第29話 扉の先「desire」
追悼師団の兵士達との戦闘は依然として繰り広げられていた。敵は四人…前衛となる近接武器の使い手が三人、後衛に弓兵が一人である。
何れも優れた力を誇る彼らを前にして、同時に裁きながらも段々と削って行く夏樹。
「…だが時間は掛けられないな」
この都市のルールを活かし、何とか四人を相手にするも、唯一の問題は戦いが長引けば長引く程に敵の増援が増す可能性であった。
繰り出される一撃ごとに敵の身体は削れて行っている。厄介なのは弓兵による矢の攻撃だが、それは兵士達にとっても同じ事であり、自分が怪我を負うことなどお構いなしに突っ込む彼らは矢を幾つか身体に受けていた。
「(恐らく。弓兵が持つ矢の数は残り少ない…暫くすれば奴も接近戦を仕掛けてくる筈だ。その時が最後の関門で有り、唯一のチャンス)」
夏樹が狙うのは、全員が揃うタイミングである。その瞬間に大鎌で一括りに纏めて斬る…それが最善策だと判断した。だが、その間にも残りの三人は激しい攻撃を止めずに続ける。
後ろに回る事で、夏樹は味方同士で傷つけ合うように誘導するも、兵士達とて馬鹿ではない。互いに助け合うことは出来なくとも、動きを読んで対応し始めていた。
…直後、男の双刃槍が回転して回り込み掛けていた夏樹に向かって襲い掛かる。
─シュッ
服を掠める男の攻撃。夏樹は何とか躱すも、遠慮なく次の攻撃達が追撃を掛けて来た
「…これじゃあ、二つの意味で時間が足りない」
避けつつも、焦りを覚える夏樹。増援が来るのが先か、自分が倒されるのが先か。敵の矢が切れない限り二つのタイムリミットが迫っていた。
「ならいっその事…」
リスクは高いが、一人ずつ倒す方向に切り替えようかと考える。…が、その時。迫っていた兵士の武器が突然伸びて来た鞭のような物に弾かれた。
「……!?」
夏樹はいきなりの出来事に驚いてしまう。彼の記憶通りなら、こんな武器を持った敵は居なかった筈なのだ。故に増援を一瞬疑ったが、直ぐに勘違いだと分かった。何故なら其処に咲いていた"花"には見覚えがあったから。
「─今度こそ、私があなたを助けますよ」
その武器の持ち主はカノン・エーデルス。夏樹にとって世界でただ一人の旅仲間である。
「来たのか。…というかお前、何持ってるんだ?」
一度カノンが居る方にまで退避して、彼女が手に持っている見覚えの無い武器について尋ねる夏樹。
「これですか?その名も『竜舌剣』です!」
「……?」
初めて聞く名に夏樹は困惑する。見た所、リュウゼツランの花茎の先端から葉が幾つも繋げられており、その節目には黄色い花がくっつけられている。
「昔、本で"蛇腹剣"って言う武器を見た事があって…それを参考に作ってみたんですよ!凄くないですか?」
いつもは腕に覆わせている花茎を短くして手に握っているカノン。そのまま腕を振るうと、竜舌剣が鞭の様に撓った。
蛇腹剣と言うのは確か、小さな刃を幾つも繋げて作る鞭と剣…二つの性質を持った武器の事である。
「変な武器だな」
「…変?ま、まぁコレは私専用の超強い武器なんです。それを見せて上げます!」
カノンが目を向けると、兵士達が前から迫って来ており、彼らに向かって直ぐに竜舌剣を放つ。しかし、距離はまだ5m以上もあり、長さは到底足りない…筈だった。
だが次の瞬間、花茎から更に幾つもの葉っぱが飛び出して来て、竜舌剣が撓って伸びる。
「……!」
それは兵士達の武器に命中した。
「おぉ…凄いな」
「ね?この武器なら私だって自由に戦えますよ」
一瞬バランスを崩しかけるも、直ぐに体勢を立て直して飛び出す兵士達に、二人は向き直る。
「─なら、行くとするか」
そのまま戦闘に入る夏樹とカノン。敵は相変わらず四人であるが、防戦一方だった先程とは異なり、攻勢側に回り出す。
