第八十一話 真銀の体
焼野原の中に立つ、焼け焦げた樹木網の城、封印魔王城。その中は、無人と錯覚するほど静まり返っていた。一応、城内には人がいる。
城主である私、ウィルミア・デストランド、及び我が騎士にして我が伴侶(勇み足)、愛洲来寿様。
私は、城内、中央広間の光景を目の当たりにして絶句していた。来寿様も、何も言わず立ち尽くしている。
私達の視線は、中央広間の床の上に釘付けになっていた。そこには、七名の子どもが横たわっている。尤も、それぞれ本物の人間ではない。
六体の黄金人形と、一体の鉄人形。魔王の最高傑作達だ。
私の人形達は、この世界に存在する全ての人形より、あらゆる箇所で優れている。そう断言できる。その外観も、体色以外は人間と大差無い。いや、大差無かったと言うべきか。
残念ながら、現状から嘗ての姿を想起することは難しい。
人形達の体には、手足が無かった。首が無いものも有った。美しかった肌も、見るも無残に焼け爛れている。彼らが本物の人間であったなら、このまま埋葬する他無い。
何故、人形達はかくも無残な状態になったのか? その理由を考えると、脳内に巨大な黒い影が閃いた。
奈落の破壊者アトゥルム。
彼の黒いドラゴンと死闘を繰り広げた際、人形達は全員犠牲になった。
冥府の業火に焼かれたり、遠くに投げ飛ばされたり――散々な目に遭っている。
当時の出来事を想起すると、生存は絶望的と断言せざるを得ない。それどころか、こうして目の前にいることが奇跡と思えてならない。誰かが人形達を探し出して、ここまで運んでくれたのだ。
一体、誰の仕業か? それは――考えるまでもないだろう。
私は隣に立つ着流し姿の男性に向かって声を上げた。
「来寿」
「ん?」
「其方が、皆を運んでくれたのだな」
私の問い掛けに、来寿様は無言でコクリと頷いた。来寿様らしい控えめな肯定である。しかし、もっと誇って良い。
来寿様は、七名の子どもの命を救った。その功績は、世界を救ったも同然。来寿様の銅像を建て、未来永劫称えられて当然だろう。その想いが、私の口から零れ出た。
「礼を言う」
我ながら簡潔が過ぎるとは思う。しかし、私の謝礼は言葉だけではない。
「後は、私が何とかする」
私は直ぐ様人形達の修復、いや、新生を開始した。
先ず、人形達の体から心臓部、魔石を取り出した。それを持って、魔王城の地下、魔法道具置き場に移動する。その際、来寿様にも幾つかの魔石を持って貰っている。
地上一階から地下一階への移動だ。それほど遠くは無いとは思う。しかし、誰かを置き去りにするのは躊躇いを覚える。全員一緒が良い。
私達は全員分の魔石を抱えながら、魔法道具置き場に入った。
道具置き場は、当然ながら様々な道具で溢れ返っている。しかし、お目当てのものを探すことは容易であった。
真銀に輝く七体の人形。遠目にも、よく目立つ。
飛竜の鱗から生成した人形達の新しい体である。造形や機構に拘る余り、散々実装を延期し続けていたものだ。
まさか、このような形で実装する羽目になるとは。
現況に付いて想いを馳せると、私の脳内に創世記の諺が閃いた。「人間万事塞翁が馬」である。
尤も、正直に言えば未だまだ手を加えたいところ。しかし、そんなものは後でどうにでもなる。今は人形達の心臓(魔石)を移植することが最優先。
私は可能な限り素早く、それぞれの体に魔石を埋め込んだ。
魔石の移植。他の魔術師にとって、それは結構な大仕事になるだろう。しかし、私にとっては慣れたもの。途中、鼻歌を吟じながら、恙なく作業完了した。
それぞれの魔石は、無事に新しい体に収まっている。程無くして、それぞれの真銀製の瞼が開いた。
魔王軍の人形達は、真銀人形として新生した。
人形達の外観は、白銀の肌を持つ人間の子どもそのもの。中身が変わっていないので、慣れるまで時間が掛かりそうだ。しかし、その程度の変化は些事である。
人形達の身体能力、及び戦闘能力は、その外観以上に違う。全く別物であった。
人形達の運動能力は、魔力で強化した私、及び来寿様を凌駕した。
移動速度は音速に迫るほど。跳躍力は飛行するが如し。女神の失敗作との対戦でも、後れを取ることは一切無い。
人形達の反射神経は、私は元より、来寿様を超えて余り有る。女神の大魔法、魔弾豪雨を一発残らず叩き切ることができた。
来寿様と手合わせした際も、全員、来寿様の打ち込みを防ぎ切っている。尤も、打ち合いとなると、未だ来寿様には及ばない。
来寿様は、相手の剣筋を予見できる。その為、人形達は途中で打ち込まれる羽目になる。
しかしながら、経験を積めば来寿様に追い付くことはできるかもしれない。そう思わせるほど、人形達の学習能力は高い。
人形達の筋力に関しては、これは――怖くて測れない。普段は加減させている。本気を出せば、恐らく彼のアトゥルムすら投げ飛ばせるだろう。最早、人形の姿をした百個大隊である。
真銀人形達を擁した魔王軍に敵う敵はいない。再びドラゴンと対戦したとしても、今度は余裕で勝てるに違いない。その可能性を想像すると――笑いが止まらん。
「アトゥルム、ドラゴン、何するものぞ。いつでもやって来い」
私は「がはは」と豪快に高笑いした。その言動は、創世記に記された「フラグ」という予兆であった。




