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魔王と侍の封印生活 The Survivors  作者: 霜月立冬


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第九十七話 神秘真鍮の殻

「その前に、実際に見て貰おう」

(まゆ)の厄介な特性を見て貰おう」


 真っ暗闇の中に、少年と少女の声が響き渡る。その音は、十一対の耳の中に入った後、暗闇の中に吸い込まれて消えた。


 真っ暗闇の世界、通称「女神の寝所」。


 造物主が眠る場所に、十一名の男女が二列縦隊で立ち並んでいる。

 私、ウィルミア・デストランドと我が配下、無敵の魔王軍である。


 男女に分かれた縦列から、黒髪褐色肌の美少年と、金髪雪肌の美少女が、ズズイと前に出た。

 二人とも、前進しながら五メートルほど間隔を取った。その行為の意味は、二人の頭を見れば理解できた。

 二人の顔が()()()()()()()()している。しかも、()()()()()()()()()()になっている。


 少年の頭は、黒い鱗に塗れた大蛇となった。

 少女の頭は、黄金の鱗に塗れた角蜥蜴となった。


 二人とも、体は少年少女のままなので、実に奇怪である。しかし、その爬虫類然とした顔こそが、二人の本来の姿であった。


 二人はドラゴンである。

 少年は奈落の破壊者アトゥルム。

 少女は万魔殿の簒奪者アウルム。


 二人のドラゴンは、それぞれの巨顔を前方に向けて――口を開いた。その瞬間、私の脳内に二人の声が響き渡った。


((できれば――))

((防御を頼む))


 防御。その言葉を聞いた瞬間、私を含めて、魔王軍全員が身構えた。

 皆の右手と左手が、腰に差した打刀に伸びている。その事実を直感した瞬間、再びドラゴン達の声(念話)が脳内に響き渡った。


((では――))

((やるぞ))


 大きく開いたドラゴン達の口の奥から、黒い炎と黄金の光が溢れ出す。


 ドラゴン最大の奥義、ブレス攻撃。


 過去の世界ネフィリムを滅ぼした天災級の攻撃。真面に喰らえば只では済まない。その事実は、嫌というほど思い知らされている。


 私の脳内に、アトゥルムに焼き尽くされた魔王の森が閃いた。当時の光景をなぞるように、ドラゴン達の口から黒い炎と、黄金の光が噴出する。その光景を例えるるならば雪崩か、或いは津波だろう。

 圧倒的な量の炎と光が真っ直ぐ前に伸びていく。その先には何も無い。そのように見える。しかし、実際には違う。

 二百メートル先に黒い壁が立ちはだかっていた。


 直径百メートルの黒い半球。女神の寝床である。


 途中で遮るものは何もない。ドラゴン達のブレスが黒球に届いた。そのまま表面に広がって、焼き尽くし、或いは黄金化していく。

 黒球(表面)がドロドロに焼け(ただ)れていく。或いは黄金化して砕け散っっていく。その様子を見て、私の口から「ほう」と声が漏れた。


 もしかして、このまま女神の寝床を破壊することができるのではないか?


 女神の寝床の破壊。私達が女神の寝所(現在地)に来た理由である。現況を見ていると、存外簡単に目標達成できそうに思える。

 しかし、そうは問屋が卸さなかった(創世記由来の諺)。


 ドラゴン達が攻撃中、女神の寝床、通称「繭」の表面に無数の突起物が現れた。それを直感した瞬間、全ての突起物が飛び出した。


 突起物に見えたものは、()()()()()だった。それらは目にも止まらぬ超速で飛び出し、ドラゴン達に向かって殺到する。その現象を直感したときには、既に魔王軍の全員が動いていた。


 暗闇の中、虹色の光彩、或いは毒々しい色が縦横無尽に奔り回る。それが一閃する度に、繭の触手が宙を舞った。ドラゴン達に届いた触手は、一本も無い。


 私を含めて、魔王軍の精鋭達が、全ての触手を断ち切っていた。その間、ドラゴン達はブレス攻撃を終了していた。


 繭の裾野(すその)は、焼け爛れたヘドロと、砂金の山に塗れていた。その様子を見て、私は「繭の(から)が破れた」と直感した。それを確認すべく、顔を上げて二百メートル先の巨大黒球を見た。


 そこは――真っ暗闇のままだった。


 目を凝らしてみると、滑らかな黒い球面しか見えない。しかし、黒球の下部にはヘドロと砂金が積もっている。ドラゴン達の攻撃は、確かに繭に届いていた。その表面に損害を与えている。

 しかし、私の目に映った繭は、全く無傷であった。何故なのか? その疑問の答えが、私の脳内に閃いた。それを表す言葉が思念となって、私の脳内に響き渡った。


((『神秘真鍮(オリハルコン)』だ))

((これが有るからネフィリア様を起こすことができないのだ))


 神秘真鍮。繭を構成する魔法金属である。その名前は創世記にも登場する。しかし、元の世界(ネフィリム)には存在していない。私が実物を目にしたのは、これが初めてである。

 神秘真鍮もまた、真銀と同じく百パーセントの魔力伝導率を誇る。尤も、真鍮であるが故に、硬度は真銀に劣る。しかしながら、神秘真鍮には殊更(ことさら)厄介な二つの特性が備わっていた。

 それが、先程ドラゴン達を攻撃した触手と、私の視界に映った無傷の表面である。

 実際に目の当たりにして、私の顔に歪な苦笑が浮かんだ。そのような表情になった原因、真銀真鍮の特製を表した言葉が、私の口から零れ出た。


「自動反撃機能と、自己修復機能か」


 自動反撃機能は、攻撃を受ければやり返す。倍返しだ。

 自己修復機能は、損害を受けるや否や瞬時に修復する。ヒドラの超回復能力を持つ金属と言える。


 真銀真鍮の壁を突破する為には、一瞬で消し去る他無いだろう。しかし、繭は直径百メートルの巨大半球である。それを一瞬で消し去ることは難しい。その事実を、たった今目の当たりにした。


 二体のドラゴンの最大攻撃を以てしても、繭の殻を突破できなかった。


 最強の魔物(ドラゴン)にできなかったことが、か弱い人間(私達)にできるか否か。それを試す機会は、たった今巡ってきた。


「来寿」

「応っ」

()()を使うぞ」

「承知」


 ()()とは魔王軍の最強攻撃、魔王の超電磁砲ミアズ・スーパーレールガンである。

 ドラゴンの胸を貫いた、女神の大魔法を超える魔法。これを使えば、神秘真鍮の壁も何とかなる。その可能性に、ドラゴン達は期待した。

 私も、それが叶うと信じて、皆と一緒に超電磁砲の準備に取り掛かった。

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