表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼哭廻眼〜その眼は一度死に蘇る〜  作者: 松本ハヤテ
二章 君の眼死にたまふことなかれ
PR
15/52

第三話 懺悔

 その瞬間、部屋の空気が一変した。

首塚大明神くびつかだいみょうじんが本当にヤバイ場所だってことはネットにも書いてある。あなたもそれを知ってたんですよね。ならどうして行ったんですか?」

「え、」

 男性が言葉にならない声を漏らした。いだいている感情は間違いなく恐怖だろう。

 波留はるはそんなことを一切気にする様子なく、振り返ってベッドのわきに迫ろうとする。表情に至ってはいつも通りだが、その眼差しには見えない危うさがあった。

 悠月ゆづきは止めに入ろうと椅子から腰を浮かしたが、少し出遅れてしまう。

 すると男性のすぐ横にいた芽衣めいが、かばうように両手を広げて波留はるの前に立ち塞がった。しかし、芽衣めいも恐怖のあまり足が震え、目までつむってしまっている。

 血の気の引いた男性に向かって、波留はるが迫りながらもう一度静かに口を開く。

「答えてください」

 男性は何度も口を開いては閉じ、ようやく言葉を絞りだした。

「……それは…………仲間内のノリで……」

 とうとう波留はる芽衣めいの目の前に立った。そのまま芽衣めいの頭一つ高い位置から男性を見おろす。

「どうして僕はこんな目にったんだって言いましたよね」

 波留はるの瞳は深紅しんくを越えた真紅しんくの怒りに染まっている。

「いいですか。あなたのお友達は間違いなく二人とも死んでいます。それも生易なまやさしい死なんかじゃなく、あなたが想像できないほどの恐怖と苦痛を味わって———」

波留はる! それ以上はやめろ。どう考えてもやり過ぎだ……」

 悠月ゆづき波留はるの腕を無理やりつかんで、視線をこちらに向けさせた。

「———!?」

 しかしその瞬間、悠月ゆづきは息が詰まるような感覚に襲われた。

 波留はるの眼は変わらず怒りに満ちている。けれど何故だろうか。その瞳の奥では彼女が泣いているように見えた。

 悠月ゆづきが動けないでいると、波留はるはやっと淡く笑んで、つかんだ腕をゆっくり引き剥がした。そしてもう一度、背を向けるとドアの前まで行き、立ち止まった。

「人間、たった一つの間違いや過ちで死ぬことだってあるんですよ。その無くした右腕は亡くなったご友人の命に対する戒めにしてください。それでは」

 ごめんなさい、と涙しながら男性が何度も言う。しかし、波留はるはその当てのない懺悔(ざんげ)を聞かず、病室を去った。

 黙ってその背中を見ていた悠月ゆづきだったが、「あ、」という芽衣めいの悲鳴にも近い声に意識を引き戻される。

 振り返ると、芽衣めいが転びそうになっている姿が映り、悠月ゆづきは慌てて抱き留めた。

「……すいません、腰が抜けてしまって」

「俺も止めるのが遅くなった。ごめん……」

 震える芽衣めいの手を引いて椅子に座らせると、今できる精一杯なのだろう笑みを向けられた。

「私の事は大丈夫ですから、波留はる様の所に行ってあげてください。……私も落ち着いたら談話室にいる明日香あすか様たちを呼んで行きますので」

「わるい……後で波留はるには謝らせるから」

「いえ……大丈夫です。波留はる様のお気持ちも……分からなくはないですから」

 うつむ芽衣めいの姿を見て悠月ゆづきは何も言えなくなった。けれどそれをさっしてか、芽衣めいが顔を上げて背中を押してくれる。

「は、早く行ってください。見失ってしまいますよ」

「ああ、分かった」

 悠月ゆづきは静かにうなずくと病室を出た。左右を見回すが波留はるは見当たらない。急いでナースステーションの方に向かうと、丁度エレベーターに乗り込む姿を見つけた。

 扉が閉まるのには間に合わなかったが、行先を示す矢印は上向きに点灯している。病院から出る訳でないのなら屋上に向かったのだろうか。

 悠月ゆづきはエレベーターのすぐ隣にある非常階段に目を向けると、一気に駆け上がった。すると、最上階に着いたのと同時にエレベーターが開いた。

「何やってんのさ」

 少し息が上がった悠月ゆづきを見て、波留はるあきれるように淡く笑った。その眼差しにはもう先ほど見たような危うさは感じられない。

「それはこっちの台詞せりふだろ。どうしたんだよさっきの。らしくもない……」

 軽口を叩くように言ってみたものの、波留はるからの言葉はない。それどころか、無言のまま屋上へと出て行く。悠月ゆづきは居場所を芽衣めいに連絡すると、黙って波留はるの後ろに続いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