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第五話「山田」

 山田と初めて会ったのは、中村の件から三日後だった。

 大阪市内の、建設会社の名義になっているビルの五階。スーツを着た男に案内されて、奥の部屋に通された。

 六十代。小柄。白髪を短く刈り込んでいる。

 山田は大島を見て、何も言わなかった。

 しばらく、ただ見ていた。

「座り」

 大島は座った。

「橋本から聞いとる」山田は言った。「頭が回る男が来た、と」

「過分な評価です」

「中村の件、どう思う」山田は言った。

「想定の範囲内です」大島は言った。「組織が大きくなれば、必ずどこかで漏れます。問題は漏れることではなく、漏れた時にどう動くかです」

「それで、工場を変えるか」

「すでに物件を押さえました」

 山田は少し目を細めた。

「竹内の件は俺が片付けた」山田は言った。「二度はない。あの組の若い衆に、釘を刺した。ただ」

「ただ」

「村上という刑事のことは、俺も気になっとる」山田は言った。「あの男は、諦めん」

「知っています」

「どう対処するつもりや」

「スピードで勝ちます」大島は言った。「村上が動くより先に、必要な資金を集めて撤退する」

 山田はしばらく大島を見た。

「撤退した後は」

「別の事業に移ります」

「何の事業や」

 大島は答えなかった。

 山田は追わなかった。

「ええやろ」山田は言った。「俺の顔を潰すな。それだけや」

「わかりました」


 山田との会合の帰り、橋本と二人で歩いた。

「山田の兄さん、あんたを気に入ったで」橋本は言った。

「そうですか」

「あの人がああいう言い方をする時は、気に入っとる時や」

「俺の顔を潰すな、という言葉ですか」

「そうや」橋本は言った。「どうでもいい人間には、そういう言い方をせん。関係ない、と言う」

 大島は少し考えた。

「気に入られても、俺の計画は変わりません」

「わかっとる」橋本は言った。「ただ、山田の兄さんのことは、頭に入れとけ。あの人は、自分が気に入った人間を手元に置きたがる」

「それは、困りますね」

「やろうな」橋本は言った。少し笑った。

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