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鬼哭廻眼〜その眼は一度死に蘇る〜  作者: 松本ハヤテ
一章 今は昔、頼光四天王というものありけり
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第二話 女子高生は忙しい

 昼休みの終わりを告げるチャイムは五限目の予鈴の役割を担っている。すなわち自席に着いて教科書やらを用意するための時間であるが、卜部うらべ明日香あすかが在籍する高等部一年二組の教室は未だに喧騒けんそう状態にあった。

 しかしそれは仕方のない事。何故なら青春とは常に大忙しなのだ。

 制服の閉じた赤色のリボンは改造して出来るだけ開き、スカートの丈も出来るだけ短くする。

 そう、〝出来るだけ〟というのがミソだ。思い切りだとかえってダサい。

 そんな女子集団の中、明日香あすかはスマートフォンに届いた通知に何気なく視線を落とすと、その内容に目を見開いた。思わず自身のトレードマークであるツインテールが大きく揺れる。

 一瞬で鼓動が跳ね上がったのを自覚すると、明日香あすかはもう一度画面を凝視する。

 しかし、周りの友人たちは急に会話から離脱した明日香あすかの様子に違和感を覚えたのだろう。一人が明日香あすかのスマートフォンをひょいと奪い取った。

「あ、ちょっ!」

 慌てて取り返そうとしたが、恋愛センサーに反応した女子の動きは早い。

「なになに……『今日の放課後時間あるか? 直接会って話したいことがある』だって。きゃあぁぁぁ!  明日香あすか、何も私たちに隠すことないじゃない!」

 黄色い声はもはや狼煙のろしだ。元々四人だったところが、たった一人の合図によってクラスの女子の半分以上が集まる群れとなった。

「なになにどうしたの?」「明日香あすかが男子に呼び出された!」「誰に誰に?」「……源悠月みなもとゆづきだって。誰か知ってる?」「知ってる! この前隣のクラスの子がカッコイイって言ってた! でも確か二年生だよね?」「あー、あの人か。でも彼女いるって聞いたけど」

「はぁ?」

 注目を集め、ちやほやされているようで悪い気はしなかったが、最後の言葉に思わず素の声が漏れた。しかし運が良いのか悪いのか、誰の耳にも届いていない様子で話が進む。

「え、マジ。それ最悪じゃん」「で、どこのどいつよその女は?」「あの人でしょ、二年生のスタイル良くて髪もこれくらい長い人」「あ、一緒にいるとこ見たことあるかも」「男子たちがやけに騒いでたあの先輩か」「確かに美人だもんね」「そう言われればお似合いかも」

 話が徐々にずれている。二股疑惑の悠月ゆづきがヤバイという話ではなかったのか。なにより、自分があの女に負けたような言い方だけは絶対にやめて欲しい。

「あの二人は別に付き合ってない」

 友人からスマートフォンを奪い返すと同時、今度は集まった女子全員にはっきりと聞こえるように明日香あすかは言った。

「え、そうなの? ていうか何で明日香あすかがそんなこと知ってるのさ?」

 友人の純粋な疑問に明日香あすかきょを突かれたようにあせりを覚えた。そう言われると二人の関係性を自分が勝手に言い切るのはおかしいし、なんだか必死っぽくてキモくないだろうか。

「ほ、ほら私って中等部からのエスカレーターじゃん……先輩だけど二人もそうだったから良く知ってるというか何と言うか……」

 多分、目はだいぶ泳いでいたと思うが、誰も怪しんでいる様子はない。むしろ友人たちの目が好奇心という輝きを帯びているようで怖い。

「それで、そのみなもと先輩とはどうなのさ? もう二人で遊んだの?」

 二人で遊んだことはある。記憶の限りでは小学生低学年の時だけど。

「何言ってんのさ。呼び出されるってことは、もうそういうことなんだよね、明日香あすか!」

 やはりそう考えるのが自然だろうか。最後に話したのは二ヶ月前で、偶然〝裏〟で会った時に、中学卒業おめでとう、と言われたからくらいだ。

 しかし、男というのは突然で、そして時に強引な生き物である事を明日香あすかは高校一年生にして既に知っている。

「二人は何きっかけで知り合ったの?」

「ま、まぁ、悠月ゆづきとは結構古い付き合いなんだ。それこそ幼馴染って呼べるくらいには」

 ふふん、と自慢のツインテールを揺らして見せる。これは言い切っていい事実だ。

 今度は他クラスにまで届きそうな黄色い狼煙のろしが上がる。しかし、それをかき消すように五限目開始のチャイムが鳴った。先生がほぼ同時に教室に入って来ると、自席へ戻ることをうながされて授業が始まっていく。

 明日香あすかは深呼吸をすると、もう一度悠月(ゆづき)からのメッセージを見た。

『今日の放課後時間あるか? 直接会って話したいことがある』

 嘘ではない。見間違いでもない。しかし、決して明日香あすかの方が悠月ゆづきを好きな訳ではないのだ。これは重要な事実。でも悠月ゆづきがどうしてもと言うならば、考えてあげなくもない。

 明日香あすかはインカメラで今日の前髪とツインテールの具合を確認すると、残りの授業はそっちのけで放課後のシミュレーションを脳内で何度も繰り返した。

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