第七十四話 魔王城防護幕
ドラゴンとの決戦の場をどこにするのか? 以前話し合った。その結論は、既に出ている。
封印魔王城。即ち現在地である。
魔王城には対ドラゴン戦の用意が有る。十分とはいくまい。だが、思い付く限り頑張ったつもりだ。これを放棄して、別の場所で迎え撃つなど有りえん。
魔王軍《私達》は諸々の装置を起動、活用する為、それぞれの持ち場に向かって走っていた。
松竹梅と蹄鉄は、揃って魔王城外に出た。
私、来寿様、初夢トリオは、城の屋上へと向かっている。
魔王城の屋上に向かうには、一旦、城内菜園に入る必要が有る。そこには屋上に続く鋼鉄製の梯子が有るのだ。
先ず、来寿様が梯子に飛び付いた。猿の如き速度で駆け上がっていく。その後に、私、初夢達と続く。
私が梯子に手を掛けたとき、既に来寿様は屋上に飛び出していた。その行為を目の当たりにして、私も「こうしておられん」と、「急いで梯子を上がった。
来寿様に遅れること三分ほど。下から富士子にせっつかれながら、私も屋上へと飛び出した。その瞬間、私の視界が新緑で埋め尽くされた。
魔王城の屋上は、樹木の葉っぱで溢れ返っている。
築城の際、周辺に生えていた樹木を丸ごと用いたが故である。しかし、葉っぱばかりと言う訳ではない。
屋上の中心部分は、樹木がバッサリ駆られて更地然となっている。その中心には一基の砲台が有った。
真銀弾射出装置。後に「魔王砲」と呼ばれる超兵器だ。私が造った。えっへん。
前作は、活躍することなく破壊された。その汚名を雪ぐ為にも、今作には期待したい。尤も、その役目を担う者は。私ではない。
砲台に向かっているのは、黄金の女子三人組。初夢トリオだけだ。装置の操作は、彼女達の担当なのだ。
私、及び来寿様は別の役目を担っている。尤も、現状ではどちらも待機である。だからと言って、暇を持て余したり、茫洋と立ち尽くしたりする気など毛頭無い。
私も、来寿様も、屋上に生い茂る樹木に上っていた。それぞれ葉っぱの上から顔を出して、周囲の様子を確認している。その際、私は地上の方を見ていた。
私の視界には、金と黒の人影が映っている。
金は松竹梅、黒は蹄鉄。それぞれ魔王城の周囲に散開していた。
松太郎は魔王城北東。
竹次郎は南東。
梅三郎は南西。
蹄鉄は北西。
それぞれの距離は百メートルほど開いている。
魔王城を囲む四隅。そこに、何が有るのか?
人形達の足下には、全長百メートル超の長大な物体が有った。
鋼鉄製の巨柱。それは、魔王城を囲む四隅から同じ向き、南北に横たわっている。当然ながら只の柱ではない。
巨柱の一端、人形達の足下側にはハンドル付きの巨大な糸車がくっ付いている。そこに巻かれた糸は、鋼鉄製のワイヤーである。
ワイヤーは、人形達の反対側、巨柱の先端まで伸びている。その先には一層大きな白銀の幕がくっ付いていた。
白銀幕は、それなりに大きい。巨柱を頂点として、百平方メートルもある。魔王城をスッポリ覆うことができる。
巨柱と、その先に付いた巨大幕。一体、これらは何なのか? その正体が、今から人形達の手によって明かされる。
地上の人形達は、それぞれが担当する糸車(ワイヤー車)のハンドルを回した。
ハンドルを回す度に、ワイヤーが巻き取られていく。
ワイヤーに合わせて、巨柱の先端が持ち上がっていく。
柱の先に付いた巨大幕も、一緒に上昇していく。
最終的に、巨柱は地面に直立した。それに伴って、巨大幕が魔王城の上空に翻った。
魔王城は巨大幕に覆われた。城に天幕が付いたのだ。当然ながら、屋上の私達も幕の影に入っている。この場で雨に打たれても大丈夫。
しかし、当然ながら、これは雨を防ぐ手段ではない。雨より、もっと厄介なものを防ぐ為のものだ。それが何なのかは言わずもがなだろう。
この天幕を含めた機構の名前は「魔王城防護幕」という。
真銀のワイヤーで編んだ網に、アラクネ糸の幕を被せた。これだけでも、それなりに役に立ってくれるはず。
しかし、これは魔王の作品である。常人の想像を超える工夫、魔法の機構が有って然るべき。それは、防護幕を見詰める私の視界に映っていた。
防護幕の中心から、屋上に向かって一本のワイヤーが垂れ下がっている。その名を「魔力、及び魔法伝達糸」という。分かり易さを重視して命名した。
その際、来寿様から「まんまだな」と突っ込まれている。それを言われた際、私の眉根は一寸歪んだ。
まあ、それはそれとして。今は行動有るのみ。
私は伝達糸に向かって走った。そこに辿り着くや否や、右手を伸ばして掴んだ。これで、私が担う最初の役目の準備が完了した。
私が伝達糸に魔力を込めたり、魔法の呪文を唱えたりすることで、防護幕全体に効果を及ぼす。防護幕には、それができる機構を施した。私には、それができる能力が有る。凄いだろう? えっへん。
敵が物理攻撃を仕掛けて来たならば、物理防御力を上げる魔法で対抗する。魔法攻撃ならば魔法防御力。炎であれば氷の魔法。幽世からの攻撃であれば――浄化魔法だ。
さて、アトゥルムはどうする? 何でくる?
私はアトゥルムの初檄に全神経を集中した。ワイヤーを握る右手に汗が滲んだ。それを拭こうかと考えた。
その直後、私の視界に真っ黒い何かが飛び込んできた。
それは、アトゥルムが吐いた炎、冥府の業火だった。




