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魔王と侍の封印生活 The Survivors  作者: 霜月立冬


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第九十三話 壺の中心

 私、魔王ウィルミア・デストランドと配下の魔王軍は、三基の移動要塞、移動魔王城に乗って世界の果てに辿り着いた。尤も、本当に果てに辿り着けたかどうかは、実は定かではなかった。


 荒野を進んでいく中、唐突に違和感を覚えた。それが魔法の干渉だと直感した瞬間、私達は()()()()に戻っていた。

 振り出し。より正確に言えば、現在地は荒野のど真ん中だ。

 北の方角を見ると、魔王軍が進軍していた痕跡が確認できる。その事実を目の当たりにして、私は全魔王城に緊急停止を命令した。

 しかし、どうやらその必要は無かったようだ。


 私が違和感を覚えたときには、既に一号機と三号機は停止していた。その光景は二号機操縦室からも見えていた。


 二号機は、他二基の至近で停止した。その直後、私が「止まれ」と命じた。すると、他の城から「言うのが遅い」と突っ込まれた。

 一体、誰が突っ込んだのか? 私に無礼を働いた愚か者は、黒衣の少年と、金衣の少女。奈落の破壊者アトゥルムと、万魔殿の簒奪者アウルムである。

 ドラゴンだからと偉そうに。とてもムカつく。しかし、今はそれどころではない。


 私は直ぐ様全軍に「二号機に来い」と命令した。それから暫くして――現在、中央広間の円卓には十一名の男女が顔を並べている。


 円卓北側の席に、黄金の鱗鎧(スケイル・メイル)をまとった美少女がいる。私、ウィルミア・デストランドである。

 私の右隣には、黒い鱗鎧をまとった黒髪痩身の男性がいる。私の王子様(仮)、愛洲来寿(アイス・ライス)様である。

 来寿様の右隣りには、同じく黒い鱗鎧をまとった黒髪真銀肌の四人の少年がいる。真銀人形(ミスリル・ゴーレム)の松竹梅と蹄鉄である。

 私の左隣には、黄金の鱗鎧をまとった金髪真銀肌の三人の少女がいる。真銀人形の初夢トリオである。

 私の対面には、黒い鱗鎧をまとった黒髪褐色肌の少年と、黄金の鱗鎧をまとった金髪雪肌の少女がいる。人間に擬態したドラゴン、アトゥルムとアウルムだ。


 人間に、人形に、ドラゴン。別種の存在が一堂に会している。

 上手く意思疎通できるかどうか、甚だ疑問である。しかし、現況の意味を理解する為には、言わねばならぬ。尋ねねばならぬ。

 皆が揃ったところで、私は対面に座ったドラゴン達に向かって声を上げた。


「一体、これはどういうことだ?」


 これ。即ち、荒野のど真ん中にいるという謎の状況だ。

 私達は、世界の果てを目指して進んでいた。そのはずだ。その間、一号機と三号機が大暴れして、これでもかと進軍の痕跡を色濃く残している。

 その痕跡が、何故か私達の目の前、進行方向に続いている。何故なのか?

