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19/21

19.準備

結婚式の準備は、思っていたより大事になっていた。

公爵家の縁戚、王城の要人、王族からの出席者。

招待状の宛先を見るたびに、私は少し遠い目になった。


「できるだけセレスが疲れないようにするから」

シオン様は式次第を眺めながら言った。

「歓談の時間は短めにする。席の配置も、セレスが動き回らなくて済むようにする。あと料理は絶対美味しいやつにするね」

「最後だけ妙に力強いですね」

「大事なことだからね」


シオン様は真剣な顔だった。

私は式次第に目を通した。来賓の人数、式の流れ、誓いの言葉。

一通り確認して、ふと息をついた。

「……一つだけ、億劫なことがあります」

「何?」

「バージンロードです」

「ああ」

「父と歩く必要がありますよね」

シオン様は少し黙った。


父と並んで歩く。

それがどうにも気が重かった。

あの人と並ぶことに、どんな顔をすればいいかわからなかった。


「じゃあ僕と歩こう」

「何を言ってるんですか」


思わず笑ってしまった。

「貴方は新郎でしょう。祭壇で待っている側です」

「そうなんだけどさ」


シオン様は少し考える素振りを見せた。

「じゃあついでに牧師にもなろうかな」

「なれません」

「セレスとバージンロード歩いて、そのまま誓いますか?って聞いて、で、口づけして……完璧じゃない?」

「一人三役ですか」

「効率的でしょ」


私は笑った。

声に出して、笑った。

笑いながら、ふと思ったことを言った。

「シオン様」

「うん」

「将来は嫌でも父親になるんですから、結婚式では私の夫でいてください」

シオン様が止まった。

式次第を持ったまま、動かなくなった。

「……セレス」

「はい」

「い……今、なんて」

「将来は父親になるんだから、私の夫でいてほしいと言いました」


シオン様はしばらく固まっていた。

それから、じわじわと耳まで赤くなった。

宰相候補が、将来の侯爵が、耳まで真っ赤になっていた。

「セレス好き」

「はい」

「愛してる」

「ありがとうございます」

「ありがとうございますじゃなくて!」


「……私も」

私は微笑んだ。

「愛していますよ、シオン様」


シオン様はしばらく私の顔を見ていた。

それから、式次第をそっと机に置いて、私の手を両手で包んだ。

「もう一回聞かせて」

「……愛しています」


シオン様は、今まで見た中で一番幸せそうな顔で笑った。

窓の外では、春の光が柔らかく降り注いでいた。


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