表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
43/52

第三話 京都御所決戦②

「メイちゃん……」

 明日香あすかの声。困惑している事が良く分かる、うかがうような声音だ。

「……皆様、私に力を貸してくれませんか?」

 悠月ゆづきの愛刀の柄を握り、メイは震える声で言った。散々かき乱した挙句、素顔をさらして泣き寝入りしたのだ。本当に自分は迷惑しかかけていない。だから、少し怖かった。

「何言ってんのよ」

「当たり前だろ」

「そ、それよりもう動いて大丈夫なの?」

 そんな恐れは不要だと言わんばかりに明日香あすか透哉とうや逞真たくまの三人が答えてくれる。

「はい、私に治してもらいましたから」

 メイは微苦笑交じりに答えると、刀を引き抜いた。

「リードは私に任せてください」

「分かった。私らは一回情けないやられ方してるからね。前衛は任せるわ」

 その言葉にメイは安堵の表情を見せる。

 しかし、メイにとってここは悠月が右眼を失い、深手を負った場所だ。だからなのか、こうして酒吞童子しゅてんどうじと対峙すると移植した左眼がうずく。

 誰にも渡すわけにはいかなかった悠月ゆづきの【雷光眼らいこうがん】。片眼だけなら瞳力どうりょくは単純に半分だが、悠月ゆづきと同じ威力の一撃を出そうとした場合、その出力差は大きく異なる。

「メイちゃん、その紫黒しこく色の眼は何回まで連続して使えるの?」

 まぶたの止血を終えた波留が合流し、メイに問いかけた。

波留はる様……」

 ボロボロな波留はるの姿を前に、瞬間メイは絶句する。しかし、その強い意志からくる問いかけの意図をくみ取ると、それ以上余計なことは言わずに続けた。

「私の場合だと連続して使えるのは五回までで、それ以降の十分間は瞳力どうりょく不足により一度も使えなくなります。酒吞童子しゅてんどうじも同様……と言いたい所ですが、あっちは七回まで連続して使います」

「本来の持ち主だからってところか……。分かった、そこが限界値ボーダーだね」

 それがどれだけ難しい事かを理解しているはずなのに、波留はるの表情に曇りがない。むしろ全員を鼓舞するために更に声を上げた。

悠月ゆづきも治療が終わり次第、合流するから全員で消耗させるよ」

 メイ、明日香あすか逞真たくま透哉とうやのそれぞれが呼応する。

「さぁ、そろそろ幕引きにしようか。英雄の子孫どもよ」

 酒吞童子しゅてんどうじの邪悪な笑みに相対すると、メイは刀を構え、全身に雷をまとう。

「行きます。———【瞬雷しゅんらい】」

 悠月ゆづきは当たり前の様に長時間使うが、本当ならば瞳力どうりょく消費の激しい瞳術どうじゅつだ。それは片眼だけのメイにとってはいちじるしいものになる。でも、出し惜しみはしない。

 最初から全力だ。

 酒吞童子しゅてんどうじの【活眼かつがん】が光を放つと、その瞳は確かにメイの神速の動きを追ってくる。

 刃を交えるが、メイの膂力りょりょくでは当然押し切ることは出来ずに弾かれてしまう。しかし、そこに波留はる逞真たくま透哉とうやが続けて攻撃を繰り出す。

 それでも酒吞童子しゅてんどうじは一切動じる様子なく、次々に瞳術どうじゅつを行使する。

 波留はるの刀に対しては【鬼舞眼おにまいがん】で膂力りょりょくを強化し、大刀でぎ払う。最も高威力の攻撃を持つ逞真たくまに対しては【堅無眼けんむがん】で盾を生成し、斧の攻撃を弾き返す。

 更に酒吞童子しゅてんどうじは左腕を自身の口元に運び、牙で切りつけると、流れ出た黒い体液を【圧束眼あっそくがん】によって手中へ収束する。

 放たれる高圧縮された黒い体液のやじり

 しかし、それとほぼ同時に透哉が氷刀を叩き込むと、黒い体液は凝固して砕け散っていく。

 四人の攻撃により、やっと生まれる一瞬の隙。

 明日香あすか翡翠ひすい色の風弾を打ち込むために右手の指先を拳銃の形にして構えた。

 それでも酒吞童子しゅてんどうじの体内に宿る術眼じゅつがんたちは激しくうごめく。

 明日香あすかの指先の直線上、酒吞童子しゅてんどうじの左頬辺りにふじ色の瞳が出現し、怪しい光を放った。【幻魔眼げんまがん】———精神干渉を行う瞳術どうじゅつだ。

「【夢幻むげん誘藤ゆうとう】」

「その眼を直視してはいけません!」

 メイが叫ぶが早いか、明日香あすかは自身の太ももを左手にまとった鋭利な風で切りつけた。

「———っ!」

 二度も同じてつは踏まない、と明日香あすかの眼差しがそう告げている。

「私も少しは体を張らないとね」

 明日香あすかが精神干渉を自傷の痛みで上書いた。苦痛に顔をゆがめながらも右手の指先に暴発寸前まで溜め込んだ風弾を酒吞童子しゅてんどうじ紫黒しこく色の隻眼せきがんに向けて放つ。

