5 不敬?
その日わたくし達ベルモント公爵家三人は様々な思いを抱えながら登城した。
両親は娘を守ろうとし、わたくしは家と両親の為に恥ずかしくない行動をすることを胸に誓った。
馬車が正面玄関に停まり扉が開くと子供の高い声が聞こえて来た。その後に続くのは追ってきた侍従の声だろうか。
「リリス、 僕のことわかる?」
小さな手がエスコートをするように差し出された。
「ラドクリフ殿下でございますよね?」
「そうだよ、分かったんだね。良かった!」
そこに立っていたのは目をキラキラさせた金髪碧眼の七才のラドクリフ第二王子殿下その人だった。
追ってきたメイドや護衛がどうしようもない程青くなって控えている。抑えきれなかったのだろう。幼いと言っても殿下ですものね。物理的には無理よね。
反対に両親は口元が緩んでいる。孫に会った時のようだ。
兄は結婚して領地を治めている。今回は二人目のお産が近い義姉の側にいる。本当の孫はまだ二才の可愛い男の子だ。知っていたとはいえ、こんなに急に幼い殿下に会えるとは思っていなかったのだろう、いきなりの行動と可愛いさに驚いたというところだろうか。
わたくしがその小さな手の平に軽く手を乗せると満足そうにエスコートをしてくる。どうしたのだろう。小さな時からこんな対応はされたことがない。玄関まで迎えに来ていただいたことなど一度もなかった。
侍従かメイドがお茶会の場所まで案内してくれるのが普通だったのに。
歩きながら殿下が言う。
「あのね、僕この前とつぜん子供になっちゃったんだ。どうしてか分からなくてしばらく泣いたけど、お城のまほうつかいに見てもらったら う、わ、き をするとかかる呪いですって言われた。う、わ、き って何のことか分からないけどリリスというこんやくしゃがいるのに、ほかの女の人に好きだと言ったらかかるじゅつしきになっていたんだって」
(うわあこれバレてる。掛けるのってわたくししかいないじゃない。覚悟を決めなくては)
「殿下はわたくしではない御令嬢を好きになられたのですね」
「そんなことはない。好きなのはリリスだけだ。小さくなった時にへやにいたお姉さんは知らない人だったよ。こうすいがキツくていやなかんじだった。いきなり僕が小さくなって泣き出したのであわててにげようとしたみたいでコノエにつかまってた」
(えっ?浮気をしたら発動するように掛けたのに失敗したのかしら?あれから何度も術式を確かめたけど正しい物だったはずだわ。この天使のように明るい態度、悪いことをしたとは思っていない?
ん?何?待って、殿下がわたくしを好きだった?そんなこと嘘でも言われたことはないわ。態度に出されたこともない。この殿下本物?よく似た子供を連れてきたとか?それはあまりにもタイミングが良すぎるけど…)
キャパオーバーしそうなわたくしは話を終わらせることにした。
「殿下詳しいお話は謁見の間でいたしましょう」
わたくしは膝を折り目線を合わせて言った。
「そうだね、早く行こう。父上と母上がまってるよ」
ぱあっと輝くような笑顔になった殿下は手を繋ぐと急かすように歩みを早めた。
面会は謁見の間ではなく王族のプライベートフロアにある応接室で行われた。
「我が国の太陽であらせられます国王陛下と月であらせられます王妃陛下にご挨拶申し上げます」
ベルモント公爵家を代表して父が挨拶をした。わたくしと母は最上級のカーテシーだ。
「ああ硬い挨拶は良い。気を楽にしてそちらのソファーに座ってくれ。此度のことを話し合いたい」
陛下の表情は読めない。
ベルモント公爵家は両陛下とラドクリフ第二王子殿下の対面に腰を下ろした。
陛下の侍従が紅茶を淹れて部屋を出ていった。勿論壁際に侍女と近衛がいるのは想定内だ。
「さて、ラドクリフがどうしてこうなったのは、天才魔術師であるアマリリス嬢は分かっているであろう?昔から 婚約を辞退したがっておったからな。今更だが なぜ だったのか答えてはくれまいか」
責められているのはわたくしなのに、まるで悪戯がバレて叱られる前の子どものようにラドクリフ殿下の顔色が悪くなった。
ここまで言われれば言い訳はするまい。
わたくしは腹を括り五才の時に見た夢という体で話を始めた。
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