマットがあった。普通、鍵を隠すならばこの下に置かれていることが多い…実際にはよほど不用心な人間でない限りあり得ないがーービンゴだった。

 見つかったのは鉄で作られた小さな鍵である。さっそく鍵穴に嵌めてみると、簡単に施錠される。


「これが、教会の隠していた物か」


 中を開けるとそこには茶色い小包で覆われた本のような何かが入っていた。内容を見るために、小包を開けようとしていると…


「何者だ!?」


 部屋の扉が開いていることを不審に感じた衛兵が部屋に入って来てしまう。夏樹はすぐに小包を懐へ仕舞って


「チッ…」


 暗い部屋であることを利用し、即座に衛兵の身体を突き飛ばし外へ駆け走る。


「…! 待て!!」


 夏樹の存在に気づいた衛兵は無線で仲間に連絡を取りつつ、彼もまた外へ出て行くのだった。








「侵入者だ!!追いかけろ!」

「えっ、夏樹さん?」


 カノンの目に映ったのは、衛兵たちに追いかけられる夏樹の姿だった。


「執拗いぞ」


 なんとか追跡を逃れようとする夏樹だが、衛兵の数はどんどんと増えていき、気づけば二十にも達しようとしている。


「大人しく降伏しろ」

「…囲まれたか」


 円状に包囲されてしまう。衛兵たちはいずれも武装しており、槍や剣といった武具を夏樹へ向けながら段々と近づいて来た。絶体絶命の状況であるが、当の本人はまだ諦めていないようで視線を通し威嚇を行う。


「トリャッ」


 そのまま向かって来た夏樹へ、衛兵の一人が槍を繰り出し鋭い刺突が腹に向かって繰り出されるも、即座に回避する。その隙に手を蹴り上げられ武器を手放してしまった。


「刃は通らねぇな」

「!!」


 一瞬、腰に手を当てたものの、即座に取りやめて拳打を顎に放ち、怯んだ隙に押し倒す。衛兵は甲冑の重さのせいで、すぐには起き上がれずに踠いていた。


 この行動によって完全に敵と見做されたのか、包囲していた他の衛兵も次々に襲いかかって来るが…


 一人目…剣を大きく振りかぶるも取り出された斧で受け流され、顔面を殴られる。即座に二人目と三人目の衛兵が槍を構えて、両側から突っ込んでくるも、夏樹はギリギリまで引き付けてから、上に飛び上がったことで衛兵たちは互いに顔面をぶつけてしまった。


 残りの衛兵がさらに複数人で、正面から飛び上がり剣、槍、斧、多種多様な武器を振り下ろすも、再び斧へ手を伸ばし…


「葉落一心流 『風月(フウゲツ)』」


 直後、大きく振り抜かれた円弧の斬撃により衛兵たちがまとめて薙ぎ倒される。


「なんて強さだ…ええい!!かかれ、かかれ!」


 次々と襲いかかる衛兵。夏樹の持つ斧と剣が交差し火花を散らす。そのまま押し切ろうとする衛兵だったが、その前に体を半歩引かれしまい、重心を崩したことで足を掬われ敗北。次の衛兵も槍を持って襲い掛かるが、柄の部分を斬られ敗北。そのまた次も、次の次も、次々に敗北。


 残すところ、僅か数名となり完全に躊躇する衛兵たち。そんな彼らを見て、直ぐに逃走を再開しようとするが…


「貴様ら何をやっとるか!!」


 現れたのは甲冑はおろか、服すらまともに着ないで、自身の筋肉を見せびらかすかのように歩く髭面の男だった。一見、ただの変質者ではあるがその腕に聖方教会の紋様が記されている。


「吾輩は聖方教会が一柱。「守護騎士」アンプールである!!」


 教会全域に響き渡る程の大声で名を名乗る男。それはこの教会の守護者、アンプールであった。


「神聖なる聖堂を汚す悪しき者よ。聖テュポネスの名のもとに、ここで滅してくれようぞ!」


 

 守護騎士とは、聖方教会の各文化遺産を守るために設置された実力者のことである。

 強さは衛兵に比べても群を抜いており、易々と逃げられはしないだろう。その証拠に夏樹は逃亡を諦めたのか、持っていた斧を正面に構えた。


 緊迫に空気が静まり返る中、両者は互いに向き合う。


 最初に仕掛けたのはアンプールであった。

 刹那、地面を踏み抜き、スタートを切った彼はそのまま夏樹へ向かい、顔面を狙った強烈なブローを放つ。


 迫ってくる拳圧に受けきれないと判断したのか、夏樹はカウンターの姿勢に入る。拳が顔にぶつかる瞬間、咄嗟に屈むことで、攻撃を回避し、勢いのままスライディングを決めて、腕の内に潜り込んだ。

