第八十二話 明日の行方
嘗て、ここには広大な樹海が有った。しかし、今は一面焼け野原。残っているものといえば、広大な湖と、その畔に立つ樹木網の王城だけだ。
この森は、死んだのだ。
湖も、いつか干上がるだろう。新たな食材や資材を得ることは、諦める他無い。決断の時が来たのだ。
私、ウィルミア・デストランドは、直ぐ様全魔王軍を招集した。
中央広間の大円卓に、魔王と魔王軍の精鋭達が集結している。円卓なので、席順など無い。それでも、それぞれの場所は決まっている。
城主は北側の席。その右隣の席には、痩身長躯の男性が座っている。
我が騎士にして、我が伴侶(勝手な思い込み)、愛洲来寿様である。
私の左隣の三席には、白銀の肌を持つ金髪の三人娘が座った。彼女達の額には「富士」「鷹」「茄子」という文字が浮かび上がっている。
私と来寿様の娘(勝手な思い込み)、初夢トリオだ。
来寿様の右隣の四席には、白銀の肌を持つ黒髪の四人息子が座っている。息子達の額には「松」「竹」「梅」「U」という文字が浮かび上がっている。
私と来寿様の息子(勝手な思い込み)松竹梅と蹄鉄である。
皆、中々個性的な容姿をしている。来寿様は別格として、人形達は私が造ったもの。美形にし過ぎたという感は否めない。
しかし、一般的にはどうだろう?
私達の容姿を見れば、見惚れるとは思う。しかし、遠目から見ればどうだ? 全員同じ容姿と思われるかもしれない。その可能性を想像する理由が、それぞれの服装に有った。
全員、アラクネ糸の着流し姿なのだ。
私が造った防具一式は、先のアトゥルム戦で大破、焼失した。その事実を想起する度、造らねばと思う。しかし、真銀は兎も角、皮はもう無い。新たな鎧を模索する必要が有る。
素材の量を鑑みると、真銀製の鎧が妥当と思える。しかし、今は後回しだ。
「皆に集まって貰ったのは他でもない」
これから先、私達はどう生きるべきか? その基本方針を決めねばならない。
その認識を皆と共有できるよう、私は続け様にのっぴきならない現状を告げた。
「知っての通り、森は焼失した」
魔王城を含めて、真っ黒焦げ。生き物など、影も形も無い。
「水場を求めて魔物が来ることも有るだろう。だが――」
私が何か告げる度、場の空気が重くなる。その感覚は、私の肌身にビンビン伝わっている。しかし、言わねばならない。その上で、選択せねばならない。
「ここを放棄するか? 城の資材が尽きるまで居続けるのか?」
私の選択肢は、この二つ。これ以外にない。そう思っていた。ところが、
「一寸良いか?」
私の右隣にいる来寿様が右手を上げた。一体、どんな意見が有るか? 他の選択肢が有るのか? 私は様々な可能性を想像しながら、来寿様の発言を許可した。
すると、来寿様の口から第三の選択肢が飛び出した。
「引っ越し、というのは駄目なのか?」
「引っ越し?」
移動(移住)するならば、城は放棄するもの。少なくとも、私はそのように考えていた。その為、来寿様の発想は脳内に無かった。意表を突かれて、思わず来寿様の言葉を繰り返してしまう。
私の言葉に対して、来寿様は「そうだ」と頷いた。続け様に、より具体的な引っ越案を説明し始めた。
「城に施錠して、必要なものだけ荷車に乗せて移動」
城に施錠。無人の城となれば、魔物に襲われる可能性は否定できない。しかし、私が強力な魔法で封印すれば、無事で済む可能性も否定できない。
「他の荷物は、新居が見付かり次第、この城から運び出せば良いだろう」
「ふむ」
「何なら、俺一人残っていても良いが――どうだ?」
来寿様に留守番を頼む。それは論外である。しかし、来寿様の案に付いて考えると、私の首は縦振りしかできなくなる。
来寿様の案、乗ってみるべき?
私の心は揺らいだ。しかし、本会議の議題は私達の命運にかかわる大事。慎重に判断する必要が有る。
私は来寿様の意見に頷きながら、何か問題点は無いかと考えた。
私達が出た後の城はどうなる? どんな荷物を運び出す? 移動方法は?
私の脳内で、「城」「荷物」「移動」という三つの言葉が巡り続けた。
ぐるぐるぐるぐる――熱したバターのように、溶けて形が無くなっていく。その内、混ざり合って一つになった。
その瞬間、私の脳内に天啓が下りた。
「城を移動させる」
「は?」
私は天啓を告げた。すると、私の右隣から声が上がった。
声がした方――来寿様を見ると、眉根を曲げながら首を傾げている。来寿様だけでなく、人形達も全く同じ反応をしている。それぞれの表情を見ていると、「何を言っているんだ? こいつ」という幻聴が聞こえてくる。大変無礼である。文句の一つも言いたくなる。
しかし、私は世界一寛大な魔王。文句の言葉をグッと堪えた。その上で、皆に分かるよう、私に下りた天啓に付いて説明した。
「この城を、移動できるように改造するのだ」
魔王の移動要塞。その明確な映像が、私の脳内に閃いていた。




