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鬼哭廻眼〜その眼は一度死に蘇る〜  作者: 松本ハヤテ
一章 今は昔、頼光四天王というものありけり
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第四話 最恐の怪異

「まずは皆忙しいのにごめん。急な呼びかけに集まってくれてありがとう」

「前置きはいいから早く要件を言って」

 明日香あすかが頬杖をついてぶっきらぼうに言う。

 悠月ゆづきは、ペースを崩されつつも、「分かった」と短く答えると話を再開する。

「単刀直入に話す。封印されていた酒吞童子しゅてんどうじが復活した……らしい」

 断定はしきれない。だから悠月ゆづきは語尾をにごすようにしたが、それでも波留はる以外の三人には明らかな動揺どうようが走った。

 酒吞童子しゅてんどうじは、鞍馬天狗くらまてんぐ九尾きゅうびきつねに並ぶ日本三大怪異の一体として数えられ、瞳術使どうじゅつつかいでなくてもその名を知る者は多い。そして、平安時代に一条いちじょう天皇の勅命ちょくめいを受けた源頼光みなもとのよりみつ家臣かしんだったここにいる四人の先祖と、友人であった藤原保昌ふじわらのやすまさの少数精鋭で一度討伐に向かっている。

「……らしいってどういうことだよ」

「……うん、僕も透哉とうやと同じところに引っ掛かった。悠月ゆづき君、それはどこ情報なの?」

 日々死線に身を置き、その子孫であるからこそ、酒吞童子しゅてんどうじの恐ろしさを理解しているのだろう。二人の声音には冗談であって欲しいという否定の思いを感じる。

「情報源は分からない。昨日俺が〝裏〟にいた時、正体不明の何者かがそう言ってきた。だから今日、封印先の首塚大明神くびつかだいみょうじんに行ってみようと思う。それで皆には、」

「何を言いだすかと思って聞いてれば、〝表〟で最恐心霊スポットなんて言われてる場所に行って昔話ごっこでもやろうっての? 馬鹿馬鹿しい」

 吐き捨てるように明日香あすかが言うと、そのまま立ち上がった。

 悠月ゆづきはなんとか引き留めようと、次に用意していた言葉を矢継ぎ早に口にする。

「聞いてくれ明日香あすか。何も酒吞童子しゅてんどうじと戦おうってわけじゃない。封印の状態を確認して、術協じゅつきょうしかるべき報告をするだけだ」

「だったら情報を入手した源家みなもとけで対処すればいいでしょ。他の家を巻き込まないで。それとも私が何かおかしなこと言ってる? 今まで通り()()()()()()()()()を言ったつもりなんだけど」

 そう、明日香あすかは何も間違った事を言っていない。

 けれど間違っていないからこそ、悠月ゆづきは歯がゆかった。視界に映る波留はるの表情はやはりかげりを含んでいて、胸にチクリとした痛みが走る。

酒吞童子しゅてんどうじがどれだけ凶悪なのか明日香あすかだって想像がつくだろ。あいつは十五個の術眼じゅつがんを持つ特異体質だと言われてる。実際に戦った事のない俺たちでもそれがどれだけ———」

「そんなの分かってるわよ! 悠月ゆづきが念のために私たちへ声をかけてきたのも理解してる。でもね、もし本当に酒吞童子しゅてんどうじと戦うことになったとして、私たちで勝てると思ってるの?」

 酒吞童子しゅてんどうじは血と暴虐ぼうぎゃく、そして女以上に酒を好む鬼の怪異だった。藤原保昌ふじわらのやすまさに猛毒酒を用意させた源頼光みなもとのよりみつ酒吞童子しゅてんどうじにそれを浴びせたことで弱体化を図り、やっとその首を斬り落として封印するに至ったのだと言われている。

「……分からない。でも親父たち当主が京都にいない今、俺たちが力を合わせれば間違いなく現状の最高戦力になると思ってる」

 これ以上は明日香あすかからすると御託ごたくになってしまうのかもしれない。だから……。

明日香あすかだけじゃない。皆頼む、力を貸してほしい」

 悠月ゆづきは教卓にぶつかるギリギリまで頭を下げた。これが思いつく最後の手段だった。

「ふん、源家みなもとけの次期当主が安々と私たちに頭を下げるんじゃないわよ。どのみち私はパス。あんたらとつるんでたら親もうるさいし、なおのことそんな大事は親に任せればいい。それじゃ」

 今度こそ明日香あすかが立ち去ろうと扉の方に向かう。

 けれど、それを引き留めようと波留はるが勢いよく立ち上がった。

「待って明日香あすか、私からも———」

「きゃっ!?」

 突如、教室に響いたのは明日香あすかの声だった。

「痛ってて……。ちょっと! 何よも……う……」

 目の前の()()にぶつかって尻餅しりもちをついた明日香あすかは、腹いせに文句の一つでも言ってやろうとしたのだろう。けれど言葉は失速し、他の全員も思わず息を呑んだ。

 明日香あすかは扉にすら手をかけていない。それなのにも関わらず、いつの間にか教室の内側に何者かが立っていた。それも全身黒装束に軍靴ぐんかのようなブーツをいた和洋折衷わようせっちゅう恰好かっこう。更にはフードを深々と被り、その内側からは能楽のうがくに使用される小面こおもてが不気味にのぞいている。

 人間であることは間違いない。しかしただよう異様さに尚も全員が呆気あっけに取られていると、そいつは右腕を振り上げた。その手には———墨で塗り潰したような黒刀こくとうが握られている。

 瞬間、悠月しゅんかん双眸そうぼうの【雷光眼らいこうがん】に藍色の光を宿すと、立て掛けていた竹刀袋しないぶくろつかんだ。

 まだ日の傾きも感じられない午後四時の教室という場違いな空間に雷光らいこうが走る。

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