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鬼哭廻眼〜その眼は一度死に蘇る〜  作者: 松本ハヤテ
一章 今は昔、頼光四天王というものありけり
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第七話 異種眼持ち

悠月ゆづき、あの眼……」

 能面のうめんの敵が鳥居とりいをくぐって〝表〟へと消えて行く姿を見ながら波留はるが言った。

 その言葉に悠月ゆづきは返答しようと口を開いたが、何を言う前に明日香あすかが詰め寄って来る。

「一体どういうことよ悠月ゆづき! あいつの眼、あんたんところの【雷光眼らいこうがん】でしょ!」

「ああ。でも、もう片ほ———」

「でもじゃないわよ! 私、源家みなもとけの人間に殺されかけたのよ? こんなの大問題でしょ! 家同士の戦争でも始めるつもり?」

 教室で怒っていた時とは比にならない程、明日香あすか激昂げきこうした。

「聞いてくれ、明日香あすか、」

「まさか酒吞童子しゅてんどうじがどうとかって話も源家みなもとけが俺たちの家をおとしめるための罠じゃないよね」

 明日香あすかなだめようとした矢先、今度は透哉とうやが口を挟んできた。

 誤解を解こうとして悠月ゆづきの声も自然と大きくなる。

「それは違う! そんな回りくどい話を持ち出して俺に何のメリットがある!」

「どうだか。さっきのだって悠月ゆづきが本気出せば追い付けたんじゃないの? わざと逃がしたって言われても仕方ないよね」

 不意の事で動けなかったのは事実だが、わざと逃がしたわけじゃない。悠月ゆづき弁明べんめいのタイミングを見失っていると、明日香あすかが大きく鼻を鳴らした。

「とにかく、この事は親を通して術協じゅつきょうに報告させてもらうから。じゃ」

しゃくだけど、俺も卜部うらべと同意見だ。帰らせてもらうよ」

 明日香あすか透哉とうやが順番に屋上から去っていく。

「ぼ、僕も元々皆が来るって聞いたから来ただけだし……その……ごめんなさい!」

 おろおろと状況を見ていた逞真たくまだったが、何とか言い切ると足早に立ち去って行った。

「……くそ、何がどうなってるんだ」

 悠月ゆづきは吐き捨てると、フェンスを殴りつけた。

「ごめん、悠月ゆづき。私もフォローしきれなくて……」

「いや。今のあいつらには何を言ったって火に油を注ぐだけだったろうさ……仕方ない」

 珍しくバツが悪そうにしている波留はるに向き直って悠月ゆづきは首を横に振った。

 沈黙が訪れる。だが切り替えるように波留はる毅然きぜんとした態度で話し始める。

「話を戻すけどさ、多分さっきの奴が持ってた眼って【雷光眼らいこうがん】だけじゃないでしょ」

 流石というべきか、波留はるの口調からは確信めいたもの感じる。屋上を吹き抜ける風に気持ちを落ち着かせながら、悠月ゆづき能面のうめんの敵について思い返す。

「ああ、十中八九じゅっちゅはっくあいつは異種眼いしゅがん持ちだ。【雷光眼らいこうがん】ともう一つ別の術眼じゅつがんを持ってる」

「やっぱりね……。最後に逃げた時のはともかく、あの攻撃の回避はもはや速いとかそういう話じゃなかった。消える……いや、瞬間移動みたいな感じだった」

「……俺もあんな瞳術どうじゅつは見たことがない」

 しかし悠月ゆづきにとって、いや源家みなもとけにとってはそれ以上に重大なことが起きてしまっている。

「あの【雷光眼らいこうがん】一体どこで……」

 異種眼いしゅがん持ちの存在自体は珍しいものではない。先天的せんてんてきにそのように生まれて来る者も瞳術どうじゅつの世界では存在するし、何よりも術眼じゅつがんは生きた眼。移植が可能なのだ。

「現状で【雷光眼らいこうがん】を持ってるのは悠月ゆづきと、それにおじ様、おじい様だけよね?」

「ああ。俺は見ての通り両眼りょうめとも無事だし、親父も勝爺かつじいも奪われるなんて事はまずない」

「なら源家みなもとけで保管されてる先祖たちの眼が盗まれた……なんて考えられないよね。そっちの方が難易度的には高いだろうし」

 悠月ゆづきは静かに頷いた。外部の人間が持ち出せるほど源家みなもとけのセキュリティは甘くはない。

「となると本当に源家うちの人間が何かしら馬鹿をやったって可能性が出てくるな……」

「それでも引っ掛かるところはあるよ。【雷光眼らいこうがん】なんて代物を持っておきながら、わざわざ燃費も悪くて限定的な力しか使えない異種眼いしゅがんにする意味は?」