双刃槍とレイピアを同時に相手する夏樹、連続して放たれる刺突を大鎌の峰で受け止めながら、刃を沿わせて武器を往なす。それと同時に放つのは鋭利な斬撃…双刃槍の男は兎も角、女の方は受け切れずに斬られてしまう。
その隣で戦うのはカノンだ。彼女はハルバードの男と距離を保ちながら、竜舌剣を撓らせ続ける。男は自由自在に伸びる攻撃に防御で精一杯となり、攻め切ることが出来ずにいた。
すると、少し離れた場所にいる弓兵の女が矢を幾つか此方に向かって放とうとしているのがカノンの目に映る。
「触れないで!」
咲かせた巨大なオニアザミによって飛んで来た矢をガードした。だがその一瞬を狙うのはハルバードの男。
カノンの夢覚 <花天>は一度の発動で咲かせられるのは一つの花だけである。同時に存在させる事自体は可能だが、今オニアザミを咲かせた事により竜舌剣の伸縮が一度止まってしまったのだ。そして振るわれるハルバード。
「……!『慌て者』」
攻撃が当たる直前、間一髪でガマの花穂を目の前にへと咲かせる。ハルバードはそれを斬り裂いてしまい、中から溢れ出すのは大量の白い綿。
世界は一瞬で白色に包まれ、辺り一面の視界を完全に覆い隠してしまった。体勢を整えるために、一度後ろへと飛び退くカノン。
「「─!」」
其処で同じく、退避の為に後ろへ退いた夏樹と背中合わせにぶつかった。
「夏樹くん?」
「…カノンか。後ろは任せるぞ」
「私の方こそ!」
互いに背中を預けて武器を構える二人。直後、綿の中から兵士達が四人同時に飛び出して来る。
「葉落一心流…」
「貴婦人の…」
構えた武器を抜き放つ夏樹とカノン。
「風月」
「社交界」
お互いの死角を補うようにして放たれた一撃は、360度全てを薙ぎ払って、兵士四人を纏めて斬り裂いた。
バタンッ。
血を流して地面に倒れる兵士達。
「…ようやく終わったか」
直ぐには立ち上がって来ないのを確認すると、二人は急いでその場を後にするのだった。
ーーーーーーーー
「このまま、都市から脱出するぞ」
更なる増援が来る前にジュネイスからの脱出を目指す夏樹とカノン。その後の事はまだ分からないが、一先ず都市を出る事を優先するようだ。
「確か…都市の間には境界線が有りましたよね。追悼師団はそこを越えれば追いかけて来ないんでしょうか?」
「…分からん。最悪…今度こそ連携して来るかもしれんが、その時は俺の夢覚を使う」
夏樹は代償を無視してでも、<焼魂>の力を使う事を覚悟する。
そして、暫く走っていると遂に境界が見えて来た。
「─あれ!」
「あぁ」
足に力を込めて走り抜き、二人はそのまま境界を踏み越えようとする。が…
「──やはり、来るか」
響く大きな足跡。
突如として、目の前に二つの影が立ち塞がった。
「嗚呼!このワタシを置いて逃亡とは……なんとも寂しいでは無いですか!」
後ろに異形の姿をした巨大な黒い怪物を従え、現れたのは「慟哭師団」師団長──フィアワールド。
「どうしてここに…」
カノンは突然の登場に驚きを隠せない。
「当然『貴方達』を捕らえる為ですよ」
「……見逃してくれるんじゃなかったのか?」
「えぇ。そのつもりでしたとも!」
いつも通りの芝居がかった空気を纏わせるフィアワールドだが、夏樹達との間には何とも言えない冷たい空気が流れ出す。
「…ですが、これだけの騒ぎになっては流石のワタシも『師団長』として目を瞑る事は出来ません」
この男にも立場と言うものがあるらしく、先程と異なり、今度は世界統一戦線の兵士として動く事を選んだらしい。
対立は避けられないと踏んだ夏樹とカノンが即座に戦闘体制へ入る。
「まぁ…そう焦らないで下さい。戦う前に少し話でもしましょう」
