第九十一話 魔王軍の班分け
この私、ウィルミア・デストランドの配下にアトゥルムとアウルム、二人のドラゴンが加わった。
ドラゴンの恩恵を得ることで、魔王軍の軍事、技術、生産――等々、あらゆる分野の能力が格段に向上している。
魔王軍の象徴、移動魔王城にも、調子に乗って様々な機能を盛々実装した。その結果、計画当初の予定より一寸だけ禍々しい姿となってしまった。
移動魔王城の外観は、遠目から見れば、一応、辛うじて、巨大な四角錐台である。
しかし、近くで見ると奇怪にして奇妙。その主因となっている要素が、複数本の巨塔と、二本の巨腕である。
先ず、巨塔。その正体は真銀弾射出装置だ。それは、当初一門ずつ実装予定ではあった。
しかし、完成した魔王城には、最多で五門ずつ備わっている。
一号機、及び二号機は、前面に二門、左右と後部に一門ずつ。
三号機は最上部であるが故、屋上に三門のみ。それらは三連の回転砲塔だ。
合計十三門の真銀弾射出装置である。こんなに沢山装備して、一体、何と戦うつもりなのか? 城主の私でさえ、この有り様には首を傾げる。
しかし、この程度で首を傾げていては、捩じ切れるまで傾ぐ羽目になるだろう。もっと奇異な物体が、魔王城の左右から生えている。二本の巨腕だ。
複数の樹木を編み上げた、人間の腕である。飾りとしては、悪趣味以外の何物でもない。しかし、当然ながら、只の飾りではない。
魔王城の腕は、城内の操縦装置で自在に動く。物を掴むことも可能だ。魔王城合体の際、それぞれの城を持ち上げて装着することも可能だ。
この腕のせいで、私が「上の城が乗り上がり易いように」と四角錐台型にした意味は無くなった。遺憾である。
ほんとにもう、どうするのだこれ?
想定外にもほどがある。しかし、想定外の新要素は他にも沢山有る。それらに付いて考える度、私の首は傾ぐ。頭上に「?」が浮かぶ。しかし、それでも――
「便利だから、良し」
私は全て採用した。私は寛容にして合理主義なのだ。皆を守る為ならば、心を鬼にする。魔王にだってなってみせる。
まあ、結果として、一寸禍々しくなった訳だが。しかし、見た目よりも機能優先である。それに、元々期待していた機能に何の支障も無い。良しである。
尤も、全く何も問題が無いかというと、そういう訳でもない。魔王城そのもの以外のところで、大きな問題が一つ有った。
それを皆に伝えるべく、私は全魔王軍を移動魔王城(二号機)前に呼び出した。
私の前に、ドラゴン達を含めた魔王軍の精鋭達が横一列に並んだ。私の視界に、全員の顔が映っている。皆の視界にも、私の顔が映っている。
皆の顔は、全く平静だ。それに対して私の顔は、口を「へ」の字に曲げて微妙な表情をしている。その表情の意味が、私の口から飛び出した。
「今から、それぞれの魔王城の搭乗者を決める」
誰を、どこに乗せるべきか? これに付いては、私の中で結論は出ている。「これ以外ない」と思っている。
しかし、それに付いて考えるほど、私の眉間に深い皺が刻まれていく。問題しかないのだ。そう思う。それでも、言わねばならない。
私は眉間に皺を寄せながら、各魔王城の搭乗員を発表した。
「一号機は、松竹梅とアトゥルム。二号機は、私、来寿、蹄鉄。三号機は、初夢とアウルム」
それぞれの名前を挙げる度、呼ばれた当人達が反応した。
頷く者もいれば、姿勢を正す者もいる。ドラゴン達は、不服そうに眉根を曲げながらも、無言で頷いていた。
それぞれの反応を見る限り、異論は無さそうに思える。私も、この案しかないとは思う。その決め手となったのは「魔力の供給」だ。
移動魔王城は魔力で動く。その魔力を供給できる者が、私とドラゴン達しかいなかった。
移動魔王城は三基であるのに対し、魔力の供給者が三人なのだ。
私とドラゴン達は、分ける必要が有った。しかし、その分け方自体が、私の最大の懸念材料なのだ。
果たして、人形達だけにドラゴンを任せて良いものか?
人形には荷が重過ぎる。どちらかに来寿様を付けるべきか? しかし、来寿様にもしものことが有れば、私は後悔してもしきれない。
来寿様は、絶対私の傍に置くべきなのだ。
私と来寿様はセットである。これは、絶対である。いっそ、二人きりでもいいくらいだ。しかし、その案には大きな懸念が有った。
もしかしたら、不眠不休で作業する場合が有るかもしれない。
人間に休息が必要だ。しかし、人形ならば魔力が続く限り不休で働くことができる。
私は仕方なく、渋々、蹄鉄を二号機の搭乗員に加えた。
私自身「これしかない」と思っている。しかし、問題は有る。多々有る。それも分かっている。皆も、恐らく同じ不安を覚えているだろう。私の案に対して、文句が有る者もいるだろう。一家言有る者いるだろう。そう思っていた。ところが、そうではなかった。
私が各搭乗員を発表したところで、来寿様が声を上げた。
「良いんじゃないか?」
人形達も、「それで良い」とばかりに首肯した。それ以外の二人、ドラゴン達はと言うと――
「この一番でかいやつが、俺の城か」
「私の城としては物足りないけど、一番速くて強いから良し」
やはり、異論は無いようだ。しかし、勝手に「自分の城」と言い張っている。何なのだ? この厚かましさは。
この三基の移動要塞は、全て私、ウィルミア・デストランドの城である。そこのところ、ドラゴン達は分かっているのだろうか?
私はドラゴン達をジト目で睨んだ。しかし、奴らの面の皮は真銀製。存外に厚いし硬い。私の視線など、全く気にしていないようだ。
「俺好みの城にしてやる」
「私の色で染めてやろう」
ドラゴン達は、口々に勝手なことをほざいている。
この件に関しては、一応、何度か釘を刺している。しかし、馬耳東風(創世記由来の諺)である。いっそ、実力行使に出て、心底立場を分からせてやろうか? その場合、世界が滅亡する可能性を考慮する必要が有る訳だが。
「はぁ」
私は盛大な溜息を吐いた。続け様に大きく息を吸い込んだ。新鮮な空気が、私の熱くなった脳を冷やしていく。幾分か落ち着いた。
「では――」
私は普段通りの平静に、皆に向かって居丈高に下知した。
「それぞれの城に乗り込め」
私は各々に搭乗を命じた後、続け様に目的地を告げた。
「『世界の果て』に向かって進軍するぞ」
世界の果て。その先に、眠れる女神が待っている。
女神を起こせば、この忌々しい封印世界ともおさらばだ。その可能性を想像すると、私の口の端は吊り上がっていく。
しかし、何故か私の眉は「八」の字に歪んでいた。それと同時に、胸が締め付けられるような痛みを覚えていた。
どうやら、私はこの世界に少なからず思い入れが有ったようだ。その事実を直感して足を止めた。しかし、それも束の間のこと。
私は未練を断ち切るべく、直ぐ様魔王城(二号機)に向かって走り出した。




