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鬼哭廻眼〜その眼は一度死に蘇る〜  作者: 松本ハヤテ
一章 今は昔、頼光四天王というものありけり
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第九話 封印の由緒

 石段を上り、本殿へ向かって行くのだが、その順路は途中からそびえる木々の合間をって進むようになり、足元が悪くなる。

「そういえば芽衣めいちゃんはさ、裁着袴たっつけばかま以外のはかまいたりしないの?」

 悠月ゆづきが地表に盛り上がった大木の根に足を取られそうになっていると、波留はるが言った。おそらく、久しぶりに会っても変わらない芽衣めいわらべ姿を見て改めて思ったのだろう。

「え、あ、はい……私は身長も低いのでスカートみたいなのは不格好になるかなと……」

 前を歩く悠月ゆづきには見えないが、全く予期していなかったのであろう問いかけに、芽衣めいが少し気恥ずかしそうに狼狽うろたえるのが容易に想像できた。

「でも学校ではスカートいてるでしょ?」

「……あれは仕方なくです。制服が指定されているので」

 それを聞いた波留はるが、身内でもないのに何故か悩まし気に嘆息たんそくをつき、「もったいないな」とつぶやく。すると、少しして何をひらめいたのか、「そうだ!」と大きな声を出した。

「私のお下がりで良ければあげるから着てみなよ」

 相変わらずと言ったところか。良く言えば天真爛漫てんしんらんまん、悪く言えば突拍子とっぴょうしがない。そんな波留はるの言葉に流石の芽衣めいも一瞬足を止めて驚きをあらわにした。

「さ、流石にいただくのはいけませんよ……」

「大丈夫、うちの弟どもは着ないから。それに、言っても芽衣めいちゃんだって年頃の女の子なんだから多少はお洒落に慣れないとさ。聞いてる感じだと私服でもスカートかなさそうだし」

 任務中でなくても心霊スポットでするような話ではないが、確かに悠月ゆづきも普段着でスカートをいている芽衣めいを見たことがないと思った。

「あとは悠月ゆづきのお守は大変でしょ? ストレスも溜まるだろうし、こんな辛気臭い任務でも、お洒落したら少しはやる気がでるかもしれないと思うんだ」

 うんうんと頷きながらたたみ掛ける波留はるに対して、悠月ゆづきは振り向かずに言ってやる。

波留はる、なんか言ったか?」

「べーつに」

 夜の神社がまとう独特の重苦しさをはらう様に波留はるがからからと笑う。

「ま、考えといてよ芽衣めいちゃん」

「はい……」

 悠月ゆづきが少しだけ振り返ると、伏し目がちにうなず芽衣めいの姿が映った。うれいを帯びたその表情は着物を着こなす自信がないからなのか、任務のことを気にしているからなのかは分からない。

 けれど芽衣めいせられている一番の任務が、こくであることを悠月ゆづきは理解している。

 瞳術使どうじゅつつかいは二人以上の行動が推奨されている。それは移植が利く術眼じゅつがんの性質にあり、一人が絶命にひんした際、もう一人が術眼じゅつがんを回集できるようにだ。

 そして芽衣めい瞳術どうじゅつは攻撃術ではなく回復術。前に出て戦闘をすることはまずない。つまり、芽衣めいはいざという時に悠月ゆづきの眼だけを家に持ち帰る決断をしなければならない。

 それは波留はるに仕える麟太郎りんたろうも同じ役目をしている。

「やっぱり異変は感じられませんね」

 本殿と言っても二畳ほどの大きさしかないそれを前にして麟太郎りんたろうが言った。

「ああ。でも本殿の裏側にある木の柵の内側にあるつか……〝裏〟じゃ確か井戸だったか。そこに酒吞童子しゅてんどうじの首が封印されてるはずだ」

 悠月ゆづきの言葉に波留はるが黙ってうなずく。

 すると、それとは別に芽衣めいが本殿とは違う方向を見て首をかしげた。

「あの、あれは何でしょうか?」

 芽衣めいの視線の先にあったのは一つの石碑せきひだった。

 悠月ゆづきは記されている内容を思い出して口を開く。

「あれには昔話が書いてあるだけだよ」

頼光四天王らいこうしてんのうってね」

 波留はるが冗談めかしてかぶせると、「ああー」と芽衣めいがと大きくうなずく。

「せっかくなので見てもいいですか?」

 悠月ゆづきうなずくと、『由緒ゆいしょ』と最初に刻まれた石碑せきひ芽衣めいはまじまじと見つめた。そこには酒吞童子しゅてんどうじ首塚大明神くびつかだいみょうじんに封印されるようになった経緯が書かれている。

 平安時代の当時、みやこを荒らす酒吞童子しゅてんどうじ茨木童子いばらきどうじといった凶悪な鬼たちがいたこと。その討伐を命じられた源頼光みなもとのよりみつは後に頼光四天王らいこうしてんのうと呼ばれる家来たちと、藤原保昌ふじわらのやすまさを連れた少数精鋭で根城ねじろに乗り込み、これを成功させたこと。しかし、完全にほうむり去ることは出来ず、止む無くこの場所に封印されたと最後に記されている。

「この藤原保昌ふじわらのやすまさって、今は東京におられる藤原家ふじわらけのことを言われているんですよね?」

「そうだよ。でもあそこの当主は腹の中で何考えているか分からない蛇みたいな人なんだ」

 波留はるが少しだけ嫌そうな表情を浮かべたのに対して、悠月ゆづきは驚きをみせた。

「会ったことあるのか?」

「お父さんの葬儀そうぎでね。どういうつもりだったかは知らないけど列席してくれたんだよ」

 他の名家めいかと争うこともなければ、味方をする訳でもないのが藤原家ふじわらけだ。普段は東京にいるため、姿を見る機会はないが、まさか波留はるの父親の葬儀そうぎに列席していたとは思わなかった。

 すると、悠月ゆづきたちが石碑せきひに関心を向ける中、麟太郎りんたろうだけが黙って本殿の方を見ている事に波留はるが気付いた。

「どうしたのりん?」

「……薄いですが奥の方から人の臭いがします」

 おもむろながらも確信を帯びる麟太郎りんたろうの言葉に全員の緊張が一気に高まる。

「奥って本殿の裏よね?」

「おそらくですが……。行ってみましょう」

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