だが、フィアワールドによって制止させられた。二人の間には緊張が走る。
「…何だ?」
「ただ一つ。貴方達に尋ねたい事があるのですよ」
それだけ告げると彼は一つの質問を投げかけた。
「後ろの"マクロファーレン"君が起こした先の惨劇を見て、貴方達はどう感じました?」
マクロファーレンと言うのは今フィアワールドの背後に立っている黒い化け物の事だ。
元はただの人間であったものの、フィアワールドが持つ何らかの能力によって変質させられてしまい、今では異形の怪物と化している。
「何も彼だけでは有りません。『呪影の天聖騎士』が世界に残した禍根は、これからも混乱を起こし続けるでしょう」
彼の騎士は死んでなお、人々に影響を与え続けており、さっきのような模倣犯まで現れる始末。フィアワールドはそれを憂いていた。
「その事態を解決する為に、ワタシとしてはやはり…貴方達を殺害の犯人として公表すれば、ある程度丸く収まると思うのです」
すると、フィアワールドが大きく手を広げる。
「少数で大人数を救う!まさに最適解ではありませんか!!それを踏まえた上で…何を思うかが知りたい」
それは彼が夏樹達と初めて出会った時に、この都市を訪れた理由だと言っていたのと同じ論理。これに対し、何かを話しかけたカノンを抑えて夏樹が答える。
「確かにお前の言う通りだよ。それで俺達が名乗り出れば事態は沈静化するのかもな」
意外にもフィアワールドを肯定する夏樹。
「…だが、少数で大人数を救うってのだけは同意しかねる」
その理屈は以前からカノンに聞かされて来ていた。自分一人が犠牲になって、大勢を救えれば大儲けなのだと。
「俺の答えはただ一つ」
しかし、それに対する夏樹の答えなど、芸術都市でロヤテと戦い、カノンを救うと決めたあの日から、とっくに分かりきっていた。
「──んなもん。クソ食らえだ」
……………
「…フフ!ワタシ、嫌いじゃないですよ。貴方の事」
夏樹の出した答えを聞き、フィアワールドが愉快そうに笑う。
「それだけに残念です」
だが、それでも対立は避けられなかった。
「──行きなさい。マクロファーレン!」
「嗚呼ァ…理解ィィィ」
フィアワールドの指示によって動き出すのは後ろで待機していた黒い怪物。彼はその腰から生える六本の長い足を巧みに動かして前へ出る。
「では、恐怖の超越を始めましょう」
武器を構える夏樹とカノン。そのまま黒い怪物は二人と対峙するのだった。
「…気をつけろよ。あの銃身には」
夏樹が目を向ける先には、黒い身体の中で唯一真っ白な顔の口から飛び出したガトリングガンが映っている。
その性能は連射性に優れており、一度でも狙われてしまえば回避に徹する他ない。
「恐らく。飛び上がりでもすれば、その瞬間に蜂の巣だろうな」
「ならどうやって攻撃を…?」
「其処は俺がまず隙を作る。名付けて"ダルマ落とし"作戦」
「………?」
聞き覚えの無い単語にカノンは首を傾げる。そうこうしている内に怪物が長い首を動かし始めた。
「来るぞ!」
連続して放たれる銃弾の雨に夏樹とカノンは同時に飛び退いた。
夢覚でガードの準備をするカノンだったが、銃身の向かう先は夏樹である。
「…俺が狙いか。だが好都合!」
夏樹は前へと突っ走り、怪物の居る方向へと向かう。放たれる銃弾は夏樹を捉え切ることが出来ずに、彼の背後で着弾しながら距離がどんどんと縮まって行く。
「まずはその足だ」
目前にまで迫った夏樹が大鎌を振るう姿勢に入り、狙うのは怪物のバランスを支える黒い足。
その直後、素早く攻撃に移り、空気を斬るような鋭い一撃を放つ。が…
怪物の地面に届くほど長い腕に打ち払われて、止められてしまった。衝撃の余り飛んでいく夏樹。
「乙女の真心」
しかし、幾重にも重なって咲いたピンクの花に優しく受け止められる。