 夏樹は反撃とばかりに斧を突き立てて、手首から腕の内側の筋肉を破壊しようとするが、想像以上に硬く、肉はおろか神経にすら刃は通らない。


「硬いな…」

「フン。鍛えた肉体は鋼の鎧にすら劣りはせん」


 体制を立て直した夏樹。再びカウンターを狙うつもりなのか、自分からは動かず、瞬きすらしないで相手の動きを注視していた。

 しかし次に放たれたのは閃光のごときジャブであっった。本来なら牽制や意表を突くことを目的としたものだが、アンプールの放つ威力は通常のパンチをゆうに超えている。


 夏樹は咄嗟に斧でガードするが、連続で放たれたそれに耐えきれずに吹き飛んでしまった。


「この程度か?悪しき者」


 なんとか、起き上がる夏樹。致命症は負っていないものの、地面で擦りむき身体から血が流れ出している。

 

 再び対峙し、今度は夏樹が先に動いた。斧と拳が何度もぶつかり合い、見る者達を圧倒する死闘が繰り広げられる。


 斧が触れるが、強く握りしめた拳には通らず効果はない。そして敵もまた、完全には無数の斬撃を潜り抜けられず、両者互いに体力を消耗する。


 だが近接戦に関してはアンプールの方が一枚上手らしく、夏樹は次第に防戦一方となっていった。斧で拳を受け流すことに精一杯となり、まともに斬撃を入れられない。ー否、入ったところで傷一つ付かないのだ。


 斧による斬撃を脅威でないと判断したのか、アンプールの動きがより大胆に、かつ剛くなる。


「フンッ! フッ!フーン」


 無雑作でありながらも、一撃が必殺級の連打を放つ。踏ん張って堪えていると


「フッ、フン。フフーン」


 何故か拳が放たれる度、マッスルポーズが取られるようになった!目はもはや、夏樹を向いておらず周囲の観衆を意識しているようだ。


「うおおお!これが守護騎士の実力か!!」


 次第に観衆もみな声を出し、会場中が熱狂する。これはもはや闘いではなく、アンプールによる一方的な筋肉ショーである。


 祭りの催しと思ったのか、釣られた人々が続々と集まってきた。アンプールはついに拳を振るうことすら止め、ポーズを取る事だけに専念していると…


ザンッ

 

「むっ?」


 胸から血が流れ出ていた。驚き下を見たところ、そこにいたのは…斧を振り終えた夏樹である。


「馬鹿な!貴様の斧は吾輩の筋肉を…」

「お前が鋼なら、鋼も叩き斬るだけだ。」


 先程までは一つのミスが敗北に繋がる極限の状態であった。しかし、敵が隙を見せてくれたおかげで僅かながら集中して斧を振り下す時間が与えられたのだ。


 その時、場の空気が凍てつくように一変する。


「この吾輩に…吾輩に傷をつけただとぉぉぉ!!!許さんぞ!!」


 直後、アンプールの身体が膨張。いや、中から肉が溢れ出して来た。


 「夢覚 (リライブ)<傲慢>」


 身体が二回り以上大きくなり、溢れた肉の鎧によって守られている。


「これが吾輩の能力<傲慢>。 我が自尊心(プライド)が傷付けば傷つく程に身体を肉の鎧で覆う力だ」


 アンプールが身体を捻り、そして肥大化した拳から攻撃を放つ。


 ……グラララ


 夏樹はなんとか攻撃を躱したものの、石造りの地面には大きな穴が開き、凄まじい轟音を立てながら揺れる。


 「化け物が…」


 身体が大きくなったことで、破壊力が飛躍的に向上しており、迂闊には近づく事が出来ない。

 続けて拳が放たれる。再度躱すも、今度は轟音が鳴り響かなかった。フェイントである。そのまま全体重を乗せた一撃が放たれた。

 拳が地面から抜かれた時、そこに夏樹の姿はない。押しつぶされてしまったのだろうか。人々が息を呑むが

 

「なら、避けるまでだ」


 攻撃は当たっていなかった。

 

