第20話 決着
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やがて一行はコンジェルド広場に再び辿り着いた。その先で彼らが見た物は…
「…結局、ここへ戻って来ましたか」
ー太陽を背にして堂々と立つロヤテの姿である。
兜はトレードマークである月のエンブレムごと砕けており、その隙間からは真紅の眼を覗かせ、鎧ももはや鎧としての機能を維持しておらず、全身からは夥しい程の血を流していた。
「すっかりボロボロだな」
「えぇ…貴方こそ」
互いに血塗れとなり、既に満身創痍な夏樹とロヤテが向き合う。
「かつて貴族達が処刑されたこの地で此度死ぬのは私か、貴方か。…いざ雌雄を決すとしましょう」
──そして最後の闘いが始まった。
「六槍流」
ロヤテの影が伸びて計5つの影に枝分かれする。繰り出されるのは長槍も合わせ6つの武器を操る技。
今度は両者が同時に動く。
ぶつかり合う手数対手数の合戦。葉落一心流により無数の斬撃を放つ夏樹に対しても、ロヤテは後れを取らずに六槍流を持って対応する。
だが一発一発が強力な斬撃となる夏樹の方がやや有利か、影は斬り刻まれていく。しかしロヤテも度重なる激突により学習し、斬られる影の位置を調整する事で損失を減らしていた。
直後、その内2本の影がまとまって細まり鞭のように撓る。
凄まじい速さで向かってくる影、夏樹はそれを大鎌の峰で受け止めた。火花が散るのと同時次に向かってくるのは3本の影である。
「ハァッ!」
夏樹は大鎌を直ぐに裏返して、その3つを刃先で斬りあげる。しかし、続くのは最後の影とロヤテの長槍。2つ同時には受け切れない。ならば…
響く高い音。金属のぶつかる音と共に止められたのは長槍であった。それにより自由となった影が夏樹に襲い掛かる。
回避は不可能。だからこそとばかりに夏樹が前に出た。繰り出されるのは強烈なローキック。
結果は相討ち。ロヤテは膝に蹴りを、夏樹は腹に影を喰らってしまった。直前腹筋に力を入れた事で大事には至っていないが、そのダメージは大きい。
すかさず影を取り戻したロヤテが前へ出るが…
「青と散る桜305」
「心の平安」
突如として地面から咲き誇った桜の剣山によって阻まれてしまった。ロヤテは長槍を振って切断するが、再び地面から生えて来る。
針地獄のように次々と伸びてくる桜の海をロヤテは次々に渡り歩いていき、その後には季節外れの花びらばかりが散った。
やがて勢いを無くす剣山たち。辺りはピンク色に染まりながらも、塵となって消えて行くが…そこに夏樹の姿がない。
「ー!」
瞬間、上から降って来た大鎌の刃と長槍がぶつかりあって止まった。
襲い掛かった夏樹はスゥーと靴を擦らせながら地面へ着地する。そしてそのまま低く屈み前傾姿勢となった。次に動いた時放たれたのは首を狙った斬撃。
「この程度では当たりませんよ」
だが、頭を後ろへとずらしたロヤテはそれを平然と回避。反撃に刺突をお見舞いしようとするが…
「葉落一心流」
それより早く、振るった大鎌の握る力を緩めた夏樹が手をひっくり返した。
「燕」
再び襲い掛かった斬撃がロヤテの肩から腹に掛けて斬り裂いた。
それは俗に"燕返し"と称される技。ただし著名な刀を上段に振り下ろしてから、攻撃を躱し直ぐに反撃に出た相手に再度振り上げる技とは異なり、葉落一心流のそれはあらゆる体制からの返しを行う技である。
この極意自体が葉落一心流の基本の技であり、そのノウハウは五の極意「桜百景」や七の極意「雪化粧」にも転用されている。
「成程。初撃はフェイントでしたか」