 現況の意味を知っている者がいるとすれば、対面に座った二人の男女(ドラゴン達)しかいない。

 故に、私は二人に尋ねた。すると、黄金の少女、アウルムが声を上げた。


「どういうことも何も、()()()()()()だ」


 目的地。即ち、世界の果て。その可能性を想像して、私の首は斜めに傾いだ。私だけでなく、来寿様も、真銀人形達も首を傾げている。


 私を含めた全員(ドラゴンを除く)の脳内には、同じ疑問が浮かんでいるだろう。私は皆の想いを汲み、皆を代表して声を上げた。


「ここが『世界の果てだ』というのか?」


 私には、現在地が世界の果てとは思えない。私が想像していたものは、天まで届く高壁、封印の壺の器壁だ。

 しかし、現状は違う。例えるならば「壺のど真ん中」と言ったところだ。解せん。故に、尋ねた。すると、ドラゴン達は互いに顔を見合わせた。


「「…………」」 


 三十秒ほど見詰め合った後、それぞれが右拳で左掌を「ぽん」と敲いた。続け様に、二人揃って私の方を向いた。

 それぞれの黒眼と金眼に、私の顔が映り込んでいる。その光景を直感した瞬間、ドラゴン達は二人揃って口を開いた。


「「ここは『壺の中心』だ」」


 壺の中心。その言葉を聞いた瞬間、ドラゴンを除く全員の頭上に「?」が浮き上がった。その様子は、ドラゴン達の視界にも映っている。

 ドラゴン達は、さも面倒くさそうに眉根を曲げながら声を上げた。


「この世界は、ネフィリア様の魔法で果てに辿り着けなくなっている」

「果てまで行くと、ネフィリア様の魔法で壺の中心に飛ばされるのだ」


 ドラゴン達の言葉を要約すると「壺の中心(ここ)に来る為に、態々世界の果てまで移動した」ということのようだ。言葉の意味は理解した。しかし、私の首は一層傾いでいる。


「ならば、最初から壺の中心に向かえばよかろう」


 世界の果てまで行く必要が有ったのか? 直行した方が速く着く。私でなくとも、誰しもがそう思う。これが常識的な判断だ。

 ところが、ドラゴン達「分かってないな」と言って、首を振りながら肩を竦めた。人を小馬鹿にしたような態度だ。大変ムカつく。

 私はドラゴン達を思い切り睨みつけた。人間であれば顔に穴が開くほどの鋭い視線だ。しかし、ドラゴンに対しては効果が薄い。


 そもそも、ドラゴンの面の皮はとてつもなく硬い。今は人間に擬態しているが、そもそもの本体は真銀の鱗に覆われている。


 ドラゴン達は、私の視線を浴びながら口許に薄ら笑いを浮かべた。とてつもなくムカつく表情である。奴らを見ていると、私の眉間に深い皺が刻まれていく。

 今の私の顔は、それなりに剣呑な表情になっているだろう。その可能性を想像した瞬間、黄金の少女、アウルムが声を上げた。


「この世界に掛けられたネフィリア様の魔法は、『超時空歪曲スペースタイム・ディストーション』だ」


 超時空歪曲。時間と空間に干渉する女神の大魔法だ。存在は知っている。しかし、私には使えない。より正確に言うと、空間には干渉できる。しかし、時間は無理だ。

 そもそも、私達の次元(三次元)は時間軸が固定されている。過去、現在、未来と一方通行だ。

 時間に干渉する為には、時間軸を認識できる場所、より高次元(四次元以上)からでないと不可能だ。その事実は、これまでの半生でそれなりに思い知っている。


 過去に戻ることを願っても、それは叶わない。


 過去に遡る。恐らく、創世の女神ネフィリア(世界の造物主)でも難しいだろう。何しろ、七度も世界を創り直しているのだから。

 その事実を想起した瞬間、最初の世界を破壊したドラゴン、奈落の破壊者アトゥルムが声を上げた。


「超時空歪曲は、外の時間に合わせて何度も掛け直されている。そのように、この壺(封印の壺)は造られている」


 魔法の重ね掛け。それが事実であることは、空を見れば分かる。あの禍々しい大渦は、超時空歪曲を重ね続けた結果なのだろう。その事実を想起したところに、今度はアウルムが声を上げた。


「故に、壺の中心の位置も変わる。常に変わっているのだ」


 壺の中心の位置が変わる。直接辿り着こうとすれば、それなりに運任せになるのだろう。確実に辿り着ける方法が有るならば、そちらを採用したい。尤も、()()()()()が有ればの話だ。

 ()()()()()は、有った。それを、アトゥルムが告げた。


「だが、世界の果てに辿り着けば、必ず中心に飛ばされる」


 世界の果てを目指したことは、それなりに意味が有った。尤も、説明足らずであった感は否めない。私の眉間には一層深い皺が刻まれている。私の脳内にも、文句の言葉が幾つも閃いている。しかし、それは敢えて口にしない。

 文句を言ったところで、ドラゴン達には馬耳東風だ。その代わり、ドラゴン達には念を押しておく。


「では、ここが目的地なのだな?」


 私の言葉に、ドラゴン達は首肯した。その反応を見て、私は続け様に声を上げた。


「では、ここからどうするのだ?」


 周りには何もない。こんな場所に来てどうするというのか? 私には、皆目見当が付かなった。故に、それを知っていると思しき者達に尋ねた。

 私の質問に対して、ドラゴン達はニヤリとシニカルな笑みを浮かべた。その吊り上がった口が開いて、そこから()()()()()()が飛び出した。


「「ここから『壺の底』に行く」」


 壺の底。その言葉を聞いて、私は壺の底面を想像した。しかし、それは外れた。

 壺の底とは、ドラゴン間での通称であった。その事実は、ドラゴン達が続け様に告げた言葉で確信しできた。


「「そこが、ネフィリア様の寝所だ」」


 ネフィリア様の寝所。即ち、最終目的地。そこに眠る女神を起こせば、私達は元の世界に帰ることができる。その可能性を想像すると、居てもたってもいられない。


「では、早速移動開始だ」


 私は全軍に進軍を命じた。ところが、


「「待った」」


 ドラゴン達が邪魔をする。今度は何だ?

 ドラゴン達の発言を受けて、皆の視線が奴らに集中した。すると、奴らは奇異な提案をした。


「その前に」「城を合体させろ」


 城の合体。どうやら、移動魔王城を一つにしたいようだ。その提案を受けて、ドラゴン達を除く全員の首が斜めに傾いだ。


 ドラゴン達の言動を理解することは、中々骨が折れる。同じ言葉を使っているのに困惑させられてばかり。話せない人形達の方が、意思疎通が容易である。

 その事実を思うと、私の口から特大の溜息が漏れた。

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