第四話
カーマインの元に一通の手紙が届く。
『旅立ってから一ヶ月が経ちましたわ!
文献に載っていた砂漠の神殿を目指して大活躍と言いたいですが……此処は、何処ですのっ?!
サンライト王国の側にジャングルのような密林地帯が有るなど知りませんでしたっ!
巨大な食虫植物や大きな茸の有るこの大森林!
森を通り抜ける途中で、タンザ族という部族と出会いました!
最初は生贄として狩られかけましたが、決闘を張り。
タンザ族の困りごと、でっかい蜥蜴の討伐を経て、友情を築くことが出来ましたわ!
でっかい蜥蜴の肉は美味しかったです!
あと……なんか、キラキラした小石を拾いましたわ!
友情の証に、日陰や枯れた大地でも育ちやすい種芋も貰いました!
タンザ族の次期族長が、ご厚意でヴェノム侯爵領にペットの怪鳥で種芋を空輸してくださいましたわ!
今度こそ、砂漠の神殿へ辿り着くつもりです!
また、一区切りが付きましたら手紙を送ります!
追伸
どうやら私は、途中から間違った方角へ進んでいたようです。
その結果、砂漠の神殿とは正反対のキノキノ大密林に辿り着いた模様です!』
手紙を読み進めたカーマインは口元に手を当てる。
「くっ……くくく……なんだ、そりゃ!
目的地と正反対な場所にたどり着くとか……マジで、アイツらしいな……!」
自室で一人、カーマインは笑ってしまう。
「……何にせよ、元気そうで良かったよ」
柔らかな微笑みが零れ落ちる。
お騒がせ娘なカーマインの悪友が、元気なことが何よりも嬉しかった。
コンコン。
「っ……」
そんなカーマインの自室の扉がノックされた。
「……失礼するよ、カーマイン」
「兄上……」
開いた扉の先には、アルフレッドの姿。
普段と変わりない穏やかな笑顔。
だが……カーマインは、その笑顔に何処か違和感を感じた。
「カーマイン、行方不明になっているヴァイオレットから手紙が届いたと聞いたんだけど……」
「行方不明?
彼女は自分の意思で旅立った筈ですが?」
兄の姿を見た瞬間に、王族らしい言動に切り替えたカーマイン。
「ヴェノム侯爵家も、令嬢本人の意思で旅立ったので捨て置いてほしいと言ったのでしょう?」
「それは、そうだが……。
だが、女性の身で一人旅など無茶が過ぎるだろう……!」
落ち着いた様子のカーマインに、アルフレッドの片眉がピクリと動く。
「第一、カーマイン……君は、ヴァイオレットが旅立ったことを知っていて黙っていたのは……」
「聞かれませんでしたので。
それに、自分などが知っていることを、まさか婚約者の兄上が知らなかったとは思いもよりませんでした。」
「…………」
悪びれもなく答えるカーマインに、アルフレッドの顔が曇る。
「ヴェノム侯爵令嬢からの手紙も……彼女らしく生き生きとした内容でした。
多少のイザコザは有れど、ヴェノム侯爵家にとっては有益な結果も引き当てているようですし。」
問題など無いでしょう?と慇懃無礼にカーマインは微笑む。
「…………」
「御用は以上ですか?
偉大な光の皇太子たる兄上が、自分のような出涸らしに構っている時間など無いでしょうに。」
「カーマイン……」
アルフレッドの顔が悲しそうに歪む。
「私、は……」
「失礼、兄上。
出涸らしの自分にも、細やかながら公務は有りますので。」
冷たい弟の顔に、アルフレッドは言葉を失う。
「……急に、すまなかった……」
開きかけた手を握り直し、静かに微笑んだアルフレッドはカーマインに背を向け退室する。
「…………」
扉が閉まる音が嫌に響く。
寂しげな背中を見送ったカーマインは、髪を掻き毟る。
「あー……くそ!
マジでタイミングが悪い」
完璧な兄の弟として。
色々と思う所は有るものの。
カーマインは、別にアルフレッドを心底嫌いな訳では無いし、憎んでもいない。
「(……兄上への感情を拗らせる前に、世話の焼ける悪友が出来ちまったからな……)」
出涸らしと嗤われる自分よりも。
余程……酷い言葉で嗤われる悪友ヴァイオレット。
「……アイツが、へこたれずに笑ってんのに……俺一人が拗ねてヘソを曲げる暇なんて無いしな。」
ただ、弟として複雑な気持ちは有るゆえに。
せめて、兄に会う前に心を整理する時間はほしいのだ。
「……次の手紙は、何時だろうな?
それとも……兄上が公務も何もかもを放り出して探しに行くかな?」
カーマインの大切な悪友ヴァイオレット。
今はまだ……カーマインのヴァイオレットに向ける心は、恋心ではない。
「……つーか……ヴァイオレットは兎も角……兄上、鈍すぎるだろ……」
数多のご令嬢達に恋心を向けられ、スマートに躱すくせに。
自分の心に気が付かないなど、とんだお笑い草だ……!
「ま、今の俺には関係ないけどな。」
だけど……もし。
もしも、ヴァイオレットの意に沿わぬ真似をして縛り付けるなら……
「……その時は……」
誰をとは言わないが……攫って逃げるのもアリかもしれないと、カーマインは不敵に笑うのだった。
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