6 たとえ不敬だとしても
「何と五才の時にそのような夢を見たのか…それで何度も辞退を。だがそれはただの夢であろう?」
「不敬をお許し願えればと思います」
「良い。不敬には問わぬ。言ってみよ」
「実際に殿下がわたくし以外の令嬢に好意を伝えられたので術が発動しております。そのようなことがなければ何も起きていません」
「王族の妃になるのだ。政治的にその様なことが起きるのは覚悟をしていたのではないのか?」
「五才児に政治なのだから浮気をすることくらい認めよと仰るのですか?」
憤怒に顔を染めた公爵が声を上げた。
「うっ!!」声を上げたのは殿下だ。
彼に視線をやった陛下は、殆ど顔色のない息子を見た。
「ラドクリフを私室に下げ医者を手配せよ」
「だ、だいじょうぶです、父上。今リリスのことばを聞いておかないと同じしっぱいをしそうでいやです」
「だが、気を失いそうではないか」
「五才のリリスがのりこえようとがんばったのです。ぼくにもできます」
「…もしも倒れたら連れ出されると覚悟をしておけ、良いな」
殿下がコクリと頷いた。
「陛下もしもわたくし達の息子が冤罪による断罪をされたら許せるのでしょうか?」
王妃殿下が穏やかに口にされた。
「冤罪で断罪などしておらんではないか」
「五才の少女がその様な夢を見たのです。しかも相手は実在する人物。怖くなって当たり前だと思われませんか?もしもの時の保険をかけたのよね?アマリリス嬢。それにラドクリフの周りには実際に女性の姿がありました。どう言うことなのです?陛下」
「それは…国家機密で 言えない」
「息子にハニトラを命じたのですか?」
「……言えない」
「そう言うことだそうよ、公爵」
「分かりました。王妃殿下」
父が恭しく頭を下げた。
言うなら今しかないわ、頑張れ!アマリリス。
「この前のわたくしとのお茶会の日、殿下は楽しそうにあの令嬢に寄り添っておられました。あの様な笑顔はわたくしには向けられたことがありません。お前はもういらないと突きつけられた気がしました。ですので邪魔者は消えようと…。夢に見た通りあのご令嬢がお好きならばわたくしの居場所は無くなったのだと思いました」
「…大人のぼくはそんなひどいことをリリスにしたのか……ごめん」
いよいよ顔色の悪くなった殿下が呟いた。
「小さくなるまでの記憶はないのですか?」
「子どもになる前の一年間の記憶がないんだ。そんなことをしたおぼえは全くない」
記憶を消すつもりはなかった。全部覚えさせておいてやり直させるはずだった。
不覚だわ。どこが悪かったのか検証しなくては。
ならこの話はショックだろう。七才では受け止め切れないに違いない。
ぐらぐらと身体が揺れている。危ない!近衛騎士が受け止めた。
「許してくれないか?アマリリス嬢。私が間違っていた。ラドクリフとの婚約は解消をする。賠償金は勿論金鉱山のある領地も差し出そう。どうだろうか」
陛下が頭を下げた。
「受け賜りました」
「そうか、ありがとう。ではラドクリフに掛けた術を解いてやってくれないか」
「いやです!父上。リリスと別れるなんていやです!」
「何を言っている?婚約期間中にアマリリス嬢の心を掴めなかったのはそちの失態ではないか。本気で口説いておらぬから気持ちが伝わらず術が発動したのだぞ」
「リリスどうかもう一度チャンスをもらえないだろうか?」
(ハニトラか…。 他の令嬢には甘い笑顔が向けられるのに私には一度もなかった…。まあどうでもいいけど。不敬にも問われないようだしこのまま無事に終わりたいから突っ込むのはやめよう。王妃殿下も仕方がないわねというお顔だし。今さら好きだと言われてもねえ)
「本気ですか?大人の身体に戻っても浮気をされたらまた子どもになりますのよ」気を取り直し殿下に忠告をした。
「していないし、しない、だんじてしない。君だけが好きなんだ」
近衛騎士の腕に抱かれた殿下が目に涙を溜め必死で頼んでいる。
子どもだから許せるけど中身は大人なのよ、苦笑いを堪えた。
困ったわたくしは両親の方を見た。そこにはなんとも微妙な顔の二人がいた。
「一度持ち帰らせてくださいませ。殿下の解呪は体調が良くなられてからでお願いします。万全の体制を取りませんと失敗するかもしれませんので」
「あい分かった。今日はここまでに致そう。ご苦労であった」
こうして怒涛の謁見は終わった。
ヘタレ男子が子どもに戻って素直になりました。アマリリスの両親はさぞ胃が痛くなったことでしょう。
娘を守れ伝統あるベルモント公爵家を自分の代で潰さなくて済んだ公爵は屋敷に帰り緊張が解けて大きく息を吐き出しました。殿下の信用は地の底です。




