表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王と侍の封印生活 The Survivors  作者: 霜月立冬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
70/108

第六十九話 哄笑する魔王

 魔王の森のその奥に、真円を描く広場が有る。その中心に、長さ十五メートルの砲身を持つ砲台が有った。

 その砲台が放つ弾は、世界的に希少な真銀(ミスリル)製である。これは世界に類を見ない兵器である。その名も「真銀弾射出装置」。

 当然ながら、その威力も破格、超次元にして絶対無敵。如何なる魔物も一撃で粉砕する。そのはずだった。

 ところが、真銀団射出装置は、たった今破壊された。


 折れ曲がった砲身に、黄土色の山がそびえ立っていた。その山は、何と()から降ってきたのだ。

 その山の名前(種族名)は飛竜。魔物だ。それも、常軌を逸した化け物である。


 飛竜の全長、及び全幅は二十メートル超。体重も、それなりに重い。直上からの急降下攻撃を受けて、射出装置の砲身はご覧の有り様である。何てこったい。

 この私、魔王ウィルミア・デストランドの傑作品、真銀弾射出装置が、日の目を見ずに台無しにされた。


 許す訳にはいくまい。絶対に、許さん。


 私は激怒した。今直ぐ報復したい衝動に駆られた。幸いにして、下手人は直ぐ目の前にいる。角の生えた刺々しい顔が、私の視界一杯に映っている。

 私がその気になれば、飛竜の高慢ちきな顔を滅茶苦茶にできる。してやりたい。

 しかし、私は動かなかった。いや、ここは先を越されたというべきか。


 私の周りにいた魔王軍の精鋭達が、既に攻撃を開始していた。

 来寿(ライス)様も、人形(ゴーレム)達も、飛竜と対峙するや否や一斉に抜刀。我先にと飛竜に飛び掛かっていく。


 蛮勇である。無謀である。来寿様達の姿を遠目に見れば、象に挑む(のみ)だろう。敵う訳がない。誰もがそう思う。

 しかし、魔王軍の精鋭は例外中の例外。普通の蚤とは次元が違うのだ。


 来寿様達が振るう虹色の打刀が、飛竜の鱗を割り裂いた。その下に潜んでいた肉まで容赦なく抉っていく。その現実は、飛竜にとっては計算外の出来事だろう。


 飛竜の鱗は真銀製である。これを破壊することは、普通の武器では不可能だ。唯一の例外は、同じ真銀製の武器だろう。その例外が、魔王軍の手中に有った。


 魔王軍の打刀は、来寿様のもの以外、全て真銀製だ。その上、それぞれの刀身には女神の大魔法「鬼神の妖刀デモンローズ・カースドブレイド」が掛かっている。真銀の鱗と言えど、貫けない道理は無い。