血潮を噴き出しながら関心の声を上げるロヤテ。もはや異常とすら言い難い程の耐久力を見せる彼であるが、それに対し夏樹は疑問に感じる。
「…何故お前は倒れない?」
頭に幾度も衝撃を受けて脳を揺らし、身体の至る所からは止まる事なく血が流れ続け、内側は毒ガスでボロボロ…全身が激痛のはずなのだ。
てっきりロヤテの鎧こそが特殊なのだと思っていた。だが違う、本当に特殊なのは…
「同じですよ」
ロヤテは真紅の瞳を光らせる。
「貴方があの少女を守るため何度も立ち上がる様に、私にもたった一つだけ…守りたい物があるのです」
それは彼の根底にある物。
「元々ロヤテと言うのは古い言語で『忠義』を意味する言葉なのですが、かつて私にその名を与えてくれたのが聖方教会でした」
ロヤテ自身、ハラペーニュ地方の生まれであり、今から20年前。ショコラ達と同じ孤児として都市近郊の街で暮らしていた。
当時の彼には大した力もなく、不条理な世界を憎みながらも一人孤独に地へひれ伏し続ける事しかできなかったが、そんな彼を救った者達こそ、聖方教会の一団である。
「彼らは、何も為せず死を待つだけだった私に生きる意味を与えてくれた。だからこそ…私は「忠義」故、教会の影として戦い続ける。それだけが我が存在意義!──我が矜持なのです!」
決して誰にも譲れないロヤテだけの矜持。それこそが彼にとっての倒れない理由であった。これは信念のぶつかり合いであり、もはやどちらかが死ぬまで終わらない事は明白。
「影波」
ロヤテが影に乗って高速で動き出す。以前と同じく夏樹の誘拐が目的か…いや違う。
彼はそのままの勢いに身を任せて全力の刺突を放った。直後交差するのは爆発するような空気の破裂音。夏樹はなんとか受け止めたものの、後ろへと飛んで行く。
「まだまだです!」
ロヤテが放つのは5つの影。それら全てが夏樹へと向かった。そして巻き起こるのは凄まじい攻防である。
大鎌による連続攻撃は影を斬って斬って斬るも、まだ影は止まらない。そのままロヤテによる長槍が穿たれる。
その勢いに夏樹は更に振る速度を早めて迎撃。だがロヤテも長槍を連続で穿ち続ける。キンッ。何とか夏樹は攻撃を往なし切り、両者が一歩後ろへ下がった。そのまま再度ぶつかりかけた時。
─「やっと完成したわ」
戦場にショコラの声が響き渡った。そちらに視線を向けると空に絵が描かれている。かつて彼女が見た景色であり、これからもずっと続いて欲しいと願った日常の絵。
「永遠の星夜」
描かれた絵が段々と具現化していく。やがて異変が現れたのは…空。
「…なんと、ここまでとは」
二人の上が次々に光り始めた。まるで星の様にキラキラと光る点はやがて大きくなり空から堕ちて来る。それは隕石である。
降り注ぐ流星の塊は大地を揺らしていく。無数に落ちてくる隕石に対しロヤテは素早く駆け回って回避に専念する…が、夏樹にとってはこの状況こそ本望であった。
隕石の下でぶつかり合う二人。鎌戟と槍戟がぶつかり合っていく。ロヤテは影も総動員させながら戦っており、斬り合いは苛烈を極めていく。
幾度かの交わりの末、ついに隕石の一つが二人の下へと堕ちてきた。夏樹は躱そうとするもロヤテがそれを許さない。隕石によって出来た影を伸ばして夏樹を追いかける。
夏樹はそれらも全て瞬く間に斬っていくも間に合い切らずに浅く体に斬り傷が刻まれていく。しかし夏樹が完全に崩されるよりも、ロヤテの下に隕石が堕ちる方が早い。ロヤテは後ろに飛ぶと隕石を回避し攻撃を一度止めた。
