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魔王と侍の封印生活 The Survivors  作者: 霜月立冬


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第六十六話 収束する豪雨

天帝の雷霆(ゼウスズ・ケラウノス)っ!」


 石、氷、炭。様々な樹木が並ぶ魔王の森に、天上の美声が響き渡る。木霊のように何度も。

 その声が上がる度、森の木々が薙ぎ倒されていく。理不尽な森林破壊である。

 天災か? 或いは人災か? 誰の仕業かと考えると、真っ先に自分の顔が閃く。


 私、ウィルミア・デストランドは、森の中で新魔法の開発に励んでいる。今の私の日課である。


 修行を始めて一週間ほど経っているだろう。しかし、未だ成果は出せていない。今のところ、(いたずら)に森林破壊を繰り返しているだけだ。

 成果が出ないのに、被害ばかりが増えていく。現実とは、かくも非情なものなのか? 現況を目の当たりにする度、私の口から盛大な溜息が漏れていく。

 これを繰り返した果てに、望む結果は得られるのか? 正直、分からない。そもそも、私が成そうとしていることは、人知を超えた神域に踏み込んでいる。


 女神しか使えないと言われる大魔法の改良。


 軽々に叶う望みではない。少し前まで、私も「人間()には不可能だ」と思っていた。

 しかし、今の私は違う。既に努力の方向性は見えている。


「魔法を一点に集中して、破壊力を上げる」


 現在、私の望みが叶う魔法を探して、様々な攻撃呪文を試しているところだ。その中で、一番期待しているものは「天帝の雷霆」であった。

 しかし、何度やっても失敗する。


 天帝の雷霆は、発動から効果が出る時間が余りに短い。唱え終わるや否や、対象目掛けて亜光速で突っ込んでしまう。これでは手を加える暇が無い。


 呪文自体を(いじ)るべきか? 或いは別の魔法を試すべきか? 私は後者を選択した。

 この世界(封印世界)に来て、私が使用した攻撃魔法は、天帝の雷霆を含めて全部で三つ。


 先ず、絶対零度の吹雪アブソリュートゼロ・ブリザードを試した。これは、広範囲に拡散する魔法だ。

 しかし、結論から言ってしまえば無意味である。一点集中したとて、絶対零度以下の温度にはならない。不適だ。


 次に、風の支配者の竜巻エンリルズ・トルネードを試した。これは、対象を巻き込んで破壊する魔法だ。

 しかし、これも無意味である。一点集中したならば、巻き込めるものも巻き込めなくなるのだ。

 私が使っていた魔法の中に、私の望みを叶えるものは無いようだ。


「うむむ」


 私は考えた。自分が使える魔法を片っ端から想起した。その中に、「これだ」と閃くものが有った。

 灯台下暮らし(創世記由来の諺)。()()は私の半生で最も多く使用していた魔法だった。それが私の口を衝いて出た。


「『魔弾豪雨マジカル・クラウドバースト』だっ」


 魔弾豪雨。百本の魔術の矢(マジックミサイル)を放つ魔法である。攻撃魔法の種別では、対集団の範囲攻撃魔法になる。


 因みに、魔法の矢とは一般魔術師の必殺(確殺)魔法である。元の世界(ネフィリム)に存在する生き物で、これに耐えられる者はいない。食らえば絶命は必至。その事実は、私も良く知っている。デストランドにいた頃、他国の騎士団や魔物の集団相手に何度も使用している。

 私の手垢に(まみ)れた魔法だ。赤子の手を捻るより簡単に放てる。しかし、それも元の世界(ネフィリム)での話だ。


 この世界(封印世界)に来て以降、魔弾豪雨の出番は全く無かった。そもそも、集団と対戦したことが無いのだ。その為、その存在を忘れていた。しかし、たった今思い出した。

 百本の矢を一点に集中する。至難の業である。しかし、やってみる価値は有る。

 私は直ぐ様魔弾豪雨を唱えた。


 私の要請に応えて、周囲に百を数える魔法の矢が発生した。しかし、直ぐに発射はしない。

 私は矢を(つが)えたまま、標的を求めて前を見た。すると、私の視界に焼け焦げた樹木群が映った。


 天帝の雷霆が残した大きな傷跡である。その中に、一本だけ石の樹木が残っていた。

 幸運な樹木である。しかし、その幸運もここまでだ。

 私は樹木に向かっ魔法の矢を全弾発射した。


 百本の矢は、私が念じた対象に向かって吸い込まれていく。それらが樹木の幹に接触した瞬間、森を揺るがすほどの爆裂音が響き渡った。それと同時に、土煙が舞い上がった。邪魔だ。視界の妨げになる。

 私は口を「へ」の字に曲げながら、土煙が収まるのを待った。


 暫くして、私の視界に開けた空間が映り込んだ。見慣れた森の光景である。しかし、少し前とは印象が違っている。何故なのか? その理由は、現場を見た瞬間直感できた。


 石の樹木(標的)は、影も形も無くなっていた。その代わり、付近に石の破片が飛び散っている。その光景を、私は瞠目(どうもく)したままジッと見詰めた。

 一体、何が起こったのか? 考えるまでも無い。


 時間が経つほどに、私の口の端が勝手に吊り上がっていく。それが限界まで吊り上がったところで、私の口が大きく開いた。


「がはははっ!」


 私は哄笑した。我ながら下品な笑い方だと思う。いい加減、治したいとは思う。しかし、今はこれで良い。これで良いのだ。

 今は、愉快痛快豪快に笑って良い場面だ。


 笑って、笑って、一頻(ひとしき)り笑った後、私は両拳を頭上に突き上げた。


「やったぞっ!」


 私は全身で喜びを表現すべく、創世記に出てくる勝利の姿勢「ガッツ石松ポーズ」を決めた。


 終に、私は真銀の鱗を破る魔法を得た。これを使い(こな)し、更なる改良を加えて、来たるべきドラゴンとの決戦に備えようではないか。がはははっ。

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