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誘拐犯への反撃……に伴う悶絶

 

 あっけにとられたエミリアを肩に担いだ男はゆうゆうと歩く。

 消えてしまった義兄を追おうと部屋を飛び出したエミリアには、その顔は見えなかったが……声や風体からして知り合いではないと感じた。エミリアは、当然叫ぶ。


「な、なんですか⁉ これはいったいどういうことですか⁉ グンナール様は──グンナール様をいったいどこへ連れて行ったの⁉」


 義兄はエミリアに何かを話そうとしていたところだった。ならば彼自らが彼の意思でどこかへ行ってしまったということではあるまい。

 ということは、現在のんきなリズムで彼女をどこかへ連行し行くこの男が、義兄の消失に関わっていると見て間違いないだろう。そうエミリアは判断した。

 しかしエミリアがいくら彼の肩の上でもがいても、男は緊張感のない言葉で応じるばかり。


「バルドハート様、暴れない暴れない。大丈夫ですよ、わたしは怪しい者ではないですからね」

「⁉ 十分すぎるほどに怪しいんですが⁉」

「ははは」

「⁉」

 

 信じられないことに、男は終始ヘラヘラしていた。エミリアの反応など、どうでもいいと考えているようだ。しかしエミリアは、黙ってどこかへ連れていかれるわけにはいかない。


「あなたは誰⁉ グンナール様をどこに……⁉」

「……お嬢様……ポコポコしないでくださいよ……それ、暴れているつもりですか……? 俺たち身体が頑丈だから拳を痛めますよ。人族って思ったより非力だなぁ、お嬢様、男爵家は金がないんですか……?(食ってないのか……?)」

「‼」


 男の発言に、彼の拘束から脱出しようとしていたエミリアが目を見開く。


「⁉ 金銭目的なんですか⁉」

「え? 金? ははは、くれるんですか?」

「⁉」


 男はエミリアの反応を気にかけることもなく、のんきに応じる。

 ただ、彼からすると、エミリアはひ弱すぎる仔ウサギ程度の認識。

 相手にするまでもない弱小種族の子供としかとらえておらず、彼はただ命じられたままにこの娘を搬送すればいいと考えていた。(※荷物扱い)

 彼の主はこの娘のことをあまりよく思っていないようで、苦々しく命令を受けたことも彼の態度に影響。こんなことをしていいのかなぁとは思っていたが、主はこれを一族のためだと言い切った。

 自分の命令こそが、同族たちの中に不和を生まぬようにする策なのだと断言されては……配下としては従うしかない。

 ゆえに彼は、主の厭う彼女を、最低限無事に男爵領に送り届ければいいはずで、会話など。ましてやその内容など、正直どうでもよかったのである。


 ……しかし。

 この適当さが……エミリアの誤解を生むことに。


 男の背後で三白眼を思いっきりひん剥いたエミリアは、愕然とした思いで震える。


(……、ゆ……、ゆ……、ゆ、う、か、い……はん……だわ⁉)


 ──誘拐犯。


 エミリアの中で、それが確定された。

 けれどもこの場合、誘拐されたのはどこかへ連行されて行く自分ではない。

 先ほど目の前で消えてしまった、彼女の愛する義兄グンナールである。


(っグンナール様!)


 エミリアの顔が真っ青になる。真っ青になって……彼女は怒り狂った。

 先日、パールを奪われるのはイヤだと怒ったときと同じように、全身の血が逆流するような憤りが頭に向かって突き上がっていく。


「……あれ?」


 男は、肩の上でぶるぶる震え出した小動物に気がつきふと振り返る。

 やっとエミリアを見た男の顔は、利発そうで端正な顔立ちで、耳の上には一対のツノがあったが──そのようなことは、逆上したエミリアにはまったく関係なかった。

 相手が誰でも、どのような人物でも関係ない。

 グンナールを害する者は、等しく彼女の敵であった。

 青色を通り越して白くなり、今度は怒りすぎで真っ赤になった顔の娘は尖がった三白眼で男を貫く。噛み締められた歯は、今にも嚙みついてきそうな獣のようだった。

 その壮絶な表情には、男のほうがギョッとする。


「⁉ ど……何その顔色⁉ それ人族として正常なの⁉」


 破裂しそうな娘の顔色を見た男は、慌てて彼女を肩から下したが──その瞬間、エミリアは彼に襲い掛かった。


「⁉ 頭突き⁉」

「わたしのお義兄様に何かしたらたら許さない! 許さない!」

「うわ⁉」


 男に突進したエミリアは、止めようと伸びてきた男の手を躊躇なく噛む。──が。

 その瞬間エミリアがひんっと泣いた。


「か、かたぁいっ⁉」

「⁉ そりゃそうですよ⁉ 俺、竜人族ですからね⁉ ひ、人族が俺を噛むなんて……」男は正気かという顔。彼らは特に身体の強靭さで言えば間違いなく人類最強種。そんな自分の固いウロコに、よりによって歯で挑もうとするちびっ子がいるとは思わなかった。

 案の定、エミリアは彼の手の甲のウロコに歯を阻まれ、ガチッとやってしまった痛みに呻いて背中を震わせている。

 が、彼もあまり彼女にのんびり呆れている場合ではなかった。唖然としかけた男は、次の瞬間自分を襲ってきたものを見て慌てる。


「って⁉ ちょ⁉ うわ⁉ お、お嬢様! これなんとかしてください!」


 魔力の刃を伴った風が男に激しく吹き付けていた。


「い、いててっ! い、痛い! ちょ……」


 気がつくと、自分の顎を抑えて苦悶しているエミリアの手の中が光っている。

 そこに握りしめられたままになっていたのは、さきほどグンナールから受け取った例のウロコ。

 エミリアから噴き出すような風に襲われていた男は、その握りしめられた娘の手のうちから、何かが飛び出してきたのを見た。

 その姿は風に溶けるように透明で、魔力のきらめきをまとっていた。

 大きく翼を広げるのは仔ドラゴン。

 魔力圧から生まれた風に乗り、小竜は敵意を持って男の背中にかまいたちのように襲い掛かっていく。その小さきものを見て、男が悲鳴を上げた。


「グンナール様の血紋ドラゴンじゃん⁉ ちょ、お嬢様! やめさせて!」

「ぅ……ぃ……」※歯、痛い。


 エミリア、いまだ顎を抑えて悶絶中。







お読みいただきありがとうございます。

…変な話が書きたい、シリアスになるとぶっ壊したくなる症候群な書き手の癖がよくあらわれていますね(苦笑

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