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20/21

20.結婚式

結婚式は厳かに執り行われた。

出席者の多さに圧倒されそうになったが、式そのものは思っていたより落ち着いていた。


バージンロードは、腹をくくって父と歩いた。

ふと、シオン様の言葉を思い出した。

じゃあ僕と歩こう。

あの言葉がおかしくて、笑ってしまって。

だから今、意外と心が穏やかだった。


祭壇の前でシオン様と目が合った。シオン様は、ただ静かに笑っていた。いつものあの笑顔で。


歓談の時間になると、会場は少しずつざわめきを取り戻した。

シオン様が方々から声をかけられる中、私は少し離れたところで現宰相と話をしていた。

白髪の、穏やかな目をした方だった。


「おめでとう、セレス嬢。いや、もうラングヴェルト夫人か」

「ありがとうございます」

「シオンをよく支えてやってくれ。あれはいい男だが、自由すぎるところがある」

「……よく存じております」


ええ、嫌というほど実感しています。


宰相は少し笑って、会場を見渡した。

「実はね、そろそろ一線を退こうかと思っているんだよ」


私は少し背筋が伸びた。

「そうなれば、次は当然シオンだ。そしておそらく君が宰相補佐になる。今の仕事の延長線上ではあるが、規模が全然違う」

「……はい」

身が引き締まる思いだった。


今まで宰相候補の補佐として働いてきた。しかしそれが現実のものになるとなると、また話が違う。

「覚悟はできているか?」

「もちろん、精進いたします」


宰相は満足そうに頷いた。

その会話をいつの間にか隣で聞いていたシオン様が口を開いた。


「あのさ」

「ん?」

「もうちょっとだけ頑張ってくれない?」

宰相が目を瞬いた。


「新婚生活楽しみたいし、新婚旅行もまだだし。もうちょっとだけ」

「はい?」


「お願い!次の隣国との会談、例の関税の条件飲ませるから。それと引き換えに、もうちょっとだけ現役でいてよ」

宰相はしばらく沈黙した。


それから、腹の底から笑い出した。

「はっはっは!相変わらず自由な小僧だな、お前は!」

「僕は本気だよ」

「わかっとる、わかっとる。だからおかしいんだ」


宰相は目元を拭いながら、私を見た。

「苦労するぞ、この男と生きていくのは」

「……存じております」

「でも退屈はしないだろう」

「それも存じております」


宰相はまたおかしそうに笑った。

シオン様はといえば、至って真剣な顔でいた。

「関税の条件、本当に飲ませるから。任せて」


「お前ならやるだろうな。それが腹立たしい」


宰相はため息をついたが、口元は笑っていた。

私はシオン様の横顔を見た。


本気だった。飄々としているが、本気だった。

そしておそらく本当にやり遂げる。

彼はそういう男だ。


「シオン様」

「うん」

「新婚旅行はどこへ行くつもりですか」

「セレスの行きたいところ。どこがいい?」

「……北部に行ってみたいです」

「え、なんで」

「ヴェルタ峠を見てみたいので」

シオン様は少し固まってから、吹き出した。


「やっぱりセレスが好きだ」

「なんと、視察仕事と観光を兼ねられます」

「兼ねなくていい!新婚旅行だよ!?」


宰相がまた笑い出した。


会場の光が、温かく降り注いでいた。


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