 一切、無駄のない連携。普通の敵ならばこれで仕留められる。

 だが酒吞童子しゅてんどうじには———神瞳術しんどうじゅつがある。

 紫黒しこく色の隻眼せきがんが発光する。明日香あすかの攻撃の瞬間を目視していた酒吞童子しゅてんどうじは止まった時間の中で、最小限の動きで首を倒す。

 時間が動き出した。

 風弾が顔の真横を過ぎ去り、回避したという事象が確定する。そして、酒吞童子しゅてんどうじは攻撃に転じるため、またも紫黒しこく色の瞳を発光させる。

 時間が止まる。

 しかし、今度はメイも紫黒しこく色の眼の瞳術どうじゅつを使い、時間停止した空間に干渉する。

 一体と一人だけが動ける空間。

 酒吞童子しゅてんどうじが攻撃対象に選んだのは逞真たくまだった。そこに割り込むようにメイが刀を振るうと、刃が交わる直前に、時間が進み出す。

 目の当たりにするのが初めての逞真たくまたちにとっては、時間が切り取られたように感じただろう。しかし、悠月ゆづきと共に綱渡りの戦いをしてきた波留はるだけはその動きに反応する。

 押し潰されそうになるメイに加勢し、酒吞童子しゅてんどうじの大刀を共に弾き返すと、距離を取る。

透哉とうや!」

 叫んだのは明日香あすかだ。しかも得意とする遠距離を放棄して、前に走って来ている。

 透哉とうやもそれだけで意図を理解すると、氷刀を生成して明日香あすかの進路めがけて投げた。

 その間にも逞真たくまが斧を振りかざし、【堅無眼けんむがん】の盾を釘付けにする。

波留はる! いくわよ!」

 地面に突き刺さった氷刀を明日香あすかが引き抜くと、刃に翡翠ひすい色の風をまとわせていだ。

「【殺陣たて鎌鼬かまいたち】!」

「【炎喰斬えんくうざん】!」

 波留はるがタイミングを合わせて炎の斬撃を飛ばすと、それは翡翠ひすい色の斬撃と重なり合い、膨張ぼうちょうした。

 瞬間、酒吞童子しゅてんどうじが回避のために紫黒しこく色の眼の瞳術どうじゅつを使う。だが、それよりも前にメイが時間停止を行い、遅れて酒吞童子しゅてんどうじが干渉する形になる。

 繰り返してきた時間の中で紫黒しこく色の眼の特性については把握している。今この時間停止した空間の中において、分岐点の選択をする主導権はメイにある。

 メイはその場に酒吞童子しゅてんどうじを留めるため、接近し刀を振るう選択を取った。

 瞬間、酒吞童子しゅてんどうじの表情が変わる。だがそれは決して驚きや焦りなどではない。ただ目の前のたわむれに興味を持つ、そんな口元のゆがみだ。

 刃が交わる直前に再び時間が動き出す。メイは大刀の攻撃をらすと同時に【雷光眼らいこうがん】の力で即座に離脱する。

 直後、波留はる明日香あすかの混ざり合った斬撃が酒吞童子しゅてんどうじに直撃した。

 確かな手ごたえ。顔から胴体にかけて煙が上がり、大きな焼けた刀傷が酒吞童子しゅてんどうじに付く。

 しかしそんな状況も束の間。メイの異常を察した波留はるが口を開く。

「メイちゃん大丈夫?」

 まだ戦いに加わってから少しか経っていない。それなのにも関わらず、メイの息は上がっていた。これまでの疲労の蓄積もあるが、両眼を使い分けるのに体力が大きく削られている。

「大丈夫……です……」

 なんとか言い切るとメイは刀を構え直した。

「悪くはないが、これではまだ足りんな」

 酒吞童子しゅてんどうじが大刀を肩に担ぎ、メイに向かって走り出す。

 しかも、やっとの思いで付けた体の傷はもう修復が始まっている。

「くっ……!」

 複数の術眼じゅつがんを宿している酒吞童子しゅてんどうじは言わば莫大な瞳力どうりょくの塊だ。再生力もその速度も並大抵ではない。

 だから千年前の戦いでも、源頼光みなもとのよりみつは一撃で首を落とすしかなかったと言われている。

波留はる様、やはり私たちでは決め手にかけるかもしれません……」

 戦いが長引けば持久力のある酒吞童子しゅてんどうじが有利になっていくばかりだ。

 波留はるもそのことを理解してうなずきを見せる。

「分かった、悠月ゆづきのだね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