表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

第四話「村上の影」

村上という刑事のことを、大島は三日で調べ上げた。

 橋本のネットワークと、大島自身のITスキルを組み合わせれば、個人の輪郭を掴むのは難しくなかった。

 村上誠二。四十六歳。和歌山県警の刑事。勤続二十二年。

 経歴に派手なものはなかった。大きな事件を解決したわけでも、出世が早いわけでもない。しかし一つだけ、特徴があった。

 摘発率が異常に高いらしい。

 諦めない。時間をかける。確信を持ってから動く。

 橋本が言っていた通りの男だった。

「厄介ですね」大島は橋本に言った。

「わかっとったやろ」橋本は言った。「だから山田の兄さんが、ペースを落とせと言うた」

「落としません」

「なんでや」

「村上が動くより、俺が先に終わらせれば問題ない」

 橋本は煙草を吸いながら、少し大島を見た。

「先に終わらせる、というのは」

「必要な資金が集まれば、この商売から手を引きます」

「いつや」

「わかりません。でも、止まるつもりはない」


 製造の二回目は、予定通り動いた。

 坂口の純度は、前回より上がっていた。

 流通は橋本のルートで大阪市内に流れた。

 売上は、大島の計算を少し上回った。

 順調だった。

 順調すぎた。

 大島はその感覚を、警戒した。


 警戒が当たったのは、三回目の製造の前日だった。

 田辺から電話があった。田辺が自分から電話をかけてくることは、ほとんどなかった。

「大島さん、農地を見に来てほしいんですが」

「何かありましたか」

「マオウが、一部やられています」


 農地に行くと、田辺が畑の中央に立っていた。

 大島は近づいた。

 見た。

 畑の三分の一ほどが、踏み荒らされていた。

 植えたばかりのマオウが、根こそぎ引き抜かれている区画があった。

「いつ気づきましたか」大島は言った。

「今朝です。昨日の夕方に来た時は、何もなかった」

「夜の間に」

「そうなります」

 大島はその区画を歩いた。

 引き抜き方に規則性があった。ランダムではない。意図的に、一定のエリアだけが抜かれていた。

嫌がらせだ。

 大島はそう判断した。

 村上ではないだろう。村上が動くなら、こんな回りくどいことはしない。

「橋本さんに連絡します」大島は田辺に言った。「あなたは今日、ここにいましたか」

「います」

「誰かが来ても、何も見ていないと言ってください」

「わかりました」田辺は言った。表情を変えなかった。


 橋本に報告すると、十分で折り返しがあった。

「竹内組や」橋本は言った。

「竹内組」

「うちの系列の下部組織や。若い衆が、大島はんのことを面白そうやと思って、嫌がらせをしてきた。縄張りに無断で入ってきた、ということで」

「山田さんに話を通していないんですか」

「通してへん。若い衆の独断や」橋本は言った。「山田の兄さんに話す。ただ」

「ただ」

「時間がかかるかもしれん。それまでの間、農地には人を置いた方がいい」

「わかりました。田辺に話します」

 大島は電話を切った。

 損害を計算した。

 マオウの三分の一が失われた。製造スケジュールが二週間遅れる。売上への影響、概算で四百万円。

 問題はそれだけではなかった。

 農地の場所を、竹内組が知っている。

 それは、作業全体が外部に漏れているということを意味していた。


 大島はその夜、橋本と会った。

 いつもの定食屋だった。

「情報が漏れています」大島は言った。座るなり言った。

「わかっとる」橋本は言った。

「どこからですか」

「調べとる」

「中村か田辺のどちらかが、竹内組と接触している可能性があります」

 橋本は少し大島を見た。

「結論が早いな」

「消去法です。農地の場所を知っているのは、俺、橋本さん、坂口、田辺、中村の五人だけです。橋本さんが漏らしたとは考えにくい。坂口は竹内組と接点がない。残りは二人です」

「田辺は違う」橋本は即座に言った。

「根拠は」

「俺が長い付き合いやから、わかる」橋本は言った。「あいつは裏切らん」

「感情的な判断では」

「そうかもしれん」橋本は言った。「でも、俺はそう思う」

 大島は少し間を置いた。

「中村ですね」

「まだわからん」

「でも、可能性が高い」

 橋本は黙っていた。


 翌日、橋本から連絡が来た。

「中村や」

 大島は答えなかった。

「竹内組から金を受け取って、農地の場所を教えた。昨日、本人が認めた」

「中村は今」

「うちで預かっとる」橋本は言った。「どうするかは、山田の兄さんが決める」

「製造への影響は」

「中村は製造工程を知らん。農地の場所だけや。ただ、工場の場所も話した可能性がある」

 大島は計算した。

「工場を変えます」大島は言った。

「そんな簡単に言うが、物件を探すのに時間が」

「すでに候補があります」大島は言った。「先月、念のために調べておきました」

 橋本は少し沈黙した。

「用意がええな、大島はんは」

「必要なことをしているだけです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