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魔王と侍の封印生活 The Survivors  作者: 霜月立冬


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第七十九話 はち切れる想い

 奈落の破壊者アバドン・デストロイヤーアトゥルム。

 四足歩行していた魔物が、今は二本脚で立ち上がっている。その全高は五十メートルを超えているだろう。そのそびえ立つ黒い山に、一発の弾が発射された。


 小さな一撃だ。アトゥルムの巨躯に比べれば、蟻にも満たない。しかし、その威力は蟻では済まない。

 魔王の超電磁砲ミアズ・スーパーレールガンで撃ち出した弾である。その速度は超音速。その上、撃ち出した弾も特別製だ。

 電磁砲の弾は、この世で最も固い絆で結ばれた男女であった。


 私、ウィルミア・デストランドと、その伴侶(仮)、愛洲来寿(アイス・ライス)様。


 私達は、互いの腰を抱き合いながら、一振りの打刀を突き出して――


「「ちぇすとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」


 アトゥルムの喉下、そこに穿たれた魔弾豪雨マジカル・クラウドバーストの傷口に激突した。その瞬間、打刀――妖刀村正の切っ先を突き立てた。


 ドラゴン入刀。夫婦になった(錯覚)私達の、初めての共同作業である。


 現況は、黒い炎が渦巻く灼熱地獄。結婚式会場として、これ以上に熱狂的な場所はどこの世界にも無いだろう。

 しかし、今の私達にとっては――ぬるい。鍋料理の湯気程度である。


 世界を燃やす冥府の業火より、私達の想いの方が熱い。その情熱を村正に込めて、アトゥルムの喉下、そこに穿たれた傷口に埋め込んでいく。


 このまま背中まで突き抜けてやるっ!


 止まるつもりはない。行けるところまで行く。

 私達の想いを受けて、村正の刀身がズブズブと埋っていく。私達の体も、それに続いて埋る――はずだった。

 ところが、村正の刀身が半ばまで埋まったところで、前に進まなくなった。何故なのか?

 理由を考える間もなく、私達は()()()()()()()()で殴り付けられていた。

 

 金槌は、アトゥルムの魔力だった。


 アトゥルムは、その身に宿った魔力を喉元に集中した。その行為によって、私達の侵攻を阻んだのだ。


 世界を滅ぼす魔物の魔力だ。人間に敵う道理は無い。しかし、今の私の辞書には「無理」と言う文字は無い。


 私の体から、魔力が止めどなく溢れ出している。私の胸には、それ以上の熱い想いが溢れ出している。その上、回復薬の副作用で(たが)が外れている。脳内は来寿様で一杯だ。

 私の魔力、想い――その全てを、私は絶叫と共に解放した。


「来寿様あああああああああああああああっ、好きいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!」


 私の想いが、魔力が、この場、この世の全てを飲み込んでいく。その中に来寿様の体が有った。アトゥルムの体も有った。二人の運命や如何に? 

 判決を下す裁判官は、この魔王()である。


 魔王()の判決。

 来寿様は赦す。無罪。無傷。私の伴侶として、私と永遠に添い遂げることを許可する。これは強制ではなく、来寿様の自由意思で決めて良し。

 アトゥルムは赦さん。死刑。木っ端微塵に砕け散れ。これは強制だ。絶対だ。控訴、上告、一切無し。

 判決を下した瞬間、私と来寿様の前方で何かが爆発した。


 鉄をも引き裂く凄まじい衝撃。しかし、今の私達なら耐えられる。私は目を瞑りながら、衝撃が収まるのを待った。すると、いつの間にかアトゥルムから受けていた圧力が消えていた。

 一体、何がどうなったのか? 私は目を一杯に開いて前を見た。すると、私の視界に見慣れた光景が飛び込んだ。


 大渦だらけの空と、燃え盛る森、そして――海と錯覚するほど広大な湖。

 湖は、魔王城前の湖だ。それが目に入った瞬間、私の脳内に()()()()()が閃いた。


 アトゥルムを突き抜けたっ!


 私と来寿様は空中に放り出されていた。互いの体を抱きながら滑空している。この状態から後ろを振り向いたなら、アトゥルムの体に開いた大穴を確認できるだろう。しかし、それを実行することは難しい。


 私達が空中遊泳に興じた時間は、存外に短い。飛んでいると実感したとき、私達の体は重力という名の枷に捕まっていた。

 私達は抗う間も与えられず、湖面に落下した。


 結婚したばかり(錯覚)で入水。何という過酷な運命だろう。私達は、容赦無く湖底に引きずり込まれた。


 冷たい水の感覚が、私の全身を包んでいく。火照った心と体が、急激に冷やされていく。その感覚が、私から思考能力を奪った。


 ああ、とても――眠い。


 今の私は、とっくに限界を超えている。ベッドに倒れたならば、直ぐに寝てしまうだろう。その可能性を想像しながら、私は寝心地の良い場所を求めて来寿様の体に縋り付いた。


 ああ、暖かい。


 来寿様と接触した箇所から体温が伝わってくる。「ここに来寿様がいる」という確かな感触。それを意識した瞬間、私の緊張の糸が切れた。


 ああ、来寿様。来寿様。


 私は、心中で何度も来寿様の名前を呼んだ。私にとって、最高の癒しの呪文だ。それを唱えていると、私の視界がドンドン真っ黒に染まっていく。終には黒一色になった。すると、声を出せなくなった。

 一体、何が起こったのか? 考えることはできなかった。


 私は――意識を失っていた。

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