 尤も、来寿様だけは鋼鉄製の打刀で貫いている訳だが。これには魔王()も苦笑いせざるを得ない。

 ともあれ、飛竜は魔王軍を侮った報いを受ける羽目になった。


 魔王軍の苛烈な攻撃に耐えかねて、飛竜は逃げるように後ろに飛び下がった。それを魔王軍が追い掛ける。明らかに魔王軍優勢。私は左団扇で眺めることができた。


 魔王軍は、それぞれ打刀の間合いまで詰め寄っている。続け様に打刀を振り上げた。それが当たれば、飛竜の鱗を割り、肉を抉ることができる。しかし、そうはならなかった。

 飛竜は意外に(したた)かであった。距離を取った際に窮地を脱する手段を講じていたのだ。


 飛竜の耳まで切れ上がった口が大きく開いた。その直後、凄まじい咆哮が上がった。雪崩のような大音響である。

 咆哮の衝撃で地面が揺れた。足元が覚束無(おぼつかな)い。しかし、魔王軍の精鋭達にとっては「それがどうした」である。そのまま打刀を振り下ろした。

 その刹那、飛竜の前に星が現れた。


 光の線で描かれた巨大な星。それが目に入った瞬間、私の脳内に星の正体が閃いた。それが、私の口から飛び出した。


「『五芒星(ごぼうせい)』っ!?」


 五芒星とは、女神の力を引き出す(しるし)だ。女神にかかわる魔法が発動したのだ。

 それがどんなものかと考えると、真っ先に女神の大魔法を想起した。その直感は、大当たりだった。


 来寿様達が振り下ろした打刀が、全て勢い良く弾かれた。

 一体、何が起こったのか? 来寿様も、人形達も、訳が分からず首を捻っている。しかし、この場で唯一人、現況の理由を理解する者がいた。


 魔王ウィルミア・デストランド。即ち、私だ。

 私の脳内には、飛竜が唱えたであろう魔法の名称が閃いていた。


 女神の大魔法「究極魔法防御アルティメット・マジックデイフェンス」。その名の通り、あらゆる魔法を遮断する。

 飛竜は、打刀の魔法付与エンチャントを見抜き、それを無効化したのだ。


 同じ女神の大魔法を用いたならば、その威力のほどは魔力量で決まる。

 私が掛けた魔法付与は、刀身の表面を覆うだけのもの。その程度の魔力量では、飛竜の魔法防御は突破できない。実際、皆の打刀は弾かれている。

 どうやら、魔王軍の快進撃はここまでのようだ。その事実を直感した者は、私だけではない。


 私の視界に映った飛竜の口の端が、急角度に吊り上がっている。愉快そうな笑みである。見ているだけで、私の眉間に皺が刻まれていく。このまま放置すれば、魔王軍は飛竜にやられてしまう。

 しかし、それを許さない存在が、ここに一人いる。魔王()である。


 その憎たらしい笑顔、今から凍り付かせてやる。


 私は直ぐ様女神の大魔法「魔弾豪雨マジカル・クラウドバースト」を唱えた。

 私の要請に応えて、周囲に百本の魔法の矢が現れた。その間、既に飛竜の攻撃が始まっている。


 飛竜の巨大な前脚が、来寿様達を執拗に襲う。皆、必死に躱すものの、劣勢は明らかだ。一刻も早く助けに入らねばならない。

 しかし、私は攻撃しない。私には考えが有るのだ。


 私は魔法の矢を待機させたまま、()()()()()()()()()()


 私の要請に応じて、もう百本の矢が現れた。合計二百本。しかし、未だ発射しない。私は更に魔弾豪雨を唱えた。


 私の周囲が三百本の魔法の矢で埋め尽くされた。その事実を直感した瞬間、私の口の端が邪悪に吊り上がった。


 魔王軍(私達)に楯突く愚かな飛竜よ。魔王()の力を思い知るがよい。


 私は飛竜の額に狙いを定めた。その一点に、三百本の魔法の矢を解き放った。


 膨大な、創世記に記された天の川のような光の奔流。それが、全て飛竜の額に吸い込まれていく。

 その直後、眩い光が私の視界を焼いた。


 凄まじい光の爆発。この場だけに止まらず、魔王の森全体が煌々(こうこう)と照らされている。人形達は兎も角、私や来寿様の目に毒である。

 この明るさが暫く続いたならば、失明の可能性も有っただろう。しかし、それは杞憂であった。幸いにして光は一瞬で収まった。


 私の視力は直ぐに回復した。明瞭になった視界に、刺々しい飛竜の頭が映って――いた。どうやら、飛竜は攻撃に耐えた様子。しかしながら、全く無傷ではない。


 魔法の矢が当たった個所は、ものの見事に禿げ上がっていた。鱗が全く無くなっている。その様子を目の当たりにして、私の口が一層邪悪に吊り上がった。


 おおっ、アレを耐えるとは凄い。流石は飛竜。


 私は、内心で敵に拍手喝采した。それに応えるように、飛竜は「ふんす」と大きな鼻息を吐いた。実に気に入らない。

 しかし、私の口の端は吊り上がったままだ。


 私は笑顔を浮かべながら、女神の大魔法を唱えた。


天帝の雷霆(ゼウスズ・ケラウノス)


 私の頭上から雷光が飛び出した。雷光は、飛竜の頭目掛けて突っ込んでいく。

 亜光速の雷光である。飛竜に躱す時間は全く無い。狙い違わず、私が放った雷光は()()()()()()に命中した。

 飛竜に耐える手段は無い。既に私が根こそぎ奪っている。

 結果、飛竜の頭部が木っ端微塵に吹き飛んだ。飛竜の最期である。


 飛竜の肉片が空を舞う。その様子は、私の視界にバッチリ映っている。それを見るや否や、私は大きく踏ん反り返った。続け様に口を開いて――


「がははははははっ!」


 下品な笑い声を上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