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悪役令嬢は領地を救いたい!〜宿敵兼婚約者の光の皇太子なんて、いつか絶対に泣かせたいのに何故か溺愛されています〜  作者: ぶるどっく


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第十六話



「……権力者とは面倒で面倒で……全部を更地にしてやりたくなりますわね!」


 貴族街の端っこ。


 ヴェノム侯爵家の狭い屋敷。


「帰って来て早々に、どうしたんだい?」


「相変わらず、出汁に使われまくってヤな感じですわっ!」


 不在にしている父親に変わり、門限になっても帰らないヴァイオレットを探していたハロルド。


 王城へと続く道の途中で、大切な妹の姿を見付けた時には胸をなで下ろした。


「あー……そういう、ね」


 二人仲良く家路について、帰り着いたと思えば冒頭のヴァイオレットの叫び。


「また、何かされたのかい?」


「……いつものことですわね。

 難癖付けられて、魔法を使われそうになっただけですわ」


「……そうか」


 面倒そうに、呆れた面持ちでハロルドは呟く。


「でも、今回はどんな風の吹き回しか、皇太子殿下が現れましたわね」


「…………は?」


「……何を考えていらっしゃるのか?

 話がしたいとか言われて、一応……応じましたが、謝りたいなどと……」


 本気で意味がわからない。


 カーマイン以外の王族にとって、ヴァイオレットは所詮は捨駒。

  

 捨て駒は捨て駒らしく、婚約者のご機嫌取りをしていたのに……


「ひゃ〜ひゃっひゃっひゃっ!

 そんなもの決まっとるだろぉ!

 使える駒が離れぬように釘を差し、要らぬ駒はポイ捨てじゃあっ!!」


 特徴的な笑い声と共に床板を跳ね上げて現れたのは、骸骨のように痩せたチョビ髭親父。


「あら、シュバルツ博士!

 地上に出てくるのは珍しいですわね!」


「シュバルツ博士、床板を勝手に改造しないでください。

 落ちたら痛いじゃないですか。」


 驚くことなく慣れた様子で対応するヴァイオレットとハロルド。


「シャアラァァッップ!!

 くぅぅっっ!!

 同じ弟子でありながら、やはり男は可愛くないのぉ……!

 それに比べて、ヴィーちゃんは可愛いのぉ!

 孫は女の子に限るとは、このことじゃな!」


「弟子と可愛くないことは認めますが、僕とヴィーはシュバルツ博士の孫ではありません。

 てゆーか、僕たちと博士は血縁関係じゃないでしょうに。」


 出てもいない涙を拭うフリをするシュバルツ博士に、ハロルドが呆れた様子で冷静に突っ込む。


「ふふん!

 同じ屋根の下に一緒に住んでおるんじゃ、似たようなものじゃろ?」


「一緒にというか、博士が勝手に住み着いたというか……ヴィーが拾って来たと言うか……」


 ヴァイオレットが婚約者とされた頃くらいだったか?


 濡れ鼠のオッサンを拾ってきた時には、家族総出で白目を剥いた。


「ごめんなさい、お兄様。

 私の知らないことを、たくさん教えて下さるって言うから……」


「……ヴァイオレット、普通はね……初対面のオッサンが、幼気な十歳の美少女にそんなことを言ったら事案だからね」


 マジで事案だと思ったし、ロリコンを拾って来たと本気で考えた。


「お主のぉ……あの時は、儂がおったから無事にヴィーちゃんは帰り着いたんじゃぞ?

 治安の悪い区画に幼気な女の子がおったら、色んな意味で危なかったんじゃからな。」


「……承知していますよ。

 だから、貴方様を匿っているでしょう」


 目を細める。


 ヴェノム侯爵家の王都にある屋敷の地下に住み着いている変人博士。


 ……父は人が良すぎるゆえに、気が付いていないが……。


「ひゃっひゃっひゃ!

 儂は正体不明のシュバルツ博士じゃ!

 善人の皮を被った王族どもなんて関係ないも〜ん!」


「お兄様、シュバルツ博士はすごい発明家なので大丈夫ですわ!

 シュバルツ博士のお陰で私は!

 魔導機械や魔導具を作る材料が手に入っているのです!

 それに!

 拾って来た時に、お母様とちゃんと最後まで面倒を見ると約束しましたの!」


 捨てては嫌です!と涙目で叫ぶヴァイオレット。


 ヴァイオレットの発明品の数々は、シュバルツ博士が使わなくなった部品や余っている材料を譲り受けて成立しているのだ。


「……何か、儂……捨て犬っぽいのう……」


「似たようなものでは?」


「……本気で可愛くなくなったのじゃ!」


 ぐぬぬ……と歯噛みするシュバルツ博士に、ハロルドはため息をつく。


「博士のお陰かと。

 色々と仕込まれましたからね。」


「くぅ〜!

 儂は地下研究所に戻っちゃうもんねっ!」


 白衣の裾を翻し、開いていた床の穴へとシュバルツ博士は飛び込んだ。


「あ!

 私も発明途中の魔導機械が有りますの!」


 待って下さいまし!とシュバルツ博士の後に、ヴァイオレットも続いた。


「…………はぁ……ヴィーの性格形成に、多大な悪影響を与えられた気がするのは僕だけかな?」


 兄として微妙な気持ちになったハロルドは、深いため息をつくのだった。





 地下研究所。


「きゅ、きゅ〜」


 嬉しそうに頭を擦り付けるエリザベートと戯れながら、何かを思案するヴァイオレット。


「……シュバルツ博士」


 バチバチと火花を散らせながら、何やら組み立てているシュバルツ博士。


「ん〜何じゃあ?」


「春までに、調べて欲しいことが有りますの…………大きな魔物たちの目撃情報に関することですわ」


 その背中に向けて告げられたヴァイオレットの問いかけに、シュバルツ博士の手が止まる。


「きゅ〜?」


「……ヴィーちゃん……それは……」


「確信は有りませんので、シュバルツ博士以外に言うつもりは有りませんわ!

 ですが……推測を確信に変えるためにも、調べる必要が有ります!」


 そう……ヴァイオレットには、王国の権力闘争にかまけている暇などない。


 自分を皇太子妃にしたいならば、勝手にすれば良いのだ。


 どうせ、すぐに飽きて側室に落とされるか、処分されるだけ。


 まぁ……その時は、自分の仕業と分からないように一矢報いてから死ぬが。


「とおっても素敵なシュバルツ博士!

 私の細やかなお願いを聞いてくださいませんか?!」


「じゃがのぉ……」


「私が自分でやりますと、お兄様ったら……すぐに気が付いちゃうんですもの!

 先日もやっとの思いで作りました対巨大魔獣用魔導機械人形!エリザベート十三世の設計図を没収されてしまいましたのっ!!」


 頭を抱えて絶叫するヴァイオレットに、シュバルツ博士が苦笑する。


「あちゃあ……アヤツは最近、勘が良くなったからなぁ……。

 仕方ないのぉ……可愛いヴィーちゃんの頼みじゃからな!

 この天才大発明家シュバルツ博士が請け負おうぞ!」


「やったぁぁぁっっ!!

 シュバルツ博士ありがとう!!!」


 これで春までに済ませたい準備の一つが完了した、とヴァイオレットは笑う。


「……春が楽しみですわ!」


 今度こそ!


 絶対に!


 ヴェノム領に豊かさを持ち帰ってみせる!


 ヴァイオレットは、そう……心に誓うのだった。




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