第九話 碓井家
悠月が戦っている高野川の反対、賀茂川の堤防では手傷を負っている碓井家の全員から、長男である将嵩に視線が集まっていた。
少しの沈黙が流れ、そのまま重苦しい空気が漂うかと思いきや、口を開いたのは透哉だった。
「将兄……」
兄たちの前ではまだ自信が持てなくて、少し震えた声で続ける。
「不出来な弟の言葉なんて信じてもらえないかもしれないけど、悠月は信用できる奴だよ」
言い切ったものの、透哉は最後まで兄たちの方を見ることが出来なかった。
そして、言葉も返ってこない。流れる沈黙に透哉は拳を強く握った。
「透哉」
「顔を上げてよく見てみなさいよ」
逞真と明日香に言われるがまま透哉は兄たちの方を見た。
「貸し借りはなしだと源家の彼には伝えといてくれ。それと、」
将嵩が躊躇う様子なく言うと、羽織を脱いで透哉の方へと投げて来る。
「碓井家の人間として家紋くらい背負え」
将嵩だけではない。二人の兄姉や碓井家の皆から向けられる視線は蔑みでも侮りでもなく、ただ自分を案じてくれるものだった。
「……ごめん、将兄……皆。ありがとう」
気付くと透哉はそんな言葉を零していた。自分が気づけなかっただけで、ずっと前から兄たちの視線は同じだったのかもしれない。
「自信を持て、透哉」
「うん……」
「死ぬなよ」
「うん、皆がいるから大丈夫。だからここは任せてよ」
そう言うと、透哉は自身の羽織を脱いで将嵩から託された家紋の入った羽織を着た。
将嵩たちが動き出すのと同時、虎熊童子に纏わり付く氷が熱線により解け出していく。