「…厄介ですね。あの腕」
「あぁ。飛ばされる寸前に斬ったが、どうやら既に人間の身体から変質しているらしい」
カノンと合流した夏樹であるが、強烈な一撃を受け止めた筈の怪物の腕を見て驚く。その一部は確かに裂けていたが、血の雫一つ落ちていない。
「一先ず、全て斬り落とす」
夏樹達は再び走り出そうとするも、その時。怪物が突然、地面と並行になるほど屈んだ。
「…まさか!」
耳障りな連続音より早く…
放たれたのは銃弾。ただし、先程とは異なって二人の正面から放たれており前に進んだところで回避する事は易々と出来ない。
「触れないで」
カノンが当たる寸前で自分達を囲うように無数のオニアザミを咲かせ、弾丸をガードした。
「…このままだと近づく事すら出来んな」
今の状態であれば、怪物が適当に首を振るうだけでも夏樹達に銃弾が降り注ぐだろう。それだけで充分に脅威となってしまう。
未だにオニアザミへ攻撃が続く音を聞きながら、残されたタイムリミットの中で二人は知恵を振り絞る。
「私の「嫉妬の炸裂」なら弾丸を相殺出来るかもしれません」
「そうか。お前のアレなら…」
「…けど、隙が出来るのは一瞬だけです」
カノンが放つヒペニア・マクランサの花粉散弾ならば、ガトリングガンに対抗出来るかもしれないと考えた二人。
だが、あくまで相殺するだけである為、問題の根本的解決にはならない。
「それで充分だ。同時に横から飛び出すぞ」
そう言うと、夏樹は闘いに向かう事を決める。周囲を囲うオニアザミの一部をカノンが消し、直ぐに二人がタイミングを合わせて前へと進み出した。
それに気づいた怪物が銃身を二人の方へと向けて発射する。しかし…
「嫉妬の炸裂」
地面から赤い火縄銃のような見た目をした花が咲き、怪物に向いた。
「…発射です!」
其処から放たれるのは無数の散弾。巨大化した花に伴ってその花粉も大きくなっており、それが凄まじい勢いで撃たれる。
破裂音を鳴らし、ガトリングガンの弾丸とぶつかりあって相殺し合った。
そのまま幾つかの散弾が通り抜けて怪物の身体にへと命中する。衝撃に思わず動きを止めた怪物。その時にはもう既に…
─夏樹が迫っていた。
振るわれる大鎌の斬撃は銃身を横から断ち斬り、地面に落下させた。そして、再度振るうのは顔を狙った一撃。
「アァァァァァ!!」
顔面に傷を負った怪物は痛みのあまり、立ち上がり断末魔を上げる。夏樹は出来たその隙を利用して、空いた怪物の足元にへと潜り込んだ。
そのまま、六本の足を斬り落とす為に大鎌を振るおうとするも、思わぬトラブルが発生する。
「…よく動くやつだ」
痛みでじたばたと踠く怪物が、地面を踏み鳴らすように足をドシンドシンと暴れさせている。これでは斬る場所を狙うことが出来ず、回避に徹する夏樹。
腰から幾つも生えている巨大な足はそれだけで充分強力な武器であり、夏樹は身体を逸らし、時には大鎌で往なしながら躱し続ける。がその時…
「貴婦人の社交会」
竜舌剣を手に持ったカノンが追い付き、怪物の前に現れた。…そして振るわれるのは伸縮自在の鞭のような剣。
それは自由に伸びて、夏樹を襲う足達を追い払うように無数の斬撃を縦横無尽に放つ。
「…便利だな。それ」
「伸ばして振るのは、結構疲れちゃうんですけどね」
撓る刃によって、怪物の黒い手足がどんどんと斬られ、欠けていった。
竜舌剣は攻撃の瞬間にカノンの夢覚でリュウゼツランの花茎を中心として、花と葉っぱを増やし、伸ばす為、振り回す時に掛かる遠心力も含めれば使用者本人への負担も大きい。
だが、それを加味してもなお中々に強力なカノンオリジナルの武器となっている。
竜舌剣の斬撃により抑えられた怪物の足を見て、夏樹もまた飛び上がり大鎌を振り回す。斬って、斬って、斬って…次々に長い足と腕が小さくなっていく。
