表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼哭廻眼〜その眼は一度死に蘇る〜  作者: 松本ハヤテ
一章 今は昔、頼光四天王というものありけり
PR
4/52

第三話 一千年の系譜

 放課後になると悠月ゆづき波留はるは旧校舎に向かった。

 二人とも肩に制定バッグをかけ、手には竹刀袋を持っている。一般生徒から見ればただの剣道男子と女子の姿にしか見えないが、竹刀袋しないぶくろの中にはいつ何があってもいい様に本物の刀が入っている。

 空き教室に入ると悠月ゆづきほこりっぽい空気を入れ替えるために窓を開けた。外からは吹奏楽の個人練であろう管楽器かんがっき軽快けいかいな音が聞こえてくる。

「それで、透哉とうや逞真たくまは来てくれるって?」

 最前列の真ん中の席に座る波留はるに尋ねながら悠月ゆづきは教壇に立つ。

 教師と生徒の構図だ。打ち合わせ通り、波留はるも呼ばれてこの空き教室にやって来たことにしている。

「あの二人は来てくれるって。明日香あすかの方は?」

「それが一回は返信が来たんだけど、その後は既読無視でさ……」

「なんて送ったのさ?」

 一度目の連絡の後、『なに?』とだけ明日香あすかから返信が来た。それに対して悠月ゆづきは、「文面ではとても残せないから旧校舎三階奥の空き教室に来て欲しい」と伝えると既読無視されたのだ。

 悠月ゆづきがスマートフォンの画面を見せると、途端に波留はるが笑い出した。こらえようとして、それでも苦しそうにお腹を抱えている。

「な、なんだよ、なんか可笑おかしいか?」

「うーうん、私の思った通りでさ。これなら来るよ、明日香あすかは」

 これだけで来ることが分かるのか、という疑問もさることながら、予想通りという言葉に少し引っ掛かりを覚える。しかし尋ねようにも波留はるは未だに涙目でヒーヒー言っている。

 すると、悠月ゆづきから見て奥の扉がきしむ音を立てる間もなく、凄い勢いで開いた。

「直接話があるってなによ悠月ゆづき。友達待たせてるから早くしてよね。……ま、まぁ、内容次第では先に帰ってもらうようにするけど…………」

 腕組みに揺れる活気あるツインテール。身長は百五十センチなかばくらいで、平均的な女子の体型と言えるが、肌は少し心配になるくらいに色白だ。

 後半は早口()つ、尻すぼみであまり聞こえなかったが、一先ず明日香あすかが来てくれたことに悠月ゆづきは胸をでおろす。

「お、来たね明日香あすか。とりあえず座りなよ」

 波留はるが言葉と共に半身を取って後ろを向くと、軽く片手をあげた。

「なっ! なんであんたがここにいるのよ渡辺わたなべ波留はる!」

「なんでって私も呼ばれたからだよ。ていうかそのフルネーム呼びはどうにかならない?」

「はぁ!?」

 明日香あすかの大声が教室に響くと、射殺いころすような目つきが悠月ゆづきに向いた。

「え?」

 急に向けられたとんでもないプレッシャーに悠月ゆづきは一歩後退ってしまう。

「うるさいな。突っ立ってないでさっさと入れよ卜部うらべ

 声が聞こえたのは教室の外からだ。

「げっ、透哉とうや! それに逞真たくままで! ていうか可愛くないから卜部うらべって呼ぶな!」

 明日香あすかが振り返って身を引くようにすると、二人の男子生徒が教室に入ってくる。

 前を歩くのは首に水色のヘッドホンをかけた碓井うすい透哉とうやだ。小柄な体型で、少し癖のある垂れた前髪から覗く狼の様な目は、近寄りがたい雰囲気を放っているが決して悪い奴でない。それに、これから大きくなる予定だと言わんばかりの制服のサイズ丈に悠月ゆづきは共感が持てる。

 続くのは透哉とうやに相反して大柄な体型の坂田さかた逞真たくまだ。身長は百八十センチを超え、昔からとにかく大きくて目立っていた。見た目は柔道部もしくは相撲部員といったところだが、決して強面という訳でなく、むしろその逆の幼い顔つきに少し気弱な性格をしている。

