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家に帰ったら沖田総司がいました『拾ったサムライが帰りません』【新選組沖田総司✕タイムスリップ✕恋愛小説】  作者: 雪城 冴 @新選組小説 連載中


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2/5

結核は、現代では治る

「しっかりして」


 遥香は、救急車に運び込まれる沖田に付き添い、この辺りでは一番大きいこもれび総合病院に来ていた。

 

 救急搬送口で、ストレッチャーのまま救急車から降ろされた沖田は、酸素マスクをつけられ朦朧(もうろう)としていた。


 看護師達は、サムライの格好をしている沖田にわずかな動揺を見せたが、さすがはプロですぐに冷静になった。 


 特に、白衣を脱いだスクラブ姿に、黒髪短髪、メガネの医師の動きは早かった。


「バイタル確認。採血、画像検査。感染症も視野に入れて隔離準備」

 

 矢継ぎ早に指示が飛び、スタッフが動き出す。 医師は、最後に遥香を振り返った。

 

「遥香、あとで話を聞くから待合にいろ」

 

 この医師は月見野(つきみの) 真一(しんいち)。10歳上の遥香の兄だった。

 沖田を乗せたストレッチャーは、薄暗い廊下へガラガラと吸い込まれていった。 

 

「大丈夫かな」


 遥香は階段を上り、突き当たりにあったトイレで、咄嗟につかんできた新しいブラウスに着替えた。


 鏡に写った自分が、5歳くらい老け込んで見えてぎょっとした。


 今日は色々ありすぎた。

 

 廊下の黒い長ソファに腰を下ろす。スプリングが劣化していて、身体が重く沈み込んだ。


(そういえば、江戸時代から来たって、本当なのかな)


 嘘を言っているようにも思えなかった。

 落ち着かず、スマホで「おきたそうじ」を検索する。


【沖田総司】

 幕末に活躍した剣士集団・新選組の一番隊組長であり、天才剣士。

 若くして結核で死去。 

 

 残念ながら顔写真はなかったが、十分だった。

 刀を抜いたときの、静かな湖畔(こはん)に波立つような殺気。あれは確かに本物だった。

 

「遥香」


 兄の声がして、遥香は急いでスマホの画面をオフにした。

 沖田は検査や処置が終わって、診断待ちだという。

 

 兄にN95マスクとガウンを渡された。

 部屋は個室で、さらにベッドは、ビニールカーテンのようなものに覆われていた。感染を防ぐための簡易陰圧室(いんあつしつ)というものらしい。

  ベッドに寝かされた沖田は、病院着に着替えて点滴に繋がれていた。

 意識も戻り、顔色も呼吸もさっきよりは安定している。


「遥香、この人はどこで倒れていたんだ?」

 

 兄が言うには、沖田は「記憶がない。名前も住んでいた場所も、何も思い出せない」と看護師達に話したという。


「え、沖田さんさっきは……」


 沖田は気まずそうに顔を伏せた。


「僕は、元いたところから遠く離れた場所へ来てしまいました。真実を話しても皆さんを困らせるだけです」


 途方に暮れた、悲しそうな顔だった。


――この人は、ここで独りぼっちなんだ

 

 恩人を放っておけない。 


「言う前から諦めてどうするの。江戸から来たんでしょ? 沖田総司なんだよね?」

  

 はぁ? と言う真一を片手で止める。


「お兄ちゃんはちょっと静かにしてて」


 沖田はむくりとベッドから起き上がった。


「ちょっと、どこ行くつもり?」

 

「あの男がいつ戻ってくるとも知れませんし、ここで寝ているわけには……」



 沖田は動いたからか、息が上がっている。


「タイキのことは自分でなんとかするから、寝てないと駄目!」


 ピシャリと言い放ち真一に向き直る。


「お兄ちゃんも医者なんだから、病人のこと放っとかないよね?」


「あ、あぁ」


「信じてないって顔してる。ちょっと待ってて」

 

 遥香はスマホを取り出し、教科書には載っていないような歴史のマニアックなことをいくつか尋ねた。


 沖田は迷うことなく答え、当事者しか知り得ないようなことも話した。


「本当に、沖田総司なのか?」


 沖田は、真一に信じてもらえた驚きを隠さなかったが、「はい」と小さく頷いた。

 

 真一はカルテに目を通した。


「君の病は結核だ。結核は正しく治療すれば、現代では治る。あきらめる必要なんて、どこにもない」


 沖田は震える指でシーツを握り締めている。

 

「治る……?」

  

 声は弱々しかった。だけど、喉の奥から絞り出すような強さがある。

 

 まるで強風に煽られて、消えてもいいと諦めながらも、必死に火を絶やさないロウソクのようだった。


「……生きたいと、願っても良いのでしょうか」


 

 彼には、現代に生きる遥香には、伺いしれない苦悩があるのかもしれない。

 

 それでも――

 遥香は思わずにじり寄っていた。


「生きたいと思うのは、普通のことだよ」


 沖田は微かに瞳を揺らしたが、腹を決めたように、遥香を真っ直ぐ見つめ返した。


「真一先生、遥香殿。ご面倒をおかけしますが、お世話になります」


 沖田は腰からすっと折るような、綺麗な所作でお辞儀をした。 

 遥香も大きくうなずいた。


「絶対に病気、治そうね」

 

 真一は表情を引き締め、手元の資料を広げた。


「そうと決まれば、これからどうするか話し合おう。現実的な問題が山積みだからな」


 沖田には先に休んでもらいつつ、兄妹の話し合いが始まる。

 

 真一の手には小さなおまもりが握られていた。沖田のものだというが、そこにある刺繍を見て遥香は息を飲んだ。


「それ、月見野神社の神紋(しんもん)……」


 月見野神社。

 それは、遥香たちの実家の神社の名前だった。



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