第十五話
「……グラディウス」
「……何でござるか?」
夜のカーマインの自室。
普段ならば、グラディウスを室内より下がらせ、ゆっくりと寛げる……はずの時間帯。
「何故、兄上と近衛騎士団長が私の部屋の隅で茸を生やしているんだ?」
「ハッハッハッ!
そのようなことは私には分からんでござる!」
少し前に幽鬼も真っ青な顔でフラフラと現れたアルフレッドとシルヴァン。
カーマインが声を掛けても、皮肉を言っても、無言で部屋の隅で三角座りをしているのだ。
「スープの件といい…………ああ、とうとう婚約破棄したんですか?」
「していないっ!
好きだと自覚した途端に手放したくなどないっ!」
「…………」
泣きそうな歪んだ顔で答えたアルフレッドに、カーマインは盛大に顔を顰める。
「うざっ……マジで、面倒くせえな。
さっさとヴィーに当たって砕けて、振られて来いよ。」
「っ?!」
衝撃を受けたように、涙で潤んだ目を見開くアルフレッド。
煽るようにカーマインは、わざとヴァイオレットを愛称で呼んだ。
「ハッハッハッ!
カーマイン様、本音がポロリでござるな!
……美しさ、美しさと喧しい何処ぞの白マントも、ヴィー殿の特性落とし穴に落とされればいいのに。」
「ボニートっ?!」
近衛の部下の一人であるグラディウスの言葉に、シルヴァンが目を剥く。
「カーマイン……」
「先に言っておくが、元々の口調はコッチだぜ。
それに、生まれながらに辛口なもんでね。
つーか、アンタに優しくする理由もねえしな。」
弟の知らなかった一面に、アルフレッドは頭を抱えてしまう。
「……私は……ずっと何を見てきたのだろう……」
ヴァイオレットを取り巻いていた環境も。
弟の性格と口調も。
アルフレッドは何も知らなかった。
「父上は、半分わかってて放置してそうだけどな。
完璧な光の皇太子の婚約者なんて、権力が大好きな輩にとっちゃ涎が出るほどに欲しい椅子だろ。
その椅子を手に入れるために悪事を働けば、それを切っ掛けに大掃除が出来る。」
実際に、この数年間でヴァイオレットへの嫌がらせが切っ掛けで芋蔓式に罪が暴かれた事例は多々ある。
「しかも、国にとってヴィーは死んでも痛くない捨て駒だ。
侯爵令嬢とは名ばかりのヴェノム侯爵家の娘なら……なぁ?
援助金という首輪がある限り、雑に扱おうが、死のうがヴェノム侯爵家は文句を言えやしない。」
可哀想にな、とカーマインは嗤う。
「……最も、ヴィーの価値は変わっちまったがな。
国を飛び出し旅を通して諸外国と独自の友誼を結び、国益に繋げちまった。」
人魚の治めるシーラ海底王国。
砂漠のオリースト帝国。
そして……氷の国こと、グレイシス王国。
「近い内に、シーラ海底王国とオリースト帝国の王族が来るんだろ?
その時に、皇太子の婚約者として出席させるのか?
父上的には、ヴィーをアンタの婚約者に納めておくよりも、オリースト帝国の王子の側室として嫁がせたいだろうぜ。」
「な、にを……!」
「国内に首輪を付けた親族がいりゃあ、ヴィーはサンライト王国の国益を優先させるだろうからな。」
本当に、使いやすい良い捨駒だ。
使えるだけ使って、敵地で壊れたら捨てればいい。
壊れた駒を回収する必要すらない。
「カーマイン……!」
「おっと、俺に怒るのはお門違いだろ?
そんな空気を助長させたのは……他ならぬアンタだ。」
「私はっ……そんなつもりは……」
アルフレッドは、唇を噛み締める。
「……いや……同じこと、だな……」
歴代の王族随一の光の力を持って生まれ。
光の皇太子と呼ばれ。
完璧な次期国王だと褒め称えられ。
「(……何が……光の皇太子だ……!)」
民のために。
困っている人を助けるために。
国のために。
……その結果が、恋した少女一人も守れていなかった。
「……平等とは……誰も愛していないと、同じ……」
アルフレッドは、自嘲の笑みを浮かべる。
「……カーマイン、君に言われた意味が分かったよ……」
こんな無様な男の何処が完璧なんだ?
アルフレッドには、恋した少女に振り向いて貰う方法すら分からない。
「自己嫌悪のぐるぐる頭に陥るのは構わねえけど、自室でやってくれ。
それに……まずは、ヴィーの七年間を振り返ることが先じゃないか?
七年間を知ってなお、手離したくねぇなら……行動で示すのが男だろ?」
面倒な奴、とため息交じりのカーマインの言葉。
大切な悪友が、恋に関してはポンコツな兄に振り向くかもわからない。
「カーマイン……!」
「っ……?!
別にアンタのためじゃないからなっ!
俺の部屋の湿度を上げて茸を生やされたら嫌なだけだからな!」
感動したように半泣きで近付いてくるアルフレッドに、カーマインは引き気味に応じる。
「カーマイン……っ……!」
「だあっ?!
泣くな、離せっ!
俺に抱きつくなっっ!!」
男に抱き着かれる趣味はねえっっ!!と暴れるカーマインに抱き着くアルフレッド。
「……美しき兄弟愛……!」
「……感動でござるな……!」
部屋の隅でアルフレッドとカーマインの様子を静かに見守っていたシルヴァンとグラディウス。
美しい兄弟愛に感動の涙を零すのだった。
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