 三人とも悠月ゆづき波留はると同じく、いわゆる名家と呼ばれる家の出自であり、高等部の一年生だ。

透哉とうや君も逞真たくま君も久しぶり。二人ともしばらく会わないうちにだいぶ大きくなったんじゃない?」

「別に。そんなに変わってないと思うけど。ていうか前っていつの事だよ」

「ぼ、僕は縦じゃなくて横にだけどね。最近、母ちゃんと姉ちゃんが痩せろってうるさいんだ」

 どういう連絡内容で波留はるが二人を呼び出したかは分からないが、呼び集めたメンバーはこれで揃った。本当にとりあえずだが……。

「ちょっと! 私の存在を無視するな!」

 顔を真っ赤にした明日香あすかが教室中に響く声で怒鳴った。

「しつこいな。声が無駄にでかいって言ってんだろ、卜部うらべ

 透哉とうやの吐き捨てるような言い方に加え、またも苗字で呼ばれた事がしゃくを大いに刺激したのだろう。更に明日香あすかの顔がけわしくなっていく。

「あんたは逆にちっさ過ぎんのよ! あ、分かった……碓井うすいって苗字、本当は影が薄いって意味なんでしょ。だから声がこっちまで届かないんだよね、このガリ勉影薄チビ!」

「あ? 誰がガリ勉影薄チビだ! だいたい苗字なんて親も決めれないんだから関係ないだろ! うらむならお前の先祖の季武すえたけうらめ! あと身長はお前も俺と変わらない!」

「男のあんたが女子の私と変わらないんだから、それはチビでしょ! チービ!」

 もはや一触即発の雰囲気の二人に、逞真たくまが慌てて仲裁ちゅうさいに入る。

「ふ、二人とも落ち着いてよ。まだ顔を合わせただけじゃないか」

「うるさい黙ってろデカブツ。先祖が金太郎のモデルだからって調子に乗るな!」

「うるさい黙っててクソデブ。先祖が金太郎のモデルだからって調子に乗んな!」

 逞真たくまは瞬殺された。ほぼ同時の二段攻撃にひざを折り、戦意喪失すると、「デカブツ、クソデブ」と何度も一人で唱え始める。

 これが寸劇すんげきではないのだから、現実とは恐ろしい限りだ。

 なかがたい空気感に悠月ゆづきは顔を盛大に引きつらせて波留はるの方を見た。

 しかし、何故か波留はるは和やかな笑みを浮かべている。

「一体どういうことよ悠月ゆづき! こいつらがいるなんて私、聞いてないんだけど!」

「ほんとにそれ。波留はるが言ってた面白いものが見れるって、まさかこの事じゃないよね?」

波留はるちゃんから皆が来るって連絡あったから来てみたけど、こんな目に遭うんだったらもう帰ろうかな……」

 なるほど。透哉とうやは面白いものが見れると言われ、逞真たくまは仲間外れを嫌って来たというわけか。つまり波留はるは上手くやってくれた……のか? いや、全然上手くない気がする。

「まぁまぁ、皆ちょっと落ち着いてよ。私も悠月ゆづきに頼まれただけであって詳細は聞いてないんだって。だからさ、とりあえず席に座って話だけでも聞いてみようよ」

 正面に向き直った波留はるから、「ごめん」もしくは、「後はお願い」といった視線を受け取ると、悠月ゆづきは肺の中の空気が全てなくなるほど長いため息をついた。

 波留はるの呼びかけに透哉とうや逞真たくまは渋々と言った様子で中央の席に着く。しかし、明日香あすかは腕組みをしたまま動かないでいる。

「ほら、明日香あすかもこっち来て座りなよ」

 波留はるが自分の隣の席を引いて促すが、明日香あすかはそれを無視して一番後ろの席に座った。

「話を聞くだけだからね」

 はっきり言ってまともに話ができる空気感ではないと思うが、悠月ゆづきは腹をくくることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