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鬼哭廻眼〜その眼は一度死に蘇る〜  作者: 松本ハヤテ
二章 君の眼死にたまふことなかれ
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第十二話 正体

 少しの沈黙が流れる。能面のうめんの女はやはりそこにたたずむだけで何も話そうとはしない。

「もう話やすくなったはずでしょ?」

 波留はるの言葉に一瞬だけ能面のうめんの女がたじろいだように見えた。

 そっか、と波留はるが呟くと、更に、「そうだよね」と、まるで能面のうめんの女を肯定するように続ける。

「あなたが話したくないなら私が話す」

 その言葉に悠月ゆづきを含む全員がどこか呆気あっけに取られたように波留はるへ視線を送る。

「まず、あなたが使っているその眼について。片方は酒吞童子しゅてんどうじが使っていた紫黒しこく色の術眼じゅつがんと同じで間違いない。そしてなにより、その瞳術どうじゅつ神域しんいきに達している」

「……ちょっと待ってよ。神域しんいきに達しているって、つまりは神瞳術しんどうじゅつってことでしょ? なでそんな眼をこいつが持ってるのよ」

 明日香あすかが動揺を隠し切れない声で能面のうめんの女を指さしながら言った。

「そう。禁級きんきゅうに認定された術眼じゅつがんは破壊も不可とされるために封印される、一切の情報を秘匿ひとくしてね。だからその能力や数について、知ってるのは術協じゅつきょうの中でもほんの数人に限られている」

「だったら、やっぱりそんなの入手できっこないでしょ?」

 明日香あすかの言い様はもっともだ。けれど、

「今はそうでも、先ではどうか分からない」

 波留はるがはっきりと言い切った。

 に落ちない様子の明日香あすかに対して、悠月ゆづきはその意味を理解すると思わず息をむ。

悠月ゆづきも能力についてならもう分かってるんでしょ?」

「ああ……時間に関する瞳術どうじゅつだ……」

 瞳術どうじゅつついては確信していた。けれど、言いよどんでしまったのは波留はるの話そうとしている事があまりにも突拍子もないと思ったからだ。

「そこから考えられる事として、まずあなたはこの時代の人間じゃない」

 その言葉に悠月ゆづき以外の全員が息をむ。悠月ゆづき自身は何故そこまで波留はるが言い切れるのか理解が追い付かなくて、焦りに似た動揺を覚えた。

「待ってくれ波留はる、流石にそれは話しが飛躍し過ぎてる……!」

「そうだね。でも、神瞳術しんどうじゅつならそこまで可能にしてしまうかもしれない。実際、この子は酒吞童子しゅてんどうじの封印の事も、今日、百鬼夜行ひゃっきやこうが行われる事も悠月ゆづきに教えてくれたんだから」

「……っ!」

 悠月ゆづきは言葉を詰まらせた。実際そうだったのだ。二日前の夜に波留はるは〝裏〟で悠月ゆづきを見かけたと言っていた。けれど本当は二人の任務地はかけ離れていて、遭遇そうぐうのしようがなかった。

 つまり、波留はるが見かけた【雷光眼らいこうがん】の光の正体は能面のうめんの女だったのだ。そして波留はるは昨夜、首塚大明神くびつかだいみょうじんに現れた能面のうめんの女を見て、そのことに気が付いた。実際に方角、時刻を照らし合わせると、二日前の夜に能面のうめんの女が向かった先は任務にあたっている悠月ゆづきもとで間違いなかった。

 だから波留はるは昨日の時点で、能面のうめんの女が今回の事態の主犯ではないと確信していた。

「でもここまでなら、偶然って言葉でまだ片づけられたかもしれない。封印の事は首塚大明神くびつかだいみょうじんへ見に行けばいいだけだし、百鬼夜行ひゃっきやこうの事だって酒吞童子しゅてんどうじが復活したなら、そんなことが起こり得るかもしれないって予測の一つにはなる」

 そこまで言うと波留はるが視線をそむけるように少しうつむいた。

「……問題はもう一つの眼についてなんだよ」

 いつもの毅然きぜんとした態度が一変、そこからは波留はる自身もどこか戸惑っているように見えた。

悠月ゆづき、昨日私がこの子の【雷光眼らいこうがん】の光に見覚えがあるって言ったの覚えてる?」

「……覚えてるよ。けどその話はこいつが封印を解いたかどうかであって、井上さんたちが解いたことが分かった今はもう関係ない話だろ?」

「そうなんだけどね。この子の事に関して、私もあり得ないと思ってたから悠月ゆづきに言わなかったことが一つある」

 この子、と波留はるが呼ぶことに今更ながら違和感を覚える。それに思い返せば波留はるの様子が少し変だったのは昨日、首塚大明神くびつかだいみょうじんで困惑の表情を見せた時からかもしれない。

「なんだよ、それ……」

 言葉にならない焦燥しょうそうが込み上げて来る。気付けば嫌な汗をいている自分がいた。

「多分、皆も言われたら納得するんじゃないかな。昨日、戦いの中で見かけたって言ってたし」

「だからなんなんだよ、それは……!」

「この子の【雷光眼らいこうがん】の光が悠月ゆづきのものと《《全く同じ》》なんだよ」

 は、と声にならない声が悠月ゆづきから漏れた。何故か先ほどから微動だにしない能面のうめんの女の姿を見ると、悠月ゆづきは否定するためにゆっくりと首を振る。

「何言ってるんだよ波留はる……【雷光眼らいこうがん】なんだから同じ藍色の光なのは当たり前だろ……」

「違うよ。悠月ゆづきだっておじい様やおじ様とで、光りがそれぞれ少し異なるのは分かるでしょ」

 言われて、もうこれ以上、悠月ゆづきは否定することが出来なくなった。

「全く同じ眼が三つも存在するなんてありえないんだよ。一人の人間の〝個〟が唯一であるようにね。そして、悠月ゆづきの【雷光眼らいこうがん】を持ち出す……いや、たくされる人間は限られてる」

 能面のうめんの女も突っ立ったままでいる。いや、立ち尽くしていると言った方が正しいのだろう。

「眼の移植までして、刀の扱いもあんなに上手くなるほど修練も積んで……」

 波留はるが優しい声と共に能面のうめんの女に歩みを寄せる。そしてゆっくりとその能面のうめんに手を伸ばした。

「もういいんだよ」

 能面のうめんの女は最後の抵抗と言わんばかりに力なく波留はるの手を振りはたく。しかし拒絶と言うには余りにも弱々しくて、次の瞬間、波留はる能面のうめんの女を思いきり抱き締めた。

「今までずっと頑張ってきたんだよね———」

 そして顔がよく見えるように波留はるが少しだけ離れると、今度こそ、その能面を取った。

 おおよそ悠月ゆづきの知っている顔とは少しばかり違うことに驚きはしたが、いくつか歳を重ねればきっと、こんなふうに大人びた容姿になるのだろう。

芽衣めいちゃん」

 名前を呼ばれた少女の瞳からは静かな涙がこぼれ落ちた。

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