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家に帰ったら沖田総司がいました『拾ったサムライが帰りません』【新選組沖田総司✕タイムスリップ✕恋愛小説】  作者: 雪城 冴 @新選組小説 連載中


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3/5

黒猫

 

 その日、時計の針は既に13時を回っていた。


「こんにちは、体調はどう?」


 病室に入った遥香が手を振ると、沖田はベッドに寝たまま微笑んだ。

 排痰(はいたん)のケアをしてもらい胸が楽だという。薬で高熱も下がっているようだ。


 遥香は午前中、警察に行っていた。

 沖田は"総司"という名前だけを覚えている身元不明者として届け出た。


 下手に沖田総司だと話して周囲を驚かせれば、治療の妨げになるかもしれない。それは避けたい、という真一の提案だった。

 

 遥香はタイキの件も相談し、警察から注意勧告をしてもらうことになった。


 沖田はふむふむと、高く結った髪を揺らしてうなずいた。


「町奉行から指導がされるのならば、多少は安心です。ですが、遥香殿は今日から家へ戻られるのですよね」


「ちゃんと奉行所が見回りしてくれるみたいだし、総司くんは寝ててね?」


 "警察がパトロールしてくれる"と言おうとしたはずが、総司に合わせ、遥香の口調は自然と古語になっていた。


「遥香殿をお守りすると約束しましたのに……このような有様で、面目次第(めんぼくしだい)もございません」


 総司は管(くだ)に繋がれた点滴スタンドを恨めしそうに見上げた。


 「この棒さえなければ」と、本気で思っていそうな顔だった。遥香はくすくす笑いそうになるのを堪えた。


「武士って皆そうなの? それとも総司くんだけ?」


「困っている婦女子がいれば、武士たるもの、放ってはおけません。新選組の同志も同じようにするはずです」

 

 真一が言っていたが、新選組は剣で京都の治安を守る、現代のおまわりさん的な存在らしい。

 

――トントン


 急ぎ気味なノックののち、ガウンとマスクを付けた真一が顔を出した。


「治療方針は後で話すが、十分治療できる範囲だよ。遥香はソーシャルワーカーの対応を頼む」


 ふわふわしていた部屋の空気が、シャキッと締まる。


「そういえば、なんで総司くんが月見野神社のおまもりを持ってたの?」


 お守りは洗いざらしたような生成りの布で、手のひらサイズ。

 

 今遥香たちの実家で売られているものとは異なるが、

 シンプルな満月と波の刺繍は、月見野神社の神紋(マーク)だ。

 

(……古いものなのに、どっかで見た気がする)


「これは昔、人にもらったものなのです」


 おまもりを返してもらった沖田は、大切そうに刺繍を撫でている。

 

「総司くん、どうやってタイムスリップしてきたの?」


 今更ながら気になった。

 真一は、それも聞かないでよく信じたなと呆れ顔をしている。


「だって……総司くんには危ないところを助けてもらったし。悪い人じゃないでしょ」


「お前、いつか痛い目見るぞ……それで、総司くんはどうやって幕末からここへきたんだ?」


「あの日、僕は月見野神社へ参拝したのです」


 沖田が神社へ行ったのは、丸い月が黄金(こがね)に輝き、地上すれすれに降りていると錯覚するほどの夜だったという。


「命尽きるまでお役目を果たせるように……と祈ってたところ、不思議な声が聞こえ、気がついたら遥香殿(はるかどの)の家へ倒れておりました」

  

 沖田は、病院のベッドに腰掛けたまま淡々と話してくれた。


 彼は今、二十代前半。

 先程遥香が調べた情報では、沖田は結核にかかり27歳で亡くなったとあった。


(私と同い年で死んじゃったんだ……)

 

 こんなに若いのに、病気のことで悩んで神社を訪れていたのだと思うと、遥香はきゅっと胸が締め付けられた。


 不思議な声は


――"そなたの願いを叶えよう"

――"長くは留まれぬ"


 の二つを総司に告げたという。


 真一が渋い顔をする。


「長くは留まれない? 結核の治療は半年は見てほしいんだが……」


「願いを叶えてくれるって言ったなら、総司くんが治るまでは、現代にいさせてくれるんじゃないの?」


 うーん、と三人で考え込む。


 帰る方法があるのか、強制送還なのかはわからないが、ひとまず治療を進めて、

 体調が良くなってから考えようということになった。


 真一の目は夜通しの勤務明けで充血していた。

 遥香は途端に申し訳なさでいっぱいになった。


「お兄ちゃん、ありがとう。私一人じゃ、何にもできなかった」

 

 珍しく素直になった妹に、真一はふっと表情を和らげた。

 

「遥香は昔から言いだしたら聞かないからな。見た目とは逆で」


「失礼ね」

 

 遥香は胸までの茶髪を低い位置で緩く結っている。目が丸く色白で童顔なこともあり、周りからは良く、おっとりしていると言われる。

 

 中身は少々異なるわけだが。


 意外な顔をした総司に向けて、真一は「頑固なんだよ」と笑う。


「小さい頃も、捨て猫を拾ってきて、"飼うと許してくれるまで帰らない"と言い張って本当にいなくなったんだ」


「それで、どうなったのですか?」


「夜まで近所総出で探したよ。散々探しても見つからなくて……結局朝になったら神社で大の字で寝てたんだ」

 

「僕も昔猫を飼っていました。遥香殿は、困っているものを置いておけないのですね」


 総司の尊敬のまなざしが痛くて、遥香はまつ毛を伏せた。

 

「……そんな、立派なものじゃないよ」


 あの日、目覚めた遥香の腕から黒猫はいなくなっていた。

 

 大雪の日だった。

「暖房もない神社で、遥香ちゃんよく無事だったわね」と驚く大人たちの中で、遥香は猫がいなくなった悲しみで泣きじゃくっていた。

 

 母は、「この雪だもの。もうあの猫は見つからないと思うよ」と静かに言った。

 

 幼くてほとんど忘れてしまったけれど、 雪の冷たさと、猫を救えなかったという痛みだけは今でも鮮明に覚えていた。


「遥香殿?」


 不安そうな声に、遥香はハッと笑顔をつくった。

 病人に心配させるわけにはいかない。

 行ってくる、とソーシャルワーカーの元に向かった。

 

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