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魔王と侍の封印生活 The Survivors  作者: 霜月立冬


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第六十七話 飛竜、再来す

 私、ウィルミア・デストランドは調子に乗っていた。ノリノリである。

 真銀の鱗を持つ魔物を倒す手段を編み出したことは、私の気分をこの上なく高揚させている。村正への魔法付与「鬼神の妖刀デモンローズ・カースドブレイド」の量も増すというもの。しかし、私の勢いは止まらない、止まらない。

 何か閃く度、余計な仕事に手を出した。新たな防具を閃いたので、それを造ってしまった。


 今回造ってみたものは、体の部位毎の各種防具である。

 鎧と同じく、革製のものに真銀の装甲を張り付けている。しかし、単なる二番煎じではない。それぞれに工夫を凝らしている。


 先ず、顔防具を造った。

 アラクネ糸で編んだ鉢巻きに、真銀の額当(ひたいあて)を取り付けた。更に、追加で真銀の面頬(めんぽ)(アシハラの顔防具)を造っている。

 面頬に関しては、様々な魔物の口をイメージした奇怪な意匠にしてみた。これが、魔王軍各位に大受けした。

 それぞれのお気に入りのものを選んで、それを毎日のように付けている。

 これで魔王軍内の私の地位も向上しただろう。実に有意義な仕事をした。これに気を良くして、更なる防具制作に取り掛かった。


 次に、腕防具を造ってみた。

 ケルベロスなどの革グローブに、真銀の手甲を張り付けた。

 この雛型ができ次第、私は来寿様に見せた。すると、来寿様は「概ね満足」と褒めながら、注文を一つ出した。


「柄に直接触れる部分は、できれば剥き出しで」


 私はグローブに更なる改良を加えた。指先と掌部分を切り取ったのだ。

 これには来寿様も大変満足した様子。これをお渡しした際、「流石だな」とお褒めの言葉を賜っている。私の調子は鰻登りである。その勢いのまま、私は別の防具に手を出した。


 これが最後、脚防具。

 ケルベロスなどの革ブーツに、真銀の足甲を張り付けた。更に接地部分(本底)にも真銀を張り付けている。

 足の裏に魔力を浸透させることで、運動能力の更なる底上げを企図したものだ。

 この雛型を来寿様に見せたところ、またしても来巣様から注文が出た。


「踏ん張りが利いたり、木登りができたりする工夫が有れば、尚良い」


 私はブーツの本底に工夫を施した。底に鮫の歯のような鋭い溝を付けたのだ。

 これには来寿様も大変満足した様子。これをお渡した際、「かたじけない」と頭を下げられた。その反応を見て、私は思い切り胸を張っている。えっへん、えっへん。


 思い付きで行った仕事は、どれも好評であった。私自身、大変満足している。しかしながら、「これで終わっても良い」とは微塵も思わない。そもそも、これらはほんの手慰み。余計な仕事なのだ。

 私には、今の内にやっておかなければならない大きな仕事が残っている。


 人形(ゴーレム)達の新しい体の製造、及び対ドラゴン用武器の製作である。実のところ、この二つに関しては、既に雛型が完成している。


 人形達の方は、人数分揃ってから魔石を移籍するよう考えている。しかしながら、何か閃く度に(いじ)っている為、今暫く時間が掛かりそうだ。


 武器の方は、既に何度か試運転も行っている。後は実戦で試すのみである。

 その機会は、存外に速く巡ってきた。


 或る日の昼下がり。

 私と来寿様は、城の中央広間で人形達に茶を振舞われていた。

 人形達が淹れた茶は、城内庭園で造った薬草茶(ハーブティ)である。使用している茶葉は、私自身が拘って選び抜いた逸品である。当然、美味。

 お茶が美味しい上に、普段生意気な人形達に(かしず)かれて――大変満足。私の鼻がグングン伸びていく。満足、満足。

 尤も、隣に来寿様がいるだけで、私はこの上なく幸せな訳だが。


 ああ、こんな時間がいつまでも続けば良い。


 私は永遠を望んだ。しかし、その思考は創世記でいうところの「フラグ」であった。

 私が夢見た瞬間、無粋な闖入者(ちんにゅうしゃ)が現れた。


 突然、城内にけたたましい音が鳴り響いた。魔物の接近を知らせる警報である。しかも、城を揺るがすほどの大音響。普段聞いている音の倍以上。間違いなく強敵である。

 しかし、私も、皆も、全く平静だ。それどころか――


「「「「「ふっふっふっふっふ」」」」」


 皆、口の端を吊り上げて笑っていた。当然ながら、私も笑っている。しかし、快活な笑みではない。どちらかと言えば邪悪である。その表情の理由が、私の脳内に閃いていた。


 私の新魔法を試す機会が来た。


 侵入者は飛竜、或いは飛竜と同等の魔物だろう。あんなものが複数いるという事実は厄介である。

 しかし、私も、皆も、奴らとの対戦を希求している。その為に、準備万端整えたのだ。それらを披露する機会が、たった今訪れた。

 皆、一日千秋の想いで待っていた。私も、今直ぐにでも外に飛び出していきたい。しかし、私は衝動を堪えた。敢えて優雅に振舞った。


 私は魔王ウィルミア・デストランド。魔王軍の司令官である。真っ先に飛び出しては威厳が損なわれる。


 城が揺れる中、私はカップに入った茶をシッカリ飲み干した。

 空になったカップは卓上に置いた。続け様に、ユックリ腰を上げて立ち上がる。そのまま北壁の方へと移動開始。

 揺れる床をものともせず、優雅に歩いて北壁に到達。そこに取り付けられた「警報」と書かれた札に向かって「停止」と念じた。


 魔王城を揺らした騒音が収まった。当然、城の揺れも収まっている。その事実を直感したところで、私は悠然とに振り向いて、続けざまに大声を上げた。


「皆の者、戦闘準備に取り掛かれっ!」


 私は出撃命令を下した。しかし、ここで予想外の事態に陥った。

 有ろうことか誰も私の声を聞いていないのだ。その事実は、円卓付近の光景が目に入った瞬間理解できた。


 円卓、いや、中央広間の中は、私以外誰もいなくなっていた。

 

 皆、既に出撃準備に取り掛かっている。私だけが、この場に取り残されている。

 その事実を直感した瞬間、私の口が山形に曲がった。地団駄も踏んだ。しかし、呑気に悔しがっている場合ではない。

 私もまた、皆に遅れるなとばかりに、急いで戦闘準備に取り掛かった。

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