 術眼じゅつがんは同じ種類が両眼一対りょうめいっついであって初めて百パーセントの力を引き出せる。つまり異種眼いしゅがんの場合は同時に二種類の瞳術どうじゅつを使用できるが、波留はるの言うように制限がかかってしまう。

「なら波留はるは、あの能面のうめんの敵が片眼しか手に入れられなかったって言いたいのか?」

「いや、可能性の話しだよ。もう片方の消える? 瞳術どうじゅつが相性良くて優秀だから、【雷光眼らいこうがん】は片眼だけで十分でした、なんて言われたらどうしようもない」

「……」

 悠月ゆづきは押し黙ってしまう。

 とどの詰まり、これ以上ここで考えていても仕方がないということか。

「帰ったら家の宝蔵ほうぞうを見てもらうよ……でも持ち出された痕跡こんせきなんてあれば源家うちはいろんな意味で終わりかもな……」

「そうなったら悠月ゆづき芽衣めいちゃんを含めた源家みなもとけの資産は渡辺家わたなべけ買収ばいしゅうさせてもらうよ」

「おい」

 波留はるが得意そうな笑みを浮かべて言うのに対し、悠月ゆづきは肘で小突いて返した。

 しかし、薄い笑みを浮かべたのも一瞬、悠月ゆづきは無意識に能面のうめんの敵が指さしていた校舎裏の山と森の方を見た。

 すると、そのわずかな変化を察知してか、波留はるも同じ方向を見て口を開いた。

「なに、まだ気になる事でもあるの?」

「ああ、少し……。波留はるたちが屋上に来る前、あの能面のうめんの敵があっちの方を指さしたんだ」

 悠月ゆづきは視線の先にある校舎裏の景色を指さした。

 すると、悠月ゆづきがそうだったように波留はるいぶかしんで眉をひそめた。

「当然そこの山と森がどうってわけじゃないようには思えるけど……仕掛けるのに悠月ゆづきの注意をきたかったとか、そんな感じじゃなかったんだよね?」

「ああ、そんな雰囲気はなかった」

「だとすると、方角そのものに意味があるって考えるべきだよね」

「北東……ようは鬼門きもんをさしてるんだろうけど……」

 風水地理が発達したとされる平安時代から北東の表鬼門おもてきもん、南西の裏鬼門うらきもんは災いがやって来る方角と言われており、現代でも建物を建造する際は出入り口が配慮はいりょされることが多い。

 そして、その考え方は瞳術使どうじゅつつかいたちの間でも一般的であり、まさしく全国に点在して相互作用し合っている〝裏〟の結界はそれらを考慮こうりょした法則に沿って組まれている

「でも、酒吞童子しゅてんどうじが封印されてる首塚大明神くびつかだいみょうじんと方角はほぼ真逆だよ」

「うん、それもあって少し引っ掛かっててた……」

 波留はるの言葉の通り、首塚大明神くびつかだいみょうじんは学校から西の方角にある。

 悠月ゆづきは長い息を吐いて気持ちを切り替えると、視線を波留はるの方に向けた。

「とりあえず一旦、家に戻るよ。それと首塚大明神くびつかだいみょうじんへの偵察ていさつは俺たちだけで行こう」

「分かった。……みんなも来てくれたらよかったんだけどね」

 波留はるが真剣な表情で頷いたかと思いきや、清々《すがすが》しくもため息交じりにそう言った。

 悠月ゆづきは淡く笑んだ。そして、一瞬なにを言うか悩んだ末に、先ほどの波留はるから始まった戦闘の流れを思い出して口にすることにした。

「けど、急繕きゅうづくろいにしてはあいつらと良いコンビネーションだったな」

悠月ゆづきが窓から追いかけて行った後、作戦を立てる時間はあったからね」

「……だったら、やっぱり波留はるが皆をまとめてくれた方が良かったんじゃないか……」

 悠月ゆづきが思わず泣き言で返すと、波留はるはどこか嬉しそうな笑みを浮かべた。

「私じゃ指示は出せても引っ張るのは無理だよ、大将」

 波留はるが勢いよく悠月ゆづきの背中を叩いて続ける。

「それにもしかしたら、つなもこんな役回りだったのかもよ」

 彼女の先祖である渡辺綱わたなべのつな頼光四天王らいこうしてんのう筆頭ひっとうであり、一番の家臣かしんだったと言われている。

 しかし、当然ながら実際を見たことのない悠月ゆづきからすれば、そんな昔話はいい迷惑でしかない。

 悠月ゆづきがあからさまにため息を零すと、それを見た波留はるはまた笑った。

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