二人の連携を食らった怪物は、やがて背が縮まっていき、地面に胴を落としたまま動けなくなる。其処でいよいよ本命の攻撃に移る夏樹。
「終わりだ」
地面を足で蹴り、宙へと身体を投げ出して狙うのはただ一つ。これだけ手足を斬っても血を流さない怪物の首のみである。
夏樹は大鎌を左横に構え、勢いのままに斬り払う。
──下から真っ向に走る一閃。
着地と同時、鮮やかに大鎌が通り抜けた怪物の首が地面へと落ちた。
黒くて、巨大でありながら血の通わない怪物。
大きいような小さいような……そんな曖昧な音が地面へと響いた。
「…動かない。私達、勝ったんでしょうか?」
「多分な」
駆け寄って来たカノンが、顔だけとなりビクともしない怪物を見て話す。
「生きているか、死んでいるかは分からんが…暫くは動けん筈だ」
「結構危なかったですね。…今の内に逃げないと」
「…待て。フィアワールドは何処に行った?」
安心に胸を撫で下ろすカノンだったが、夏樹が違和感を捉える。確かについさっきまで立っていたフィアワールドの姿が見えなかったのだ。
そして、周りを見渡しても黒い怪物の残骸以外に存在していない…にも関わらず、彼は既に"そこ"へ居た。
「…流石。と言わざるを得ない連携でした」
「──!?」
夏樹とカノンが驚き、後ろを振り向くと立っていたのは…タキシードを着込み、頭の無い首の上に白い仮面を乗せただけの怪人…"フィアワールド"。
「…いつの間に」
「なればこそ!次の恐怖を与えましょう!」
ずっと変わらないニヤけ面の彼を直視すると、直ぐに武器を構えて攻撃に移ろうとした二人だったが、フィアワールドの方が遥かに早かった。
『恐面世界』
世界が一瞬で闇に包まれて行き、夏樹とカノンの視界には次第に何も映らなくなる。
目を開けているのか、閉じているのかも分からない暗闇の中で、最後に聴こえたのはたった一つの声。
「──さぁ、トラウマを乗り越えてみなさい」
ーーーーーーー
それからどれだけの時間が経ったのだろうか…気づくと、夏樹の目には一つの茶色い扉が映っていた。
「(何だ…ここは?)」
周囲を見渡せば、延々と長い廊下が続いており、所々には机と鉢植えが置かれている。
「(…診療所みたいだな)」
何故そう思ったのかは分からない。ただ何となく、夏樹の中にある懐かしい記憶がそう思わせたのだ。そのまま視線を戻すと、やけに"大きな"扉が変わらず立っていた。
「〜〜 〜 〜〜」
中からは人の話し声のような物が聞こえている。
「(不思議だ。俺はこの先に行きたい、って…そんな感じがする)」
夏樹は先程のフィアワールドとの戦いの事など忘れて、ただその扉に釘付けになる。
そのまま背伸びをしてドアノブを掴み、身体の体重を思いっきり掛けながらゆっくりと回す。すると…光が差し込み、扉が音を立てて開いた。
──その先に広がっていたのは…
「─ありがとうな、あんたらは俺の命の恩人だ」
「ガハハハ!いいってことよ、困ったときはお互い様。それが相互に浮上ってやつだろ?」
小さな病室。一つのベッドを囲うようにして、三つ…人の背中が此方を向いている。
それは夏樹にとって見覚えのある立ち姿であり、何処か懐かしい声だった。
「もう。それを言うなら相互扶助ですよ…一緒に浮いてどうするんですか?」
だが、そんな筈が無い。何故なら彼の記憶に有るその人達はもうとっくに…
「ん?─おう!来たのか夏樹!」
夏樹の存在に気づいた"彼ら"が此方へと振り返る。
「…なん、で」
扉の前で固まったまま動けなくなる夏樹。だが無理も無い。其処に居たのはとっくに自分を庇って死んだ筈の…
「──父さん。母さん?」
夏樹の両親だったのだから。