「ええい!ちょこまかと鬱陶しい!!」


 自身の全力が通用しかなかった屈辱で、さらに身体を大きくするアンプール。

 さらに連続で拳を放つも、全て躱される。まるで葉が舞い落ちるかの如く、不規則に動き始めた夏樹を捉え切ることは出来ない。


 次第に近づいていく夏樹。アンプールが繰り出すパンチは空気を切り裂くかのような風切り音を出すが、ただそれだけであり、服に掠ることすら叶わない。

 目前まで迫った夏樹は斧を腰に添え、そして


 「葉落一心流 『風月(フウゲツ)』」


 放たれた斧は大きく円弧を描き、アンプールの肥大化した肉の鎧を…切り裂いた


「鎧はお前の身体程硬くはないみたいだな。ただの見せかけか」


 裂かれた肉から大量の血が噴出している。

 しかし、アンプールはそんなことも気にしないで顔を真っ赤に染め上げて激怒する。


 「貴様は…一体どれだけこの吾輩を愚弄するのだ!!その大罪、もはや貴様の死を持って以外に償うことはできん!」


 身体をさらに膨らませ、もはや教会前の大きな門に迫るほどに巨大化したアンプール。圧倒的な死を込めた拳骨を穿つが


 「『花鳥風月(カチョウフウゲツ)』」


 大きく描かれた無数の斬撃が、縦横無尽にアンプールを襲い掛かる。


「何だ…これは!」


 葉落一心流『花鳥風月』 風月(フウゲツ)が抜き放った武器で敵を広く薙ぐ技であるなら、こちらは大きな円弧による無数の斬撃を縦横無尽に放つ技。


 「全く攻撃が見えん!いや…見えんのではない。『見ている間』に次の攻撃が飛んでくるのだ!!」


 その本領はあえて大きく描かれる斬撃にある。腕を完全に伸ばし切った状態で斧を振るうことでその軌跡を広げているのだ。

 結果として敵の死角から攻撃を行うとともに、斬撃の発せられる「長さ」から敵の視線を斬撃により長く釘つけて次の攻撃までの隙を生み出す。まさに敵を翻弄する必殺の奥義である。


 「当たらん。全くとして吾輩のブローは当たらんにも関わらず、やつの斬撃だけが襲い掛かってくる!」


 葉落一心流の不規則な動きも相まってか、より変幻自在となった攻撃にアンプールは一切の光明を見出せない。

 そのまま、肉体は切り裂かれ続けられるが…


 「ムオオオ!!」


 焦燥からか、肉体はさらに肥大化する。そして


「目で追うのは悪手か…ならば」


 身体に全感覚を集中させる。その間にも刃はアンプールを襲うが、次に斧が触れた瞬間、状況は一変した。


「全てを破壊するのみよ!!」


 繰り出されたのは、全方位へ向けられた強大な回転。言うなればダブルラリアットである。アンプールの飛躍的に増大した質量もあり、それはもはや、技というより兵器の域にあった。


「!!」


 斧を振り終わり、一瞬の隙ができた夏樹へ非情にも……命中。

 バットで打たれた野球ボールの如く、激しく教会へ向かい吹き飛んでいった。


 ズドンと大きな音を立て、教会の外壁にぶつかったり倒れ込む夏樹。

 中にいた人たちが何事かと、大急ぎで飛び出してくるが、そんなことは、お構いなしにとアンプールが容赦のない追撃をかましに来る


「フン!フン!フン!フン!フン!」


 質量兵器と化した拳による蓮撃。音が鳴り止む頃にはもはや、夏樹はピクリとも動かなかった…

 それでも尚アンプールの傷付けられた自尊心(プライド)は治らない。


「この程度で死ねると思うなよ」


 まだまだ甚振りたらず、今度は夏樹の腕を掴んで持ち上げる。そして地面に思い切り叩きつけようと…

 


「待ってください!」


 周りの観衆たちの中から一人の少女が出て来た。カノンだ。


「その人を助けていただけませんか?私の恩人なんです!」


 自身より遥かに高く聳え立つアンプールの目を真っ直ぐ見て話し、夏樹の助命を懇願する。


「何だ、貴様は!かような逆賊の命を奪うなと?冗談も大概にしろ」


 アンプールは懇願など気にも止めず、夏樹を叩きつけようとするが…


「やめて!」


 カノンはなんとアンプールの足に掴まった。すぐに振り解こうとするが、意地でも離そうとはしない。苛立ったアンプールは起き上がりつつある衛兵に命令を下した。


「ええい!衛兵は何をやっとる!さっさとどかんか貴様!!」

「断ります!その人の事は私もよく知りませんけど……それでも、私のお姉ちゃんなら!恩人を絶対に見捨てはしないから!だから私はどきません!!」


 子供のように駄々を捏ね始めたカノン。アンプールに怒鳴られた衛兵たちはすぐに駆け寄ってくるが


「何だこれは…」


 …突如として、無数の棘に包まれた巨大な薄紫色の花が咲き誇り、衛兵の進路を塞ぐ。


「貴様、、その力はまさか!」


 驚愕に目を見開くアンプール。カノンはゆっくりと立ち上がって静かに、凛として告げる。


「夢覚(リライブ)<花天>」


 

 

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