第八十三話 魔王の移動要塞
焼け野原に立つ樹木網の城、封印魔王城。それは今、真銀人形達の手によって解体されている。尤も、廃棄する訳ではない。
魔王城は、移動要塞として改造、いや、新生する。その基幹となる移動装置も、鋭意製造中である。
移動装置と言えば、元の世界では車輪を使うものが一般的だ。むしろ、それしか無い。私も、それを採用している。
しかし、そこは魔王ウィルミア・デストランドの仕事。他所には無い特別な工夫を凝らしている。
新生魔王城の移動装置は、複数の車輪を並べたものに真銀製の帯を巻いている。
因みに、帯のことを「履帯」という。このような機構、元の世界には無い。私の発案だと豪語しても、首を傾げる者は少ないだろう。
しかし、発案者は私ではなかった。
例によって、女神ネフィリアが記した創世記に登場している。
車輪に履帯を巻いた移動装置、その名を「クローラー」、或いは「キャタピラ」という。
女神の故郷(地球)に存在した「戦車」という乗り物の脚である。私は、これを応用した訳だ。
既に私の脳内設計図には、複数個のクローラーを脚にした四角錐台の魔王城が描かれている。しかし、それは一つではない。
私の計画では、移動魔王城の数は全部で三基。
これらは、現在の魔王城を三つに分けたものだ。しかし、等分ではない。それぞれ大きさが異なっている。
最も大きいものが一号機。次に大きいものが二号機。一番小さいものが三号機と、いったところか。
それぞれの大きさが異なっている理由は、大きく二つ有る。それを簡潔に言うと、「内部施設と合体機構」となる。
内部施設は、元の城のものに因んでいる。
一号機は、資材、魔法道具倉庫。元の城で地下施設だったものだ。
二号機は、居住区。元の城の一階部分に相当する。
三号機は、水耕栽培施設。元の城の城内菜園である。
移動の際、三基の魔王城は独立して走ることになる。その為、搭乗する魔王軍の精鋭達も三分した。
一号は松竹梅。二号は私と来寿様、蹄鉄。三号は初夢トリオ。
それぞれの魔王城には、敵に対応できるよう真銀弾射出装置も搭載するつもりだ。最早無敵と言っても過言ではない。創世記にでてくる熟語、「一騎当千」ならぬ「一基当国」である。がはは。
三基、それぞれで攻撃すれば、敵を倒すことも容易だろう。しかしながら、各個が離れて行動することは、殆ど無い。
そもそも、三基に分割している理由は、飽くまで移動を考えてのこと。移住先では一基の城として機能するよう設計している。
その為の機構が「合体」である。
合体。それぞれの魔王城は積み上ることを企図して設計している。それぞれ四角錐台型をしている理由が、正にそれである。
積み上がり方は番号順。一番上が三号機になる。
合体の際、それぞれの脚は床下内部に収納する。これで一基の巨大な四角錐となる訳だ。
この形状は、創世記に出てくる「ピラミッド」という巨大建造物に因んでいる。
天を衝く巨大な四角錐。突然そんなものが現れたなら、魔物でも目を一杯に開いて首を捻るだろう。頬を抓る者もいるかもしれない。その様子を想像すると、私の口の端が勝手に吊り上がっていく。
ああ、早く完成させたい。それを使って、縦横無尽に暴れ回りたい。
私の脳内に、様々な場所に出没する巨大な四角錐の威容が閃いた。それを具現化する力が、今の魔王軍には有る。
今も、真銀人形達が鼻歌混じりで魔王城の各部位を持ち上げている。余裕である。
移動魔王城の建造、新造に関しては、何の憂いも不安も無い。しかし、完成した後のことに関して、一つ大きな不安が有った。
移動の際の動力源、魔力をどうするか?
私が乗る二号機は、私が何とかできる。しかし、私が不在の魔王城は、魔力が尽きれば動けない。その場合、私が乗り込んでいく以外に方法は無い。
せめて、私がもう二人いたならば。
残念ながら、私は分身する魔法を知らない。私の願望は叶うはずもない。そう思っていた。
ところが、全く意外な、予想もしなかった形で叶う羽目になった。
その切っ掛けとなった出来事が、移動魔王城建造中に発生した。




