19.準備
結婚式の準備は、思っていたより大事になっていた。
公爵家の縁戚、王城の要人、王族からの出席者。
招待状の宛先を見るたびに、私は少し遠い目になった。
「できるだけセレスが疲れないようにするから」
シオン様は式次第を眺めながら言った。
「歓談の時間は短めにする。席の配置も、セレスが動き回らなくて済むようにする。あと料理は絶対美味しいやつにするね」
「最後だけ妙に力強いですね」
「大事なことだからね」
シオン様は真剣な顔だった。
私は式次第に目を通した。来賓の人数、式の流れ、誓いの言葉。
一通り確認して、ふと息をついた。
「……一つだけ、億劫なことがあります」
「何?」
「バージンロードです」
「ああ」
「父と歩く必要がありますよね」
シオン様は少し黙った。
父と並んで歩く。
それがどうにも気が重かった。
あの人と並ぶことに、どんな顔をすればいいかわからなかった。
「じゃあ僕と歩こう」
「何を言ってるんですか」
思わず笑ってしまった。
「貴方は新郎でしょう。祭壇で待っている側です」
「そうなんだけどさ」
シオン様は少し考える素振りを見せた。
「じゃあついでに牧師にもなろうかな」
「なれません」
「セレスとバージンロード歩いて、そのまま誓いますか?って聞いて、で、口づけして……完璧じゃない?」
「一人三役ですか」
「効率的でしょ」
私は笑った。
声に出して、笑った。
笑いながら、ふと思ったことを言った。
「シオン様」
「うん」
「将来は嫌でも父親になるんですから、結婚式では私の夫でいてください」
シオン様が止まった。
式次第を持ったまま、動かなくなった。
「……セレス」
「はい」
「い……今、なんて」
「将来は父親になるんだから、私の夫でいてほしいと言いました」
シオン様はしばらく固まっていた。
それから、じわじわと耳まで赤くなった。
宰相候補が、将来の侯爵が、耳まで真っ赤になっていた。
「セレス好き」
「はい」
「愛してる」
「ありがとうございます」
「ありがとうございますじゃなくて!」
「……私も」
私は微笑んだ。
「愛していますよ、シオン様」
シオン様はしばらく私の顔を見ていた。
それから、式次第をそっと机に置いて、私の手を両手で包んだ。
「もう一回聞かせて」
「……愛しています」
シオン様は、今まで見た中で一番幸せそうな顔で笑った。
窓の外では、春の光が柔らかく降り注いでいた。