その後も斬り合いは続いて行った。地面に堕ちた隕石の影からロヤテに向かっていく夏樹であるが、影が増えていく現状、その攻撃は届き切らない。大鎌を受け止められると一度引き、別の所からまた飛び出して行く。
そんな状況が続いてロヤテが次の攻撃を警戒していると、予想外の出来事が起こった。
なんと夏樹は堕ちた隕石の上へと飛び乗って更に高くジャンプし、そこから新しく堕ちて来た隕石を蹴り飛ばす。向かった先にいるのはロヤテである。
「ハッ」
ワンテンポ遅れながらも長槍で迎撃するロヤテ。その後も夏樹は同じ様に隕石を蹴り飛ばして行くものの、ロヤテはある事に気づく。
「…違う。蹴り飛ばしているのではなく、"蹴っている"だけ?段々と上に行っているようですが」
よく観察すると、夏樹は毎回隕石の天辺に登っては上へと登っていた。そのまままだ形を成していない光の点にまで辿り着くと、その上に着地。
新しく生成されて行く岩の上で再び飛び跳ねると、今度は明確にロヤテを狙って蹴り飛ばした。最大高度からの勢いが乗った隕石。流石のロヤテもかなりの力を入れて打ち砕くが…
「速度には速度だ」
「…そう来ましたか」
砕けた隕石の先からやって来たのは夏樹である。重力を利用して加速度的に速度を上昇させて攻撃の威力を高めていた。
「影波」
夏樹に対抗するべく、ロヤテもまた影に乗り速度を上昇させる。しかし目標は空からの奇襲であり、隕石により影の量は増えているものの、動かせる距離は制限されていた。だからこそ放つのはロヤテよりも軽い長槍である。
より多くの影を纏わせて強力となり、長槍は飛ばされた。風切り音を鳴らしながらも猛烈な速度で夏樹に向かって飛び、やがて衝突する。
「ハァァァァ!」
大鎌と長槍が交差して停滞する。凄まじい力のぶつかり合いにより、互いに前へ進む事が出来ないのだ。
両者の戦いは轟音と共に、周囲へ空気を揺らす程の衝撃波を発し続ける。夏樹はその間も腕に力を込め続けるが、ロヤテの長槍の方が有利なのか徐々に大鎌へヒビが入り始めた。
夏樹の敗北は時間の問題かと思われた時。
「!?」
突如として地面から植物が生えて来た。よく見るとそれは緑色の荊であり、巻き付くようにしてロヤテの身体を拘束する。その犯人は他でもない…カノンだ。
「…私はずっと足を引っ張ってばかりの弱い子でしたけど、もうそんなのは嫌なんです」
自分の為に戦ってくれる夏樹。そんな彼を助けようとして結局は助けられてしまった事にカノンは情けなさを感じていた。
だからこそ、この戦いに終止符を打つ為カノンは夢覚を発動する。彼女が頭に思い浮かべるのは強くて優しい自分の唯一の肉親。
「私に力を貸して。お姉ちゃん!」
──『信頼の花束』
オレンジの薔薇を付けた緑の荊がロヤテの四肢を拘束して束縛を強めて行く。その力に一瞬影の制御が緩んでしまい、そして…
「行ってください!」
凄まじいぶつかり合いの末、夏樹の大鎌がロヤテの長槍を打ち破り、身体が堕ちながら前へと進み始める。
長槍は弾き飛ばされて、ロヤテの目の前に夏樹が上空から迫り来る。そのまま大鎌を鞘に納めるかの様に構えると、夏樹は即座に抜き放つ。
「葉落一心流 『木ノ葉割』」
その瞬間、ロヤテには世界が止まった様にゆっくりと進んで見えた。段々と近づく夏樹を見据えて、気づいた時には大鎌が下から襲い来る。
それはロヤテの鳩尾から顎に掛けて深々と斬り上げると、ついに命へと届いた。
「ほぉ。流石は…」
全身から力が抜けていくロヤテ。これまでの人生が走馬灯の様に流れて行くと、やがて彼は地面へと倒れる。
…反響する鎧の重い音が地面へ響き渡ったのと同時。
──戦いは終わりを告げたのだった。




